インレー湖① 「ジャンピングキャットと生首」

文字数 921文字

 マンダレーを離れて向かった先は、やや南下した場所にある風光明媚なインレー湖。
 ちょうど今年(2021年)のはじめ、あの岩合光昭さんの「劇場版 世界ねこ歩き」のロケ地で話題になった場所でもある。
 実際インレー湖で私は多くの猫と出会った。
 あの頃はまだ私自身も猫と暮らしたことがなく、どちらかといえば犬派だったが、インレー湖で撮影した写真の3分の1が愛くるしい猫で占められていた。
 中でも30以上の仏像が並ぶガーペー僧院には、"ジャンピングキャット"と呼ばれる名物猫がいた。
 僧侶が持つ輪っかめがけてしなやかな体で高くジャンプし、何度も華麗にその輪っかの中にすり抜けるという曲芸を披露してくれた。
 定かではないが、いまここを訪れても"ジャンピングキャット"を拝むことはできないという噂を聞いたが、その真相はいかに?
 ただ、そのような噂を耳にすると、永遠を約束されているものはこの世に何ひとつないのだということを痛感してしまう。
 幸いなことに私の手元には、"ジャンピングキャット"を披露してくれた若い僧侶たちの写真が残っている。これほど写真の有難みを感じたこともないかもしれない。

 ところで、このガーペー僧院もそうだが、インレー湖では水上家屋で暮らすのが一般的だ。
 地震・津波大国ニッポンで生まれた私からすれば、水害にはどう対処するのかとつい余計な心配をしてしまうが、家屋の外観そのものにはとても趣があり興味を持った。
 私と兄は、船頭さんが漕いでくれた木の長いボートに乗り、水上家屋を見て回ったり、たまたま開かれていた水上マーケットに出かけたりした。
 その途中、水上にぷかぷかと浮かぶ

とすれ違い、「ひゃあ」と変な声が出た。
 この

の正体、実は遊泳中につき水面に顔だけ出していた黒水牛なのだ。
 こちらの動揺には目もくれず、どこかへ真っすぐと向かっている様子だった。
 ふと気が変わって私たちのボートに向かってくるなり頭突きをしたり、暴れたりしないか不安だったが、インスタントカメラで撮影しても、コチラには見向きもせず水の流れにのって静かに通り過ぎていった。
「キミたちに構っているヒマなんてないんでね」
 という心の声が、聞こえてこなくもなかった。
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