再びヤンゴン② 「街中をひとりで」

文字数 1,211文字

 最終日は、「お金けっこう余っちゃったから、好きなもの買いな」といって気前よく兄からミャンマーの硬貨と紙幣を渡された。
 早速、私ははりきってヤンゴン市内の土産物屋を回ることにした。
 とにかく市内には、Tシャツ屋とゴールドを取り扱う貴金属店の数が多かった。ゴールドの貴金属といっても、日本とは違ってかなり手軽な値段だった。
 私はジュエリーを前にして散々迷った末に、指輪をひとつ買った。
 またこの頃になると私は、Tシャツ屋のお姉さんに
「一緒に写真撮りましょう」と積極的に声をかけられるようになっていた。
 その証拠にアルバムには、土産物屋さんの店員さんと並ぶ写真が何枚も貼ってある。
 そのお姉さんの土産物屋では、一目惚れしたブッダのTシャツを買った。黒地に、ブッダが前面に座している姿がプリントされており、それらは金色の刺繍で施されていた。
 私はよほどそのTシャツが気に入ったようで、その場ですぐに着替えた。
 ブッダのTシャツを着ているあいだ私は、自分の誕生日がお釈迦様の誕生日と同じであることに誇りを持つことができた。

 その後、兄が床屋へ行くと言い出したので、そのあいだ1時間ほど別行動をとることになった。少し前までは、到底考えられなかった単独行動だ。
 ドキドキとワクワクが一気に押し寄せてきた。
 相変わらずヤンゴン市内は人、人、人、でごった返していたが、初日の夜にぎょろぎょろと大きな目を光らせて歩くミャンマー人への恐怖心は完全に消え去っていた。
 たった7日間の旅で私は知ったのだ。
 ミャンマーの人たちは、とても心優しい国民だと。
 実際、街中をぶらぶら散歩しているときに目が合うと、多くの人たちが私に微笑みかけてくれた。そのたびに、スキップをしたくなるほど気持ちが弾んだ。
 途中のどが渇いた私は、通りがかりの売店でジュースを購入。かんたんな英語で十分だった。
 どこか座れる場所がないか、店を出てから探し求めていたときだった。
 よわい5、6歳の男の子が、自分の身体よりも大きいな黄色いコンテナボックスを両手で重そうに持って歩いていた。荷物の中には、びっしりと飲料水の瓶が見えた。
 その一生懸命な姿を目の当たりにした瞬間、チクリと胸が痛んだ。
 男の子は、大人顔負けの労働をしていた。
 働かざるを得ない状況なのだろう。
 気づくと私はその場に立ち尽くし、男の子が何度もお店と倉庫とを行き来する姿を目で追っていた。
 思えば私が帰国後、「頑張ろう」と前向きになれたのも、あの年端もゆかない少年の黙々と働く姿を目にしたところが大きい。
 自分が置かれている立場がいかに恵まれたものであり、これまで自分の怠惰を環境のせいだといいわけしていたことがとてつもなく恥ずかしく思えた。

 ミャンマーは、人を成長させてくれる。
 ミャンマーは、心を豊かにしてくれる。
 ミャンマーは、無償の愛を教えてくれる。
 ミャンマーは、私にとって大切な通過点であったと!
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