第53話 ケツァルの誕生
文字数 2,204文字
「マリッサ!ムトゥスを頼む!」
ムトゥスの孵化は進む、繭の亀裂が大きくなり、ぐらぐらと繭が揺れる、そとに出ようと藻掻いているのだ。
青鱗の巨大ミミズは大きいだけではなく動きが早い、細くしなやかな同体はミミズではなく巨大な蛇だ。
赤鱗のミミズも青鱗の蛇もドラゴンの息吹、赤と青の琥珀石から生命を得ている、その神の子となるムトゥスは彼らにとってご馳走以上の供物なのだ、千年に一度の奇跡の息吹、得ることが出来れば彼らにとって進化を伴う変化が起きる。
神獣たちの争い、人の時と理を超えた世界で繰り広げられる生存競争。
ムトゥスはシンとイーヴァン、アラタとマリッサ、二組を父母として、現世に産まれようとしていた。
アラタの隣にシンがいた、マリッサの隣にはイーヴァンがいる。
四人が守り人が神獣を守り戦う。
ドォオオオッンッ ガァオオオンッ ブレスガンの咆哮が神殿を揺るがす、天井からパラパラと石が落ちる、マリッサが自分の身体を盾にして落下物に備えている。
「ちっ、素早い」
ウネウネと動いていた青蛇はアラタの射撃を見越している、発射の瞬間素早く射線上から消える。
ザバババッ ザバババッ 右に左に動きながら的を絞らせない。
シュウウウウーッ 細く掠れた呼吸音が余裕を感じさせる、この青蛇はブレスガンを知っているかのようだ。
青蛇は左右の動きの間に、前後の動きを挟む。
左右の動きに慣れた目は突然の前後の動きに追いつけない。
バシュッ バシュッ
「!!」
アラタは紙一重で青蛇の攻撃を躱すが反撃の余裕はない、激しい動きが体力を削る。
「頭のいいやろうだぜ」
この蛇はおそらく数百年以上生きている、高度な知的生物だ、赤鱗のミミズとは違う。
ピシリッ 青蛇の頭部にヒビが入ると、花びらが開く様に巨大な口が開く、神獣ではなく悪魔の獣だ。
青蛇の攻撃が点から面に変わる。
毒々しい花が円を描いて牽制してくる、円月殺法、この青蛇は武道の心得があるのか。
青蛇の余裕、まだ手の内を隠しているに違いない、アラタは慎重に間合いを計る。
「アラタ、気を付けて!」
マリッサも決着の時が近いのを感じる、デスゾーンでの進化を賭けた殺し合い、ひりひりと薄い空気が張り詰める。
ドドンッ バシュッ 立ち合いは同時、アラタは花の中央に初弾を放つと前に飛び込み動きの支点となっている地についた胴体にニ撃目を放つ、青蛇は花を囮にして撃たせ、同体の反対側に隠した針のような頭で槍の攻撃を繰り出す、頭と尾が逆だったのだ、花は尾で針が頭だ。
バシュン ブレスガンが命中した胴体が千切れ飛ぶが、針の頭は狙いすましてムトゥスに迫った。
「!!」
マリッサが身を呈して立ち塞がる。
「ぬおっ!」
貫かれる覚悟で身を呈したマリッサの直前で針は停止した、アラタが脇に抱えるように青蛇の胴体を抑え込んでいた。
「やらせるか!」
歯を食いしばり悪鬼の形相に震えながら渾身の力で青蛇を振り回して壁に叩きつける。
キシャアアアアアッ 青蛇の断末魔。
「マリッサ、無事か?」
マリッサは背中を向けて震えていた。
「ムトゥス様が産まれた・・・けど・・・」
「なんだ!?」
繭を割り神の子、神獣ドラゴンの末裔が産まれた。
その姿は金色の鬣に瑠璃色の羽根を持ち、純白の嘴がある。
鳥だ。
人型の赤ん坊であったムトゥスは繭化し孵化して鳥類に姿を変えた。
果たして喜んでいいものなのか二人は絶句していた。
キョロキョロと動く目が二人を捉え、背伸びをするようにその美しい翼を広げた。
ゾゾゾゾゾッ
絶句していた二人の背後に青蛇が頭を持ち上げる、絶命してはいなかった。
スーッ ムトゥスの喉が膨らむ。
「!?」
コオォォォォォォォッ
声が弾丸となって二人の間をすり抜けていくのが二人には見えた。
バシュッン ギャアアアッ
「はっ!?」
振り返った時には破裂した青蛇が地に落ちていた、今度こそ絶命していた。
「ムトゥス様がやったの?」
「ソニックウェポンか」
小首を傾げる仕草が愛らしい、鳩ほどの大きさしかないが知性の高さが伺われる。
「・・・父さま・・・母さま・・・」
「!!」
「ありがとう・・・いってきます」
ムトゥスは台座を蹴ると翼を広げ二度三度羽搏くと神殿の中を旋回する、二人の上を飛びながら美しく透明な声で唄う。
その唄は感謝と別れの唄、哀しく美しい愛の唄笛。
「ムトゥス!!」
見送る二人を置いてムトゥスは神殿を飛び立つ、幼くとも強い羽根はデスゾーンの風を掴み羽ばたく、サガル神山を駈け降りていく。
ドラゴーンホーンの出入り口からムトゥスが飛び去った方向を二人は見下ろした。
黒々とした樹海と平原が雲間に見える。
"いってきます" ムトゥスはそう言った
使命を持って産まれ、それを成そうとしている。
見守ってあげなければならない、最後まで。
ムトゥスが、この世界がどこに辿り着くのか見届ける。
「ムトゥス様は神獣ケツァルに進化なされた」
「神獣ケツァル?」
「魔族に伝わるおとぎ話よ、全ての獣を統べる天空の唄笛、ケツァルの唄は救いの詩」
今はもう姿の見えなくなった神獣ケツァルが飛び去った樹海平原に、天空の唄笛が木霊する。
ザアアアアアッ ザアアアアアッ ザアアアアアッ
ケツァルの唄笛に応えるように付き従う数億の羽根がサガル神山から飛び立った。
ムトゥスの孵化は進む、繭の亀裂が大きくなり、ぐらぐらと繭が揺れる、そとに出ようと藻掻いているのだ。
青鱗の巨大ミミズは大きいだけではなく動きが早い、細くしなやかな同体はミミズではなく巨大な蛇だ。
赤鱗のミミズも青鱗の蛇もドラゴンの息吹、赤と青の琥珀石から生命を得ている、その神の子となるムトゥスは彼らにとってご馳走以上の供物なのだ、千年に一度の奇跡の息吹、得ることが出来れば彼らにとって進化を伴う変化が起きる。
神獣たちの争い、人の時と理を超えた世界で繰り広げられる生存競争。
ムトゥスはシンとイーヴァン、アラタとマリッサ、二組を父母として、現世に産まれようとしていた。
アラタの隣にシンがいた、マリッサの隣にはイーヴァンがいる。
四人が守り人が神獣を守り戦う。
ドォオオオッンッ ガァオオオンッ ブレスガンの咆哮が神殿を揺るがす、天井からパラパラと石が落ちる、マリッサが自分の身体を盾にして落下物に備えている。
「ちっ、素早い」
ウネウネと動いていた青蛇はアラタの射撃を見越している、発射の瞬間素早く射線上から消える。
ザバババッ ザバババッ 右に左に動きながら的を絞らせない。
シュウウウウーッ 細く掠れた呼吸音が余裕を感じさせる、この青蛇はブレスガンを知っているかのようだ。
青蛇は左右の動きの間に、前後の動きを挟む。
左右の動きに慣れた目は突然の前後の動きに追いつけない。
バシュッ バシュッ
「!!」
アラタは紙一重で青蛇の攻撃を躱すが反撃の余裕はない、激しい動きが体力を削る。
「頭のいいやろうだぜ」
この蛇はおそらく数百年以上生きている、高度な知的生物だ、赤鱗のミミズとは違う。
ピシリッ 青蛇の頭部にヒビが入ると、花びらが開く様に巨大な口が開く、神獣ではなく悪魔の獣だ。
青蛇の攻撃が点から面に変わる。
毒々しい花が円を描いて牽制してくる、円月殺法、この青蛇は武道の心得があるのか。
青蛇の余裕、まだ手の内を隠しているに違いない、アラタは慎重に間合いを計る。
「アラタ、気を付けて!」
マリッサも決着の時が近いのを感じる、デスゾーンでの進化を賭けた殺し合い、ひりひりと薄い空気が張り詰める。
ドドンッ バシュッ 立ち合いは同時、アラタは花の中央に初弾を放つと前に飛び込み動きの支点となっている地についた胴体にニ撃目を放つ、青蛇は花を囮にして撃たせ、同体の反対側に隠した針のような頭で槍の攻撃を繰り出す、頭と尾が逆だったのだ、花は尾で針が頭だ。
バシュン ブレスガンが命中した胴体が千切れ飛ぶが、針の頭は狙いすましてムトゥスに迫った。
「!!」
マリッサが身を呈して立ち塞がる。
「ぬおっ!」
貫かれる覚悟で身を呈したマリッサの直前で針は停止した、アラタが脇に抱えるように青蛇の胴体を抑え込んでいた。
「やらせるか!」
歯を食いしばり悪鬼の形相に震えながら渾身の力で青蛇を振り回して壁に叩きつける。
キシャアアアアアッ 青蛇の断末魔。
「マリッサ、無事か?」
マリッサは背中を向けて震えていた。
「ムトゥス様が産まれた・・・けど・・・」
「なんだ!?」
繭を割り神の子、神獣ドラゴンの末裔が産まれた。
その姿は金色の鬣に瑠璃色の羽根を持ち、純白の嘴がある。
鳥だ。
人型の赤ん坊であったムトゥスは繭化し孵化して鳥類に姿を変えた。
果たして喜んでいいものなのか二人は絶句していた。
キョロキョロと動く目が二人を捉え、背伸びをするようにその美しい翼を広げた。
ゾゾゾゾゾッ
絶句していた二人の背後に青蛇が頭を持ち上げる、絶命してはいなかった。
スーッ ムトゥスの喉が膨らむ。
「!?」
コオォォォォォォォッ
声が弾丸となって二人の間をすり抜けていくのが二人には見えた。
バシュッン ギャアアアッ
「はっ!?」
振り返った時には破裂した青蛇が地に落ちていた、今度こそ絶命していた。
「ムトゥス様がやったの?」
「ソニックウェポンか」
小首を傾げる仕草が愛らしい、鳩ほどの大きさしかないが知性の高さが伺われる。
「・・・父さま・・・母さま・・・」
「!!」
「ありがとう・・・いってきます」
ムトゥスは台座を蹴ると翼を広げ二度三度羽搏くと神殿の中を旋回する、二人の上を飛びながら美しく透明な声で唄う。
その唄は感謝と別れの唄、哀しく美しい愛の唄笛。
「ムトゥス!!」
見送る二人を置いてムトゥスは神殿を飛び立つ、幼くとも強い羽根はデスゾーンの風を掴み羽ばたく、サガル神山を駈け降りていく。
ドラゴーンホーンの出入り口からムトゥスが飛び去った方向を二人は見下ろした。
黒々とした樹海と平原が雲間に見える。
"いってきます" ムトゥスはそう言った
使命を持って産まれ、それを成そうとしている。
見守ってあげなければならない、最後まで。
ムトゥスが、この世界がどこに辿り着くのか見届ける。
「ムトゥス様は神獣ケツァルに進化なされた」
「神獣ケツァル?」
「魔族に伝わるおとぎ話よ、全ての獣を統べる天空の唄笛、ケツァルの唄は救いの詩」
今はもう姿の見えなくなった神獣ケツァルが飛び去った樹海平原に、天空の唄笛が木霊する。
ザアアアアアッ ザアアアアアッ ザアアアアアッ
ケツァルの唄笛に応えるように付き従う数億の羽根がサガル神山から飛び立った。