第21話 情報の確度

文字数 2,432文字

「出たぞ!神話の子鬼か」
 「モア隊長、どうしますか?」
「チッチどうするとは?」
「このまま様子見ですか」
 チッチの目は真剣だ。
 「助けるというのか!?我らが国を滅ぼし同胞と家族を殺した仇敵だぞ」
 スラッシュが歯を剥いて怒りを露わにした。
 「違うよ、生かして尋問出来ればイーヴァン様の情報を得られるかもしれないだろ!」
 
 ザアッ 黒笹から(何か)が飛び出す。
 パパァッン
 シュワルツは見えない的を黒笹から飛び出したタイミングで引き金を絞った。
 バシュャ! 「ギュイッ」
 透明な硝子が砕けて中身の赤い液体が飛び散った、MP40の9mm弾は問題なく(何か)を粉砕する。
 見えない(何か)は自分の血で輪郭を見せる。
 「これは・・・蟻ですか!?
 全身に鏡の甲殻を纏った蟻だ、甘くすえた匂いが漂う。
 「奇天烈な昆虫ですねぇ、先ほどの卵の親でしょうか」
 ブンッ 
 シュワルツは突然(蟻)をモロ達が隠れている真上に放り投げた、隠れているのを既に知っていた。

 「!!
 バサンッ
 「うわあっ」
 慌てて飛びのいた五人が視線を戻したときシュワルツは既にそこにはいなかった。
 「うっ!奴がいないぞ」
 「くそっ、何処へいった?」

 パアァンッ

 「!!

 モア達の上から銃声が降ってくる。
 「注目ー!!
 「上だ!いつの間に!?
 「皆さん、慌てず、動かずに聞いてください」
 「クソォッ!!
 モローが木盾を構えて突進しようと一歩踏み出した瞬間、パアッンッ 躊躇ない一撃がモローの手から木盾をもぎ取る。
 「ぐおっ!」
 「人の話を聞いてください!、私は皆さんと殺し合いたい訳ではありませんよ!」
 「私は兵士ではありません、警察官です!!ですが刀を向けられれば当然反撃します、この武器の恐ろしさは皆さんご存知のはずですよ!」
 「じゃあ!何がしたいんだ!侵略者め!」
 モアがモローを抱き起しながら怒鳴った。
 この場を支配したシュワルツはニヤリと笑うと言葉を繋げる。
 「実はですね、我が隊から脱走兵が出まして、どうやらこの樹海に逃げ込んだようなのです、皆さんお心辺りがありませかねぇ」
 妙に馴れ馴れしいが銃口は隙なく五人に向けられている。
 「知らねぇ!俺たちは見てねぇ」
 「そうですかぁ、いや実はですね、その脱走兵は皆さんの主、魔王さんと一緒に逃げているようなのですよ」
 「はああ!?一緒に逃げているってどういうことですか?」
 チッチが素っ頓狂な声わあげた。
 「誘拐とか拉致とかではないようですよ、あくまで任意に逃走しているようです」
 「まさか駆け落ちってことか!?
 「魔王様に限ってそんな事があるはずないだろう!」
 今度はモアが怒りに任せて怒鳴り返す、心酔する魔王イーヴァンに対する侮辱と捉えたようだ。
 「ううーん、皆さん嘘をついているようには思えませんねぇ」
 「当たり前だ、俺達は魔王様を探して山を下ってきたんだ」
 「おい、スラッシュ、余計な事を言うな」
 シロ爺がたしなめたが既に遅い。
 「おお、やはりそうでしたか、きっとそういう方とすれ違うと思っていたのですよ、僕は。でしたらこの先には居ませんでしたよ、この樹海に入ってお会いしたのは皆さんが初めてです、ええ」
 「信じられるか、なにかの罠に違いねぇ!」
 「困りましたねぇ、私が嘘を言っても仕方ないのがお解り頂けないでしょうか・・・そうだ、貴方が隊長さんですね、こちらへ来ていただけますか」
 「だめだ、モア隊長、殺される!」
 「いや、殺そうと思えばいつでも奴はやれる」
 武器をシロ爺に預けると手を上げてシュワルツの元へ上がっていく。
 「そっちへ行く、皆は撃たないでくれ」
 「もちろん、最初からそんなつもりはありませんよ」

 モアと正対した異世界人は小柄な男だった、モアよりも頭一つ小さいが、大きく見開いた目と、自信に満ちた表情が隙を許さない。
 「ヘルマン・シュワルツ少尉です」
 「俺はモアだ、小隊の隊長だった、今は俺も含めて五人だ」
 「了解しました、信じましょう」
 飛び掛かれる間合いは消されている。
 「なにが聞きたい?」
 「まずは忠告です、これから下に行くことはやめた方がいいてしょう、本物の兵隊が迫っています、彼は全員を殺します」
 「なぜ異世界人のお前がなぜ教える?」
 「まあ、情報の是非は個々の信頼によるところなので疑うのは当然ですが、行けば皆さんは漏れなくユルゲンさんの獲物になるでしょう」
 「それが分かっていても我々は魔王様を探し護衛しなければならない」
 「私は、アラタさん・・・魔王さんと一緒にいるかもしれない異世界人です、逃亡する時に使用した車両の痕跡を辿ってきました、ここまでの行程を来ていたのは間違いないと思います」
 「!!
 情報の信憑性と確度が跳ね上がる。
 「ならば我々は魔王様と行き違いに!」
 「そうですねぇ、ここから上にどこか潜伏する場所に心辺りがありませんか」
 「聞いてどうする!?
 「さっきも言いましたが私は戦争など興味ありません、したがって魔王さんを捕えようとか殺そうなどとは考えていません、ただアラタさんと話がしたいだけです」
 「話?何の話だ」
 「私の行動原理など聞いても無意味というものです、要点はアラタさんたち二人です」
 「二人?・・・だと」
 「そうです、魔城から脱出した魔王さんたちは四人、内二名は墓所で射殺、あと一人の埋葬されているのを近くの牧場で見つけました」
 「じゃあ、そのアラタと逃走しているのは・・・魔王様とは限らないのか」
 「はい、墓所で射殺されたのは男女二人、老人と若い娘兵士、牧場の墓は掘り返すことはしたくありません、死者の眠りを妨げることは不信ですから」
 
 目の前の異世界人の言うことは真実だと思える、既に魔王様が討たれている現実もありえる。
 「そうだ、ムトゥス!ムトゥス様はどうだ、知らないか!?
 「ムトゥス?誰ですか、それは?」

 「ムトゥス様はイーヴァン様とシン様のお子だ」
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