マンダレー② 「少女たちとの約束」
文字数 1,444文字
別の日のこと。
ニワトリのコケコッコーという鳴き声が聞こえてくる1時間くらい前に起床。
この日は、現地の女の子と標高230メートルに位置する"マンダレーヒル"へ行き、一緒に日の出を見る約束をしていた。
しかし、「約束」とは、親しくなってからするものだと思っていた私。
え?もしかして、すでに親しい間柄?
そう思うと、嬉しくして気恥ずかしくてしかたがなかった。
知り合って1日しか経っていないのに、ミャンマーの女の子たちは別れ際に「楽しみだね」とあふれんばかりの純粋な気持ちを満面の笑顔で示してくれた。
言語の壁にもどかしさはつきものだが、それをぶち破ろうとしてくれる熱意と誠実さが感じられて胸がいっぱいになった。
だからこそ、絶対に遅刻だけはしたくなかった。
26時間の移動で寝不足にもかかわらず、この日はいつも早起きの兄を私が起こした。
ひとまずビスケットのようなものを胃に放り込み、必要最低限のものをリュックに詰め込んでいざ出発!
ほとんど人気のない街中をサイカーで移動した。
無言、無表情で自転車を漕ぐミャンマー人運転手。
やや涼しい風が私の前髪をなびかせる。
写真が一枚も残っていないのが本当に本当に残念でならないのだが、過ぎ去る長閑 な風景は、水牛と暮らす民家、民家、民家だったのは憶えている。一軒残らず、藁ぶき屋根だった。
時間もゆったりと流れていて、牧場特有の匂いが一帯に広がっていた。
おそらく水牛だったと思うが、民家から糞尿の臭いがただよってきたり、鳴き声が聞こえてきたり、ひょっこり顔を出してこちらを覗いているものもいた。
全体的に、日本画の水墨画のような素朴な色合いをしていた。
ここらでようやく、どこからともなく一日の始まりを告げるニワトリの甲高い声が聴こえてきた。
あれほど日本に帰りたいと思っていた私が、この瞬間、「時間よ止まれ!」と心から祈っていた。
マンダレーヒルに着いてからは、予定どおりミャンマー人の女の子たちと一緒に美しい朝陽を拝んだ。
入口から山頂まで長い長い階段が続いていたが、実のところその記憶は残っていない。
代わりに、宮殿をほうふつさせる白と金のアーチ形の支柱が等間隔に並ぶ外観がいまでも目に浮かんでくる。
柱と柱のすきまからは天の光が差し込んでいた。
そんなことを思いながら、朝陽が見える場所へ女の子たちに手を引かれて案内された。
そこで私は両隣にいてくれた女の子たちの顔と、眼下に広がる朝陽とを交互に眺めた。
目が合うたびにニコッと笑い合う。
ただそれだけのことなのに、特別な交流に思えた。
実はこの日、いくつかミャンマー語の「ありがとう」に相当する言葉を書き連ねたメモをポケットに忍ばせていたのだが、それに頼ることは一度もなかった。相手の目を見て身振り手振りで必死に伝えた。
むしろ、心の言葉のほうが相手にはまっすぐ伝わるものかもしれない。
すっかり仏様の前で丸裸にされてしまったような気分だった。
朝陽を見たあとは、うしろ髪引かれる思いでその場から立ち去り、どこか近くで食事をすることになった。
入ったお店は、網焼きが楽しめる場所で、テーブル席はほとんど外にあった。
いくつかの席に別れ、円を描くようにして座った。
互いにまだどんな人なのか知らないはずだったが、
あの場にいたみんなは、私にとって心許せる友だちに思えた。
野菜の両面を焼いているとき、それぞれのテーブルから立ち上っていた煙は、あっというまに青い空まで届きそうだった。
ニワトリのコケコッコーという鳴き声が聞こえてくる1時間くらい前に起床。
この日は、現地の女の子と標高230メートルに位置する"マンダレーヒル"へ行き、一緒に日の出を見る約束をしていた。
しかし、「約束」とは、親しくなってからするものだと思っていた私。
え?もしかして、すでに親しい間柄?
そう思うと、嬉しくして気恥ずかしくてしかたがなかった。
知り合って1日しか経っていないのに、ミャンマーの女の子たちは別れ際に「楽しみだね」とあふれんばかりの純粋な気持ちを満面の笑顔で示してくれた。
言語の壁にもどかしさはつきものだが、それをぶち破ろうとしてくれる熱意と誠実さが感じられて胸がいっぱいになった。
だからこそ、絶対に遅刻だけはしたくなかった。
26時間の移動で寝不足にもかかわらず、この日はいつも早起きの兄を私が起こした。
ひとまずビスケットのようなものを胃に放り込み、必要最低限のものをリュックに詰め込んでいざ出発!
ほとんど人気のない街中をサイカーで移動した。
無言、無表情で自転車を漕ぐミャンマー人運転手。
やや涼しい風が私の前髪をなびかせる。
写真が一枚も残っていないのが本当に本当に残念でならないのだが、過ぎ去る
時間もゆったりと流れていて、牧場特有の匂いが一帯に広がっていた。
おそらく水牛だったと思うが、民家から糞尿の臭いがただよってきたり、鳴き声が聞こえてきたり、ひょっこり顔を出してこちらを覗いているものもいた。
全体的に、日本画の水墨画のような素朴な色合いをしていた。
ここらでようやく、どこからともなく一日の始まりを告げるニワトリの甲高い声が聴こえてきた。
あれほど日本に帰りたいと思っていた私が、この瞬間、「時間よ止まれ!」と心から祈っていた。
マンダレーヒルに着いてからは、予定どおりミャンマー人の女の子たちと一緒に美しい朝陽を拝んだ。
入口から山頂まで長い長い階段が続いていたが、実のところその記憶は残っていない。
代わりに、宮殿をほうふつさせる白と金のアーチ形の支柱が等間隔に並ぶ外観がいまでも目に浮かんでくる。
柱と柱のすきまからは天の光が差し込んでいた。
そんなことを思いながら、朝陽が見える場所へ女の子たちに手を引かれて案内された。
そこで私は両隣にいてくれた女の子たちの顔と、眼下に広がる朝陽とを交互に眺めた。
目が合うたびにニコッと笑い合う。
ただそれだけのことなのに、特別な交流に思えた。
実はこの日、いくつかミャンマー語の「ありがとう」に相当する言葉を書き連ねたメモをポケットに忍ばせていたのだが、それに頼ることは一度もなかった。相手の目を見て身振り手振りで必死に伝えた。
むしろ、心の言葉のほうが相手にはまっすぐ伝わるものかもしれない。
すっかり仏様の前で丸裸にされてしまったような気分だった。
朝陽を見たあとは、うしろ髪引かれる思いでその場から立ち去り、どこか近くで食事をすることになった。
入ったお店は、網焼きが楽しめる場所で、テーブル席はほとんど外にあった。
いくつかの席に別れ、円を描くようにして座った。
互いにまだどんな人なのか知らないはずだったが、
あの場にいたみんなは、私にとって心許せる友だちに思えた。
野菜の両面を焼いているとき、それぞれのテーブルから立ち上っていた煙は、あっというまに青い空まで届きそうだった。