48:あの人たちの赤ら顔(後編)

文字数 2,268文字

 姉が「ねぇねぇ」と私に問いかける。

「矢から風を出す能力……もしかしてそれ、クリスタルが冒険者のときから知らないうちに使ってて、ディエゴたちを補佐してたんじゃ?」

 場が静まりかえった。

「あ、ごめんなさい! 私変なこと言っちゃっ――」
「それが真実ではないか?」

 謝ろうとする姉をディスモンドが制止する。

「いっそのこと、話してしまおう。俺の双子の弟・ディエゴにもな」

 双子の弟という言葉に今度は場が騒がしくなるが、ディスモンドが話し始めると再び静まった。

「愚かな弟とそれに群がる二人、よく聞け。クリスタルをパーティから追放したのは、クリスタルが下手だったからだったな。だがクリスタルは、敵に矢が当たらなくても、超能力のおかげで敵にかすめさえすれば、敵の姿勢を崩すことは可能だった。それがお前たちの手助けとなっていたはずだ。そうだろう?」

 思い当たることがあるのか、うなずく例の三人。

「それにもかかわらず、お前たちは矢の軌道しか見ていなかった。知らない間に助けられていたと自覚しないまま、クリスタルを無能だと追放した。何か勘違いしていたようだが、『俺たちが無能なクリスタルの尻ぬぐいをした』のではない。逆に『クリスタルに助けられていた』んだ。追放したあとはクリスタルの助けがなくなって、とたんに上級ダンジョンを攻略できなくなったようだな。当たり前だ」

 騎士から発せられる言葉の、なんと重いことだろうか。
 三人の顔は真っ赤で、恥ずかしいという感覚すらも通り越しているようであった。

「……クリスタル、すまなかった。もとから持っているそんな能力に気づけなかった。能なしではなかったな」

 なんと、ディエゴが謝ってきたのだ。イアンもジェシカもばつの悪そうな顔をして、私を見ている。

「だから、やり直そう。クリスタルが優秀だというのは十分に分かった。俺のパーティに戻ってこないか――」

 え、それ本気で言ってる?
 さっきの討伐で乱入してきたときのこともあり、怒りが再びこみあげてきたのだ。

「戻るわけない! 私はもう冒険者じゃなくて、騎士なの。この際だから言うけど、三人ともぜーんぜん強くない。自分たちは強いんだって、なんか勘違いしてるようだけど」

 怒りにまかせ、出てくる言葉に身を委ねてみる。

「今日久しぶりにちゃんと会って、びっくりした。中級冒険者に成り下がったのに、言動は上からで、根拠のない自信に満ち(あふ)れてて、まっっっったくあのときから変わってなかった。中級者になったって聞いてたから、少しはおとなしくなってるのかと思ったのに」

 かつて自分たちが追放した人に言われる屈辱といったら。しかと味わってもらおう。

「あなたたちに追放されたおかげで、広ーい外の世界を知ることができました。ありがとうございました」

 言ってやった。言いたいことはちゃんと言う。これも成長した私の姿だ。

「……すみません、つい」
「大丈夫〜、聞いてるこっちもすっきりしたから〜」

 最初に肯定してくれたのはオズワルドだった。

「逆にクリスタルちゃんが冒険者に戻るって言うなら、僕は全力で止めるから〜」

 ディスモンドは鼻で笑っている。

「手放した方が悪い。クリスタルのような逸材をやすやすと渡すわけがないだろう」

 リッカルドは凍てつくような視線をディエゴたちに注いでいた。

「貴様らにもうちの騎士道を(たた)きこんでやるか。俺は一応剣も教えられるぞ。その前にその曲がった性格から手をつけなくてはな。ちなみに、クリスタルも通った道だが」
「「「けっ、結構です」」」

 (おび)える三人に、騎士も上級冒険者も笑っていた。もちろん私も。
 訓練の厳しさを知っているからこそ、この乾いた笑いが出てきた。

「さて、ようやく己を知ったところで、クリスタルの話の続きを聞くんだな」

 リッカルドにうながされたので、興奮を鎮めて続きを話していった。





 次に、超能力の実験をした帰りに起こったことを語った。
 神殿に行ったら誰かがささやくような声がしたこと、その声は複数人だが人間ではないこと、エラに話してみたら『風の子ども』ではないかと言われたこと。

「風の子どもの声が聞こえる人間は、風の神子(みこ)と呼ばれるらしいんです。それで、私がデス・トリブラスを倒す前、自分が風の神子なんだとお告げを受けました」
「あの、竜巻みたいなものの中にいたときか?」
「そうです」

 倒す瞬間を見ているセスが確認する。

「私の『王国を守りたい』っていう気持ちに、風の神・ウィンブレス様が応えてくださいました。私は風の能力(ちから)を得て、デス・トリブラスを倒すことができました」

 私が非常識だっただけで、私以外は風の神や風の子ども、風の神子のことも知っていたので、話が早かった。
 どうして私は知らなかったのか、未だに分からない。

「その、風の能力っていうのを使ったけど、最後クリスタルちゃんが切り刻むところもかっこよかったね〜!」

 いきなり話しだしたかと思いきや、私を褒める言葉だった。いやいやぁ……。

「オズワルドさんが師匠だったからですよ」
「そうだった、僕が教えたんだった」

 騎士団の内輪ネタだが、冒険者も巻きこんだ爆笑になった。
 あぁ、たぶんオズワルドは笑いをとりたかったんだろう。私がこう返すと知っていて、話題をふっている気がする。

 そんな中、圧倒的に話に乗れていないあの三人。
 三兄弟や私のきょうだいからの圧が、あの三人にかかっている。しゃべらすまいと。

 このあとも、表向きでは『討伐成功を祝う宴会』が、本当は『クリスタルを追放した奴を居心地の悪いところにいさせる会』が続いた。
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登場人物紹介

クリスタル(・フォスター・アーチャー)

年齢:17歳

一人称:私

職業:弓騎士、双剣騎士、元冒険者(弓使い)

性格:自己肯定感が低く、疑心暗鬼


きょうだいの4番目

エラ

年齢:30代

一人称:あたし

職業:料理人、宿の経営、(趣味で弓を嗜む)

性格:ぶっきらぼうだが根は優しい。頼られがち。

ディエゴ

年齢:23歳

一人称:俺

職業:冒険者(長剣使い)

性格:自意識過剰

イアン

年齢:21歳

一人称:俺

職業:冒険者(長剣使い)

性格:自意識過剰ぎみではあるが、何を考えているかわからない

ジェシカ

年齢:20歳

一人称:うち

職業:冒険者(長剣使い)

性格:自意識過剰、思ったことをすぐに言うタイプ

父、お父さま

年齢:50代

一人称:私

職業:元上級冒険者(弓使い)

性格:厳格で完璧主義

母、お母さん

年齢:40代

一人称:私

職業:元商人

性格:一見物静かだが、子ども思い。

サム・フォスター・アーチャー

愛称:サム、お兄さま、サム兄

年齢:25歳

一人称:俺

職業:上級冒険者(弓使い)

性格:ストイックな世渡り上手


きょうだいの1番目

クロエ・フォスター・アーチャー

愛称:クロエ、姉、お姉さま

年齢:23歳

一人称:私

職業:上級冒険者(弓使い)

性格:好奇心旺盛、洞察力がある


きょうだいの2番目

セス・フォスター・アーチャー

愛称:セス、お兄さま、セス兄

年齢:20歳

一人称:俺

職業:上級冒険者(弓使い)

性格:周りに流されやすい


きょうだいの3番目

ベーム騎士団団長

年齢:50代?

一人称:私

職業:騎士団団長

性格:「息子3人のすべてを合わせたような性格」(クリスタルより)

ディスモンド・フォーゲル・ド・ベーム

愛称:ディスモンド、ディス

年齢:23歳

一人称:俺

職業:長剣騎士、第一遊撃隊隊長

性格:責任感が強くてストイックだが素直


長男

リッカルド・フォーゲル・ド・ベーム

愛称:リッカルド、リック

年齢:22歳

一人称:俺

職業:弓騎士、迎撃隊隊長

性格:聡明で頭が切れる。たまに毒を吐く。


次男

オズワルド・フォーゲル・ド・ベーム

愛称:オズワルド、オズ

年齢:20歳

一人称:僕

職業:長剣騎士、第二遊撃隊隊長、(穢れ仕事)

性格:愛嬌があり素直だが、頭脳明晰。


三男

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