scene27 ファミレスの有名人

文字数 2,455文字

「じゃあ、宇宙人話はここでおしまいにするかあ」
 なんて言いつつ、僕は伸びをしながら、
「でも、聞かないと後悔するかもよ」
 と、フックを残してみる。
 
 しかし大介は、
「いいよから、話せよ」
 と、興味なさそうだ。
 
「本当に?」
 僕はせっかく思いついた話なのでもう一度確認する。
 
 だけど、
「ああ」
 と、大介の返答は短く早い。
 
「ふむ。なるほど」
 仕方なくあきらめて、僕は色の薄くなったアイスコーヒーをすすった。
 
 僕と大介のやりとりをみていた知香が、
「ね?優人って、ひねくれていて面倒臭い奴でしょ?」
 と、山本さんに話を向けた。
 
 山本さんはその言葉に、
「ゆーとさんって……、ゆーとさんって……」
 横の僕を見ながら話す。
「頭良いんですねー!」
 
 知香は咳き込み、大介の頬杖はずれた。
 
「何を聞いていたの、山本さん?」
 知香は胸をたたき落ち着かせながら、呆れ口調で山本さんに話す。
   
 山本さんは意に介せず、
「だって、わたし、ゆーとさんのお話、なるほどーって思いましたよ」
 と、真剣な顔でうなずきながら返す。
「地球人だけ特別じゃない。ですよねー。だからこそ宇宙人さんと仲良くしなきゃですよ。はい」
 後ろの窓からの光を、髪からキラキラとこぼれさせながら、山本さんは笑顔になった。
 
「ほら、山本さんもこう言ってることだし」
 僕も再度チャレンジしようと調子に乗る。
「だから、そもそも宇宙人というのは、」
 と、話を元に戻そうとすると、
「優人……。話を前に進めてくれ」
 と、大介が押し殺した声で遮られてしまった。
 
 仕方ない。
 
「ふむ……。了解」
 
 わかった。わかりました。
 そろそろきちんと話しましょう。
 
 僕は小声で話し出す。
「学校のみんなには内緒で頼むな」
 
 四人の顔が自然とテーブルの中央に集まる。
「朝、知香には学校に行く途中で話したんだけど」 
 僕の声は更に小さくなる。
「実は今、山本さんと住んでいるんだよ」
 
 途端。
 
「なにーーーぃっ!」
 大介が声をはりあげた。
「声、大きすぎぃっ!」
 と、すぐさま、知香が大介の肩を叩いた。
 
「お前ら二人とも声でかいわっ!」 
 僕も思わず声を張り上げてしまう。
 
 慌てて周囲を気にすると、案の定店員さんと目が合ってしまった。
 ……すみません。
 
 大介のこのリアクション。
 やっぱり”一緒に住んでいる”に引っかかるよなあ。
 空気作りの前説は、全部話せていても見当違いだったかも。
 机上の空論でした。
 上の空で机を論じてました。
 一生懸命考えたんだけどなあ、残念。
 若さゆえの失敗と認められる程、僕はまだ若さを通り越していないけど。
 
 大介が更に身を乗り出してくる。
「どういうことだ?いつからだ?」
 
「あのな、質問は一会話に一つだけにしてくれ」
 僕は大介を落ち着かせるべく、整理を試みた。
 
 しかし大介のテンポは変わらない。
「いつからそんな関係なんだよ?」
 と、前のめりに訊いてくる。
 
 ふむ。
 
「質問が一つにはなっているが、答えは二つ必要じゃないか。まずいつからかというと、昨日から。そして関係はというと、誤解しているような関係ではない」
 
 僕がゆっくりと答えると、
「本当か?」
 と、大介が食い気味で反応した。
 
 大介、君は男女交際にしか興味ないのかね?
 夏休みの話も知香とのデートのネタばかりだったし。
 
 すると、知香が、
「山本さんはね、すずばあちゃんを訪ねてきたんだって」
 と、横から助け船を出してくれた。
 
「そうなんだ。手紙も持っててさ。昨日突然やって来たんだ」
 僕は知香の話に説明を添えた。
 
 ばあちゃんの性格を知っている大介は、
「そうか……そうなのか。すずばあちゃんの知り合いなのか」
 と、両腕を組んで上を見る。
 そして、
「じゃあ、確かに、親戚みたいなものなのかもな」
 と、腑に落ちたようだ。
 
 ばあちゃん、社交的だったし。
 すぐ友達作るタイプだったからなあ。
 
「だから仲良い親戚みたいなものだよ。お前が誤解しているような関係ではない」
 僕はここぞとばかりに、大介が行きがちな誤解方面を関止めする。
 
 僕の言葉を受けて、山本さんが、
「はい。ゆーとさんには、とっても良くしてもらっていますー」
 と、にっこりとした笑顔を作って会話に加わる。
 
「というわけだよ、大介」
 と、僕は、ようやく落ちついてきたこの場の雰囲気を壊さないよう話した。
 
 やれやれ、だ。
 
「とはいえ、変なことされてない?」
 と、大介がまた蒸し返してくる。
 
「確かに。男の人とだけだと、いくら優人でも心配じゃない?」
 と、知香まで便乗してきた。
 
 すると山本さんは、
「何も心配ないです。大丈夫ですー」
 と、大介と知香の顔を交互に見て、
「とても仲良くしてくれて、なにより親切です」
 と、穏やかだけどしっかりとした口調で二人に返事した。
 
 だよね。
 特に何も大丈夫だよね。
 と、ほっとする僕。
 
 山本さんは、 
「だから、昨日も幸せでした」
 と、僕を見て話を続ける。
 
 ん?
 んん?
 
「ゆーとさんは、慣れないわたしに、とても優しくしてくれましたー」
 
 んんん?
 んんんんー?
 
 大介と知香が顔を見合わせた。
 
 そして、山本さんは微笑むと、 
「初体験をたくさんしてもらいましたー」
 と嬉しそうに言った。
 
「「優人ぉっ!!??」」
 大介と知香の声が店内に響き渡った。
 
 ……確かに“初体験”の使い方を訂正してなかったよなあ。
 
 店内の視線が僕に注がれている。
 店内に僕の名前が知れ渡った。
 
 
 
 
 
 
 はい……。
 逃げも隠れもしません。
 僕が優人と申します。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み