scene28 たたな屋さんって何屋さん?

文字数 2,154文字

「まったくもう。少しは静かにしてくれよ」 
 僕は大介と知香にクレームを入れる。
 
「そうは言ったってさ、話の流れ的には優人と山本さんの……」
 大介はまだ弁解をしようとする。
 
「しつこいっつーの」
 僕は大介の言葉を途中で切る。
 
 その気持ちはわからなくもないけど、騒ぎすぎなんだよ、君たちは。
 
「……すみません」
 と、山本さんの声がした。
 “初体験”の意味を理解した山本さんは、顔を赤らめて下を向いている。
 
「山本さんは悪くないですよ」
 僕は続ける。
「山本さんは知らなかったんだから仕方ないです。大騒ぎしすぎなんですよ、こいつら」
 と、大介と知香を睨んでみる。
 
 二人が小さくなる。だから、つい言葉を上乗せしてしまう。 
「だいたい僕だって“初体験”することもあるだろうし」
 
「「あるのっ!?」」
 またもや同タイミングでの反応。
 
「だから声が大きいって」
 全くもう、こいつらは。
「今はないけど可能性はゼロじゃないだろ?」
 と、僕は当たり前のことを口にする。
 
「「山本さんと!?」」
 この二人、双子か?
 
 うぉい……。
 こいつらは本当に。
 
「あ、あの、ゆーとさん?」
 見ると、山本さんの顔が更に赤くなっている。
 
「へー。そうなんだあ」
 知香は視線をからみつけてくる。
 
「まあ優人も男ってことだよな」
 大介も便乗する。
 
「気をつけてね、山本さん」
 知香が山本さんへ言葉を重ねる。
 
 全く……。
 本当に息が合ってるよな、この二人。
 
「そういう意味で言ったわけではないと力説をしたいんだけど」
 僕は隣の山本さんだけにでも伝わればと言葉にする。
 
 僕はため息を一つ。
 
「にやにや」
「知香、“にやにや“と言葉でいうのはやめろ」
「にやにや」
「大介、お前もだっ」
 
 僕はため息をもう一つ放つ。
  
「……頼むから、僕のことは放っておいてくれ」
 と、僕はテーブルに伏せてみせた。
 
「本当、優人は注目されるの苦手よね」
 
 向かい越しの知香が、僕の頭をなでようと手を伸ばすのを察知し、起き上がって避ける。
 
「苦手も何も“平々凡々中央真ん中平均値の中央値。偏差値なら50ジャストで“、が僕のポリシーだ。とにかく目立たないように、細く長くが良いんだよ」
 僕はいつもの信条を口にする。
 
「だからといって、平均値を読んで狙いに行くってのもどうかと思うけど」
 知香が唇を尖らせながら、すかさず話を入れてくる。
 
「逆に言うと、走るのもテストも全て計算づくで手を抜いているってことだよな」
 大介も加わる。
 
 またしても二人同時の攻撃だよ。
 
「実力だよ、実力。精一杯やった結果の平凡。真ん中が僕にはふさわしいんだよ」
 僕は右手をぶらぶらと二人に振り示す。
 
「良く言うよ。俺たちの高校、結構頭いい学校なんだぜ」
 と、意地の悪そうな笑みを浮かべて大介。
 
「なおさらでしょ。だから僕は平均点くらいが精一杯なんだよ」
 僕は続ける。
「いっぱいいっぱいも、いっぱいいっぱいで、その上あっぷあっぷで、にっちもさっちもいかないんだよ」
 
「まあ、優人がそう言うんなら良いけどよ」
 大介は視線を落として、ストローで氷だけになったコップをかき回す。
 
「僕はこれで十分なんだよ。迂闊に目立ったり良い点とったりしたら、その分運を使っちゃうしな」
 万が一の時のために運はとっておきたいし。
 
「出たよ。優人ってすぐそれだな。冷めているというかさ」
 大介は知香に目配せをする。
 
「そうよね。昔はもっと熱血で頑張り屋さんだったのになあ」
 知香が受け止め間髪入れず話を繋ぐ。
 
 山本さんはというと、目を丸くしてこのやり取りをみていた。
 
「山本さん、頑張り屋さんと言っても、頑張りを売るわけではないですよ?」
 僕は念のため説明をしてみた。
 
「そうなんですか?売っている頑張りのお値段を訊くところでした」
 と、山本さんはきょとんとした表情をする。
 
「山本さん?」
 今度は知香の目が丸くなる。
 
「えへへー」
 山本さんの表情は笑顔に変わった。
「嘘です。それくらいわたしでも知っていますよー」
 
 ……山本さん、ほっこりするなあ。
 
 僕ら四人は笑顔になる。
 
 昔の話をされるのは苦手なので、僕はちょっとだけ話をずらす。
「大介は目立つの好きだもんな」
 
「そうそう。大介は目立ちたがり屋さんよね」
 思惑通り知香が乗ってきた。
 
 うん、知香。
 お前はいい奴かもな。
 
「そ。目立ちたがりだよ、俺は。だって注目されるの嬉しいじゃん?」
 と、大介が無意味に胸を張った。
 
「……僕には全く理解できないけどね」
 僕は窓の外の木漏れ日を見ながら小さく声を出す。
 
 すると山本さんが話し出した。
 
「ゆーとさんは目立たたながりなんですねー」
 
 山本さん?
 
「あれ?失敗しました?」
 と言い直す。
「ゆーとさんは目立たたな屋さんなんですねー」
 
 ……山本さん。
 
 
 
 
 
 
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