第29話 兵士と騎士

文字数 2,262文字

神具の骨董銃を包んでいた布には取説のつもりだろう図解があったが、文字は日本語で読めなかった、しかし絵は上手く描かれていて解りやすい。
 それによると・・・
 ① カートリッジには別々に青と赤の琥珀石を粉末にして入れる。
 ② ダブルバレルにある撃鉄は右に赤、左に青、中央で混合。
 ③ 降り出し式バレルの長さを長短して出力調整が無段階で出来る。
 ④ 弾丸は無く、ドラゴンの息吹をバレルで加速させて伸ばしている。
 ⑤ 使用弾数は出力調整により変化する。

 多様な使い方が出来るようだが、問題は有効射程と威力だ。

 「取り合えず設定を変えて撃ってみるか」

 偶然にも最初の試し撃ちが低出力設定だったのだ、赤の短バレル。
 次に試したのが混合の長バレル、最強モード、撃つまでは解らなかった。

 ドッゴォォォンッ

 凄まじい爆発音と共に螺旋を描いて撃ちだされた息吹弾は音速を超えて壁に吸い込まれると直系二メートルの空間を作り出した。
 バシィッ 音速で弾けた息吹が物質を消し去る凄まじい音。

 肩付けで撃ったが45ACPどころではない、460ウエザービーマグナムを超える衝撃に驚かされた。
 きちんと構えて撃たないと手首を折られる。

 「なんて威力だ!!
 「どういう原理なのかさっぱり解らない」
 
 「私にも使えるかな」
 「ああ、やってみるか」
 
 後ろから手を貸して射撃姿勢を取らせる。
 肩付け、星中を的に合わせ、トリガーに指をかける。
 静かに呼吸、力を入れすぎずに、コトリと落ちるように引く。
 パアァンッ
 バシュッ 的の真ん中に穴を穿った。
 「!」
 「当たった!」
 「上手いじゃないか、マリッサ」
 「私って才能あったのかな」
 マリッサが明るい笑顔を見せた、アンナと同じ眩しい笑顔。
 その銃口を人に向けること無く、紙の的だけに向けていれば楽しい玩具なのだ。
 そんな楽しい玩具も一度人に向ければ話は変わる。
 マリッサは人族も、魔族も殺した経験はないだろう、一線を越えたことはない。
 一人でも命を奪えば今の笑顔は戻らない、出来れば今のままの笑顔を残してあげたい。

 「アラタ?」
 思案げなアラタの顔を見てマリッサは悟った。
 「分かっているわ、武器を帯びれば女であっても戦士、覚悟はあるわ」
 「お前はこっちに来るな」
 「私にアラタのような力があればイーヴァン様を失うことは無かった・・・」
 震える様子はない、その瞳は澄んで決意に満ちている。
 「失うばかりじゃ哀しすぎる、ムトゥス様だけは命に変えても失いたくない!」
 「ムトゥスか、冥界の落とし子、あの琥珀石から生まれたならあの子はドラゴンなのか」
 「普通の子じゃ無いのは確かよ、きっと大きな天命を背負って生まれてきた子」
 「ここで死なせるわけにはいかないな」
 「イーヴァン様とシン様が命を賭してまで守ったのには意味があるはずよ」
 視線を合わせて二人は頷いた。
 
 「魔族はだいたいの者が角を持っているの、両親にもリーナ姉さんにも立派な角があったのに私にはなかった、小さいころから角無しって馬鹿にされたわ」
 「それが嫌で姉の後ろに隠れてばかり、自分から何かを求めた事も成し遂げたこともない半端者が私」
 「それならなぜ魔王づきの騎士になれたんだ」
 「リーナ姉さんのおまけよ、学業も武道も姉さんは完璧な人だった、私の憧れ、いつか追いつきたかったけど永遠に無理になっちゃった」
 「姉妹か、俺には兄弟はいなかったから少し羨ましいな、優しかったか」
 「ううん、私には厳しかったわ、私のような凡才が天才の姉さんに付いていくのは容易じゃなかった、出来るようになるまで許してもらえなかった・・・幼い頃は恨んだこともあったけど、それが姉さんの愛だと気づいたのは最近だよ」
 「才能の無い捻くれた私を見捨てずにいてくれた、憎まれようと避けられようと諦めずに・・・厳しく叱ってくれた」
 「愛される見返りを求めないことはなかなか出来る事じゃない」
 「そう、姉さんは強くて、真実の優しさを持っていた」
 「きっと姉さんみたいに上手くは出来ない、でもやり遂げる」
 「そうか・・・お前は兵隊では無く騎士なんだな」
 「ちょっと格好つけすぎじゃ無ない」
 「まあ、なんというか納得したよ、でも無くすなよ、その笑顔」
 「!」
 クスッ
 「ちょっとキザだよ、アラタらしくない」
 「お子ちゃまが生意気言うな」
 「ええっ!?お子ちゃま?私もう二十歳だよ、そんな風に見てたの!?
 「四十前のおっさんから見れば十分子供だ」
 「うっ、確かにお父さんでもおかしくは無い年の差なのね」
 「そうだろう、少しは敬う気になったかね、マリッサ君」
 「私ファザコンだからぜんぜん問題ないけど」
 「なっ!!
 「冗談よ」
 「おまえなー」
 マリッサの夕日で染めた髪で隠れた額を小突く。
 彼女が舌を出して笑った。
 
 「改めてお願いします、この神具の使い方を教えて、私を鍛えてほしい、イーヴァン様や姉さんたちのようにムトゥス様を守れる騎士として!」
 
 「俺は兵隊だ、騎士道は分からん、でも銃の扱いは知っている」
 
 「敵は侵略者と吸血蟻、それに冥界の使徒、味方は俺とお前だけだ、ビビるなよ」
 「上等!舐めないでよ」

 マリッサは自身取り戻した、もう心配ない。

 「よし、それじゃ早速始めよう!まずは構造と原理からだ」
 「えっ、実技じゃないの?」
 「あたりまうだ、まずは知識、理論なきところに真の技術はうまれない」
 「勉強は苦手なんですけど・・・」
 「ダメだ、まずは座学」
 
 「姉さん同じだ・・・」
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