scene12 じゃんけんとシャンプーと後悔と

文字数 2,007文字

 洗濯は山本さんにしてもらいたいと、改めてお願いをしました。
 
 もちろん、丁寧に誤解を解くことがメインではあったわけだけど。

 そんな目的で洗濯なんかしないと力説したりして。
 
「高校生の男の子なのに?ですか?」
 と、無邪気で直球な返答を重ねて頂きましたが、どうにかわかってもらった。
 
 その後、山本さんは納得すると、
「あの、その、失礼しました。……とんだ早とちりをしてしまいましたっ」
 なんて恥ずかしがって、顔をみるみるうちに赤く染めてしまった。
 
 慌てふためき何度も頭を下げる。
 
「かえってわたしの方が、はしたない女の子だと思われてしまいました」
 
「いや、僕の方が女の子というものを意識してなかったのが悪いと思います」
 
「そんな、そんな、わたしが一方的に間違っていたわけで」
 
「山本さんは悪くないですよ」
 
 お互いが相手の非ではなく、自分の方に責任を寄せる。
 
 一気に加速し膨張した譲り合いも徐々にクールダウンをする。
 
 一瞬、二人の間になめらかな空気がおかれ言葉をなくすと、二人して笑いあってしまった。
 
「洗濯はわたしがしますね」
「はい、お願いします」
 改めて一件落着。
 
 と、山本さんが横を見てつぶやいた。
「……ゆーとさんがそういう方面をお望みなら、そういうこともありかもと思ってしまいました」
 
 いや、……ん?いや、いやいや??
 なに?ん?僕の誤解は解けてない?のか?
 
 僕は聞こえないふりをして、
「では洗濯は山本さんでお願いします」
 と、強引に話を締めたのでした。
 
 さて、次だ。
 
 続いても、なかなか大きい山に挑戦する。
 
「それで、お風呂なのですが、山本さんは先に入りたいですか?後に入りたいですか?」
 
 ここは話を慎重に進めたい。
 議題が議題だけに周りには落とし穴がいっぱいある。
 せっかく登った山を転落する危険が潜んでいる。
 
 気をつかって提案して失敗するより、山本さんの意思を最初から教えてもらおうと、僕は考えたのだ。
 
「わたしはどちらでもいいですよー」
 との返答。
 
 いちばん困るやつが返ってきた。
 
 女の子のお風呂。先と後とどちらが良いのだろう?お客様なので一番風呂?でもその残り湯に浸かる高校生男子とかの発想になると山本さんが後の方が良いのか?しかし先入ってもらうと脱いだ衣服が脱衣所にあるかもしれないし。
 
 思考がぐるぐると一か所を中心として巡る。
 なかなか難問だ。

 僕がどっぷりと一人の世界に囚われていると
「ゆーとさん、じゃんけん!」
 山本さんが声を張った。
 
「じゃんけんで決めましょうよ、ね?」
 
 良いかも。
 ここで僕が負ければ、山本さんが先か後か好きな方を決めてくれるだろうし。

 ……ん?じゃあなに?勝ったら僕が決めないといけなくなるのか?
 
「勝ったほうが先、負けたほうが後ということでどうですか?」
 と、山本さんは首を右側に傾ける。
 
 お、なるほど。
 愚かだな、僕は。
 
「ふむ。そうしましょう。では」

 早速二人で身構え実行に移す。

「「じゃーんけーーん、ぽんっ!」」

 一瞬流れる懐かしい感情。
 でも、それはほんの一瞬で。
 感傷に引きずられる時間もなく、結果はすぐ出る。

 僕がチョキ。山本さんがパー。
 僕が先ということで決着がついた。
 
 ……勝ってしまった。
 なんというミス。
 こんなところで、勝ち運を使ってしまった。

 山本さんは広げた自分の手を見る。
「負けてしまいました。ゆーとさんがお先でお願いします」
 と、僕の眼の前にもその手を出して見せる。
 
 女の子の手は小さいなと見入ってしまう。
 だから僕はちょっと遅れてでの返答になってしまった。

「わかりました、僕が先で」

 山本さんはその微妙な間に気をつかってくれ
「ひょっとして、ゆーとさん、後がお望みでしたか?」
 と、首をかしげた。

 その言葉で、先ほど頭を巡っていた後ならでは体験する事を思い返してしまう。

「や、山本さん、大丈夫ですよ。その、じゃんけんの結果ですし」

 実際にはやましいことは何もしてないのに動機が激しくなり、何となく後ろめたい気持ちが頭をもたげ、あたふたしてしまう。
 
「ゆーとさん、わたし、どっちでも構いませんよ?」
「いえ、大丈夫です。お気づかいありがとうございます」

 納得してくれたのか山本さんは人懐こい笑顔を浮かべた。

 そして、
「えへへー。日本のお風呂楽しみですっ」
 と、くるっと後ろへ身体を回した。

 ちょっと遅れ気味に、サラサラとした髪の毛が山本さんの動きに追従し動いた。






 僕は、山本さんのシャンプーを買い忘れたことに気づき、ちょっと後悔した。
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