第6条 Centipede ぼっち女子大生

文字数 716文字

 僕は愛情に飢えている。

 なんてったって、惜しげもなく愛を溢れんばかりにこの僕に注いでくれた僕のパパとママは、病気に侵されて、僕が18歳の頃、まずパパが先に、そしてそのあと元々からだが弱かったママが後を追って天国へ旅立ってしまった。


 僕は残された。

 このとっても大きなお屋敷と、お庭と、そして、20匹のムカデ。

 そして、二十歳の僕。


 僕が愛を求めると、人は皆、離れていく。

 皆、賢いから「白黒」ハッキリしたお別れの方法は選ばなくて、音楽がフェードアウトするように僕を起点に距離を置いていく。

 ゆっくり歩く仙人に、いつまで経っても追いつけないでいる僕。

 それなのに、キャンパスで目があったら、挨拶だけはする。

 挨拶に付随した笑顔は、痴呆の僕にもわかる。

「作り物」だってこと。

 僕は近頃、大学を休みつつある。

 興味のある講義のときだけ出席して、食堂の端っこでYouTube見ながら醤油ラーメンをすする。

 パパとママのいないお屋敷に帰ったら、ベッドの上に寝転がって、ムカデと戯れる。


 皆、僕を毛嫌いしてる、忌避してる。

 理由は、ムカデなんかじゃない。

 僕の中にあるってこと。

 でもそれは、誰も教えてくれない。

 教えてもらえないから詳細は僕にも判りっこない。


 僕は孤独だ。

 孤独を舐めてくれるのは、20匹のムカデと、ときおりやってくる野良のムカデだけ……。

 僕の胸には、V字型の愛おしい接吻の痕がある。

 ムカデの接吻を喰らうとき、僕は痛みとオーガズムを感じる。

 唇から涎が垂れて、愛おしいムカデが僕の皮膚を駆け抜けていくとき、僕の空き瓶のような孤独は一時的に蓋をされるのだ。

 ねぇ。

 どうしたら、ちゃんと「人」と、キスができるのかな?

 …。
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