47:あの人たちの赤ら顔(前編)

文字数 2,205文字

 双剣を(さや)に納めると、再び私を突風が囲む。

〈実に見事であった。やはり我が見出したとおり、(なんじ)は我の神子(みこ)にふさわしい〉

 この声は……まさか風の神・ウィンブレス!? 「ウィンブレス様、力をお借りしました」とか言ったから呼び出しちゃった!?

「あ、ありがとうございます」
〈これからも共に王国を守るのだよ〉
「はい。まぁ、騎士ですので」

 私の返答が予想していなかったことだったのか、風の神は「フォッフォッフォッ」と独特な笑いをした。

〈これは我からの御礼だ。汝の仲間を動ける程度までにはしておいたぞ〉
〈ウィンブレス様、どうして全回復まではなさらないのですか?〉
〈神子の活躍が薄まってありがたみが半減……ゲフンゲフン、全回復するにはそうとうな力が必要だからだ〉

 今、かなり本音が出たよね? 神なら全回復なんて容易いことだと思うけど。もしかして、意外と意地悪?

「あの、これから倒したモンスターをダンジョンの外に運びたいんです」
〈そ、それならばもう少し回復させてやろう〉

 ……思ってたより気まぐれなんだね。

〈ともかく、風の能力(ちから)を横着に使ったり、悪用してはならぬ。もしそう使ったならば……覚えておくとよい〉
「わ、分かりました」

 この言葉を最後に、ツッコミどころのある神との会話は終わった。取り囲む突風が止んだ。





 斬り刻んだデス・トリブラス()()()()()を、一つ一つみんなで手分けして運び出す。
 進化したデス・トリブラスの物理攻撃に倒れた人(ただし一回目の攻撃はそこまで威力はなかった)以外は、クリスタルが倒すその瞬間、意識はあった。そう、サムもクロエもセスも、ディエゴもイアンもジェシカも。

()らいなさい、矢の嵐! メタルブリザード!!

 その瞬間を見た誰もが、記憶に深く濃く刻み込まれた。

 銀色の長髪がはためき、ダンジョンの中なのにもかかわらずサークレットの金色が輝き、大量の矢が飛んでいく光景は壮観であった。

 それだけではない。進化して現れたあの『目』を弱点と見ることができる発想も、一斬り一斬りが洗練されている双剣の技術も、倒したあとでも姿勢が乱れない美しさも、クリスタルは完全に冒険者ではなく騎士になっていた。

「君、やっぱり超能力を持っていたんだね」

 リッカルドがニヤリとほほ笑む。

「そうらしいんですよね……。ごめんなさい、まだ自分でも状況が理解できてません」
「超能力を持っているなら早めに使ってほしかったと思ったけど……その反応だと、この言葉はふさわしくないとみるべきか」 
「まぁ、落ち着いたら何があったか話しますね」

 オズワルドが話に割りこんできた。

「僕も聞いていい?」
「もちろんです」
「俺も聞いておこうか」
「はい、ディスモンドさんもですね。あぁ、他の方も興味がありましたらどうぞ」

 他にも希望者がぞろぞろ出てきそうなので、先手をうっておくクリスタル。

「妹の話、聞くか?」
「当たり前ですよ!」
「面白そうな話が聞けそうなんで」

 サムが妹と弟に尋ねると、当然だと返してくれた。それを聞いてクリスタルはなぜかホッとしている様子である。
 サムは声色を変えて尋ね――命令する。

「勝手にダンジョンに入ってきて、ただ足を引っ張って、一番初めにやられたその三人。史上最強と呼ばれたデス・トリブラスを倒しても、自慢せずにサボらずに最後まで仕事をする、手本と呼ぶべき我が妹の話を聞け」

 ディエゴたち三人は、蚊の鳴くような声で返事をしただけだった。




 持って行ったデス・トリブラスの肉片は、研究資料に使われるとのこと。倒せただけでも十分だが、今後の役に立つなら(うれ)しい以外の言葉はない。

 進化した敵に大ダメージを与えた上に仕留めたのが私だったことで、様々な手続きをしなければならなかった。手続きをしながら、ようやく自分が倒したのだと自覚が出てきた。

 気づけば夜だった。
 討伐成功祝いとして、ギルドがごちそうを用意してくれたらしい。ただ任務を達成しただけなのに……ね。

 そのごちそうを食べながら、あのとき何があったのか話してみる。結局話を聞きに来た人は、今日討伐に行った仲間のほとんどである。

「まだちゃんと整理はついてないんですが、話しながら整理していきたいと思います」

 まずはこの二つのことを話した。
 自分が追放されたあとに、冒険者ギルドで出た『クリスタルは超能力者ではないか』という(うわさ)を聞いたこと。実際にリッカルドと実験をしてみたところ、飛ばした矢から風が出ているという結果になったこと。

「クリスタルの腕を信じて、俺に当たらないギリギリを攻めて発射してもらった。そうしたら、矢から風圧のようなものを感じたんだ。君たちも見ただろう。デス・トリブラスのトゲをクリスタルが掃討してくれたとき、矢が当たっていないところのトゲまで落ちていたことを」

 リッカルドが補足してくれた。他の人はそういえばそうだった、言われてみれば、というようにうなずいている。
 ディスモンドも何か言いたげな表情をしている。

「あ、ディスモンドさん、どうぞ」
「初日から上級ダンジョンに行った者なら、あれも見ていたはずだ。三体くらいのアウバールが同じ方向から襲ってきたときに、クリスタルが真ん中のアウバールを撃った。すると両脇にいたもう二体のアウバールもよろけていた。矢から風を出す超能力だと言われれば納得できる」

 確かにあのときは、その超能力的なものの効果が実感できた瞬間だ。思い返せば。
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登場人物紹介

クリスタル(・フォスター・アーチャー)

年齢:17歳

一人称:私

職業:弓騎士、双剣騎士、元冒険者(弓使い)

性格:自己肯定感が低く、疑心暗鬼


きょうだいの4番目

エラ

年齢:30代

一人称:あたし

職業:料理人、宿の経営、(趣味で弓を嗜む)

性格:ぶっきらぼうだが根は優しい。頼られがち。

ディエゴ

年齢:23歳

一人称:俺

職業:冒険者(長剣使い)

性格:自意識過剰

イアン

年齢:21歳

一人称:俺

職業:冒険者(長剣使い)

性格:自意識過剰ぎみではあるが、何を考えているかわからない

ジェシカ

年齢:20歳

一人称:うち

職業:冒険者(長剣使い)

性格:自意識過剰、思ったことをすぐに言うタイプ

父、お父さま

年齢:50代

一人称:私

職業:元上級冒険者(弓使い)

性格:厳格で完璧主義

母、お母さん

年齢:40代

一人称:私

職業:元商人

性格:一見物静かだが、子ども思い。

サム・フォスター・アーチャー

愛称:サム、お兄さま、サム兄

年齢:25歳

一人称:俺

職業:上級冒険者(弓使い)

性格:ストイックな世渡り上手


きょうだいの1番目

クロエ・フォスター・アーチャー

愛称:クロエ、姉、お姉さま

年齢:23歳

一人称:私

職業:上級冒険者(弓使い)

性格:好奇心旺盛、洞察力がある


きょうだいの2番目

セス・フォスター・アーチャー

愛称:セス、お兄さま、セス兄

年齢:20歳

一人称:俺

職業:上級冒険者(弓使い)

性格:周りに流されやすい


きょうだいの3番目

ベーム騎士団団長

年齢:50代?

一人称:私

職業:騎士団団長

性格:「息子3人のすべてを合わせたような性格」(クリスタルより)

ディスモンド・フォーゲル・ド・ベーム

愛称:ディスモンド、ディス

年齢:23歳

一人称:俺

職業:長剣騎士、第一遊撃隊隊長

性格:責任感が強くてストイックだが素直


長男

リッカルド・フォーゲル・ド・ベーム

愛称:リッカルド、リック

年齢:22歳

一人称:俺

職業:弓騎士、迎撃隊隊長

性格:聡明で頭が切れる。たまに毒を吐く。


次男

オズワルド・フォーゲル・ド・ベーム

愛称:オズワルド、オズ

年齢:20歳

一人称:僕

職業:長剣騎士、第二遊撃隊隊長、(穢れ仕事)

性格:愛嬌があり素直だが、頭脳明晰。


三男

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