恐怖のミャンマー土産

文字数 619文字

 怒涛の7日間を終え、私と兄は氷点下の札幌にTシャツ姿で帰国した。
 ふとパスポートを握る自分の指を見ると、爪が真っ黒になっていた。冒険に明け暮れた勲章のようなものかもしれない。
 帰宅後、私は母にあふれ出す旅の思い出の数々を機関銃のような勢いで語ったらしい。そう、当の本人はそのことをまったく覚えていない。
 多少の寒さで旅の興奮を冷ますことはできなかったというのに、翌朝、私は別の意味で完全に目を覚ますこととなる。
 ミャンマーへ持って行ったべっこう柄の手鏡を旅行鞄から出したそのとき!
 思わず、目を疑いたくなった。
 虫の大量発生だ!
 鏡の背面に1mmほどの虫がブワアアアアとこびりついていたのだ。
 しかも、動きが速いときた。
 すぐに近くのビニール袋へ放り込み、持ち手をきつく縛った。
 よりによって、おばあちゃんの形見の手鏡だったが、背に腹は代えられない。
 得体のしれない、ミャンマー出身の虫なのだ。
 やむを得ず私は手鏡を捨てた。
 このときばかりはミャンマーを呪ったが、そんなことがあってもやっぱり私はミャンマーを愛している。
 だからまたいつか「ありがとう」を伝えに、ミャンマーへ飛びたい。
 そして、大人になったいま、今度は私が彼女たちに何かをしてあげたい。許されるならば、いますぐにでも飛んでいきたいのだが願い叶わず……。
 とにかく、1日も早く国内の大混乱が治まりますよう。心から願ってやまない。
                   <完>
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