scene35 :『無邪気』って『爆弾』っていう意味ありますか?

文字数 1,779文字

 ガタガタと四つ机の合わせ昼食の準備を行う。
 
 授業はもう通常プログラム。
 時間割には夏休みの余韻なんかはないらしい。
 
 集まったメンバーは、右前に大介、その隣に知香、そして僕の左には山本さん。
 それぞれが各自の机の上に弁当を広げた。
 
 うちの学校は購買もあり調理パンなども販売している。
 生徒たちの間の一番人気は焼きぞばパンだ。
 高校生たるもの炭水化物とは昼間っから親密なのだ。
 
「あれ?ひょっとして、同じお弁当?」
 大介が僕と山本さんの弁当を見比べる。
 
「はい。わたしが作ったので美味しいかは不安ですが」
 山本さんが答える。
 
「いやいや、きっと美味しいよ」
 大介の良い奴っぷりは健在だ。
「でもさ……」
 と、少し顔を曇らせる。
「同じなのはバレないようにした方が良いんじゃないか?」
 
「あ、すみません。わたしと同じお弁当だと恥ずかしいですかね」
 山本さんがあわあわと応えた。
 
「いや、そうじゃなくてさ」
 大介は神妙な顔つきのまま、
「一緒に住んでいるのは内緒なんだろう?」 
 と、続けた。
 
「「あ」」
 僕と山本さんの声が重なった。
 
 確かに僕は「申し訳ないな」という気持ちはあったもののそこまで頭が回ってなかった。
 見ると山本さんが少し困ったような顔をしている。
 
「とかね」
 大介は片側の頬をあげて軽く笑う。
「どうせ、優人はちゃんと対策考えてるんだろけど」
 と、僕を見て、
「だろ?」
 ダメ押しをしてきた。
 
 そうだよな。
 いつもだったらそれくらい考えている。
 何より山本さんに心配させるのはよくない。
 
「ふむ」
 僕は何喰わない顔で大介の言葉を引き取る。
 とはいえ、頭の中はフル回転だ。
「まあ、僕は普段から弁当派だしな」
 経済的な事情が大きいけど。
 
「そうだ!」
 知香らしく元気な声を出す。
「それなら、優人が作ってることにすればいいんじゃない?」
 
「僕が?山本さんの?」
 うん?
 上を見上げその設定を念のため想像してみる。
 ……うん。
「それって、山本さんが作ってくれているのと何も変わってないだろ」
 
「そっか」
 知香はあっさり自分の意見を取り下げる。
 
「とりあえず、食べながら考えようぜ」
 僕は話をそらしつつ、作ってくれた弁当に箸をおろす。
 
 今日のお弁当は彩りも鮮やかだ。
 僕が作ってもこんな感じには到底ならない。
 卵焼きの黄色、ブロッコリーは緑、プチトマトの赤。
 メインは豚肉の生姜焼き。
 
 生姜焼きを口に入れ白いご飯で追いかける。
 もちろん、美味い。
 
「美味しいですか?」
 山本さんが訊いてくる。
 
「もちろんです。美味いですよ」
 僕はほぼ先ほど思った通りの感想を素直に答える。
 
「よかったですー」
 山本さんの表情がほころぶ。
 
「いいなあ、美味しそう。一口食べていい?」
 知香が僕の弁当を見ながら訊いてくる。
 
「ああ、いいよ」
 僕は弁当箱を知香の前に差し出す。
 
「いただきまーす」
 知香も生姜焼き狙いだ。
 
 山本さんも僕の差し出した弁当を見ている。
 
 知香は遠慮してなのか少量を箸で取ると口へ運んだ。
「おいしー」
 と、左手で頬をさすると、
「お料理上手なんだねー」
 と、山本さんを見た。
 
 山本さんは
「え、あ、良かったですー」
 そう答えると合わせるように笑った。
 
 ちょっとぎこちなく見えたけど、美味しいかどうか緊張してたのかな。
 
「しかしなあ、どうしたもんかね」
 大介が唐揚げを頬張りながら話を元に戻してくる。
 
「うーん」
 知香はうなりながらも自らのハンバーグを食べている。
 
 僕らの間を天使が通り、それぞれが弁当を食べながら宙を見る。
 
「ふむ」
 
「え!山本さん?」
 知香が大きな声を出した。
「それって優人の真似?」
 
「え?わたし何かゆーとさんの真似をしましたか?」
 山本さんはきょとんとした顔。
  
「だって、優人の口癖じゃない。『ふむ』だなんて」
 知香が楽しそうに山本さんにじゃれる。
 
 山本さんが顔を赤くして、じっと僕を見る。
 
 いや、その……。
 じっと見られても。
 ねえ……。
 
「わたしの……」
 山本さんが僕を見ながら話しだす。 
「わたしの中に、ゆーとさんがちょっとだけ入ってきちゃいました」
 
 って!
 何?
 どういうことですか!?
 
 
 
 
 山本さーんっ!
 無邪気には際限ないんですか?
 まだ真昼間ですよ!!!
 ……っていうか、夜でもなしですよ!!!!
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