第11条 警察署

文字数 816文字

 きっと今頃、供述調書を取られているであろうときめが収容されている警察署の入り口を白田はくぐる。
 犯罪別の統計数が書かれたホワイトボードに、汚れた床、ぼろぼろのローヤーズバッグを持った初老の弁護士が刑事と立ち話をしている。
 ここは警察署だから、弁護士がたくさんいてもおかしくはない。
 白田は、雪崩れ込んでくる会話から、同業者と思われる人間を察し、彼らに挨拶していく。
「おはようございます」
「おはようございます」
 誰も、白田の容姿や白杖について、とやかく言ったりしない。
 警察官も、同業者も、被疑者も、事件の被害者も。
 自分自身に忙殺され、精一杯で、他人に構っている余裕がないのだ。
 ここはある意味、白田にとってとても心休まる場所だ。
 受付で身分証明書として、弁護士バッジを提示したあと、ついでにジャケットの左の襟に装着する。
 2階にある接見室に向かうため、白杖を真っ直ぐ縦に構える。
 そして、階段の側面に三分の一ほど沿わせるようにしながら、上っていく。
 今日の17時までに、ときめに反省文を書かさなければならない。
 形だけでも良い。
 勾留を解くために、必要なのは心からの謝罪や内省ではなく「反省文」という「物」だ。
 それでもーー。
 白田は、右手にとある本を1冊用意していた。
 表紙には、「この世から消えてしまった方が、まだマシ」と書かれている。
 壮絶なストーカー被害の末、自死を選んだ女性の遺書日記をまとめたものだ。
 ときめには、「相手側」つまり「被害者側」の視点を持って欲しいと白田は考えていた。
 内省を促すためでもある。
 しかし、最大の目的はときめに「自分は人のこころを持った人間だ」とわからせるためであった。
 人を死に追い詰めるほどのストーカーの加害者と、じぶんは、違うーーそれがわかったとき、ときめはきっとーー。
 あの子は、人のこころを持っている。
 だから、わたしが全責任を負って彼女を背負い、弁護(人権擁護)するのだーー。
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