ふたりの少女

文字数 499文字

 もし、自分に絵を描く才能があったなら、
 最初にキャンバスに描く風景はすでに決まっている。
 木のボートを下りた瞬間、数年ぶりに再会する友人を出迎えるかのように駆けてきたふたりの少女の姿は、いまでも鮮明にまぶたに焼きついていた。
 ミャンマー北部のインレー湖での運命的な出会いだった。現地のふたりの少女は、頭に黄色い花びらをつけた草花で編んだ髪飾りをし、手には、その髪飾りと同じ黄色い花を握っていた。
 そして、ふたりは躊躇なく私にほぼ同時にそれを差し出してきた。
 いま思うと、双子だったのかもしれない。
 顔の記憶はおぼろげだが、服装や背格好はよく似ていた。
 私は、このかつて体験したこともない歓迎ぶりにおおいに戸惑った。
「どうして……どうして見知らぬ私にこんなことをしてくれるの?」
 頭から、なぜ、なぜ、が離れない。
 あたふたしている私にはお構いなしの少女たち。
 今度は私の右手と左手をそれぞれ握り、爽快に走り出したのだから天国にでもいるような気分になった。
 あれほどドラマティックな体験は、作り話でもめったに浮かばないだろう。
 私は心が震えるほど感動した。
 こんなあたたかい国がこの世にあったのかと。
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