星空を纏う海 #2

文字数 730文字


 少し歩くとすぐに海岸に着いた。

 海は凪いでいて波も穏やかだ。

 浜に降りると丁度良い岩場もあり、ふたりで座って夜空を見上げた。

 夜の海が今にも降ってきそうな星空を纏っていて、その輝きにわたしはしばらく言葉を失った。星座はまったくわからないが、星に詳しい人はここからたくさんの星座を見つけ、神話を語ることができるのだろう。

 満天の星空を眺めながら、結弦がいつもの優しい声色で静かに話し始める。

「この空を、琴音に見せたかったんだ」

「えっと……ありがと」

 付き合ってもうすぐ二年になるのに、ふたりきりで優しくされるとわたしは今でも胸の高鳴りを覚える。

 気まずい沈黙が訪れる前に、結弦は続けて話してくれた。

「なあ……琴音」

「なに? 結弦」

「バスの中で、怖い夢見たんだろ?」

 昼間の記憶が甦る。

 忘れていたわけじゃないけれど、気にしないようにはしていた。

「あのね結弦……。今日、どうして信じてくれたの?」

 少しの不安を声に混ぜて訊ねる。

「なにが?」と返す結弦の視線は空へと向けられていたが、その眼差しは星よりもどこか遠い彼方を見つめているみたい。

「あのときわたし、変なこと言ったでしょ。バスが落ちるとか、みんなを脅かすようなこと」

 きっと周りから見ても不快だったに違いない。バスの乗客全員に死の宣告をしたようなものだ。

「琴音を信じるのに、理由なんていらないよ」

 彼方を見つめたまま、結弦は少し口角を上げてそう言ってくれた。けれど、

「でも、わたしが言ったような大事故にはならなかったよ」

 事故は起きた。

 でも湖に転落はしなかった。

 あれじゃまるで、悪戯にみんなを脅かしただけだ。

「そうだね。確かに大事故になってたら困るなあ」

 結弦は星空を眺めながら、くすっと笑って続けた。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み