第76話 1週間振りのお家デート

文字数 2,978文字

 水曜日の夕方。
 彼の車で帰った。勿論、約束の1週間だから、彼が私の家に上がってくる。
 ドアの鍵を掛けた瞬間に、まだ靴を履いたままで私を抱き締めてキスをした。久々だったから、私も嬉しかった。もう中毒になってるのかも知れない。

「こんなところで声が出たら、外に聞こえるかも知れないわよ」
「ああ、ごめん。お邪魔します」
「お邪魔しますって、いつも黙って上がってるじゃない」
「1週間振りだから、過去は忘れてしまった」
「あはは、ボケ老人みたいなこと言わないでよ」
 笑いながら、何時ものようにダイニングテーブルに座って貰った。

「御飯の用意するから、洗面所で手洗いとかしてきてね」
「ありがとう」
「場所とかは、知ってるよね」
「前に教えて貰ったよ」
 作り置きの何品かを冷蔵庫から出して温めたりして用意が完了したところで、彼が戻ってきて席に着いた。

「帰って直ぐに食べられる程度のものだから、ご馳走じゃないけど食べてくださいね」
「ご馳走だよ。ありがとう。頂きます!」
「お風呂とか全部普段どおりでいいの?」
「手術の翌々日から、お風呂入ってるし、別に何も問題ないよ」
「何だか失礼かも知れないけど、簡単な感じよねぇ」
「僕も手術前は、それなりに緊張したけれども、いざ手術台の上へ横になったら、もう俎板(まないた)の上の鯉だから落ち着いた」
「今更泣き喚いて逃げるわけにいかないものねぇ」
「そうそう。……って泣かないよ。男の子だからね」
「あはは、男の子だったら、そんな手術しないでしょ。大人でしょ?」
「そこは、突っ込まないでよ」

「ところで、ホテルの候補とかは見つかった?」
「いくつかは見つかったからメモしておいた」
「ありがとう。じゃ、予約できるか電話してみようかな」
「昼間は、電話できないよねぇ」
「今度の土曜日に電話してみるわね。学校の電話は使いたくないから」
「ごはん食べてから電話してみる? 予約は大丈夫じゃないかな?」
「そうよね。私の名前と住所で予約すればいいわよね?」
「そうしてくれると助かる。電話は、僕の携帯を使おう」
「部屋はダブルベッドにしたらいい?」
「そうしようよ。広いほうがいいものね」
「ホテルの予約が取れたら、レストランの予約もしておく?」
「うん」

 食後、後片付けは後回しにして彼が電話を掛けてから、携帯電話を私に手渡してくれた。1軒目は予約がいっぱいだったけれども、2軒目で予約ができた。
 少し高い料金だったけど、彼が傍で首を縦に振ってくれたので予約した。希望通り眼下に夜景が見えるダブルベッドの部屋だった。
 レストランの予約も、そのホテルで済ませた。時間は、観光をしてから行くので18:30としておいた。少々の時間のずれは構わないそうだ。

「予約が決まると、何だか実感が湧いてきたわね」
「なんか、どきどきするなぁ」
「あは。私もそう。どきどきするわ」
「いい思い出を作ろうね」
「ありがとう」
「当日の食事は、異人館付近のレストランで飛び込みでいいよね」
「時間が読めないから、決めない方がイライラしなくて済むでしょ」
「それと、異人館を全部回るのは大変だから、適当なところでいいよね?」
「そこそこで切り上げて、滝を見に行きましょうよ」
「異人館巡りのあとは六甲山へ早めに登ろうよ」
「それでもいわよ」

「それで、翌日、滝と生田神社に行かない?」
「神社?」
「生田神社って、恋愛成就の神様だって」
「そうなんだ。じゃ、高速を降りたら先ず生田神社に行きましょう。異人館の手前だから通り道じゃない?」
「そうだね。生田神社へ寄ってから異人館に行く途中で昼食にしよう」
「岡山を朝10時に出たとして、高速に乗るまで1時間。高速で神戸まで1時間。12時過ぎに神戸着かな?」
「生田神社で駐車したりとかで1時間。異人館付近には13時着?」
「食事に1時間として、14時頃に異人館巡り開始かなぁ」
「そのあと布引神社へ行く?」
「布引の滝へは、新神戸駅に車を止めて15分くらい歩くみたいね」
「う~ん、往復30分として、全部で1時間みておけばいい?」
「駐車場までの時間とかで30分くらい余分をみておいたほうが良くない?」
「じゃあ、布引の滝に1時間半」
 
「六甲山までは遠いの?」
「新神戸から六甲山山頂までは1時間弱くらいみておいたほうがいいと思う」
「え~と、六甲山のホテルには18時着が必要だよね。レストランに18:30予約だから」
「逆算すると、17時に新神戸出発。布引1時間半を引くと15:30に異人館出発か」
「そうすると、異人館巡りは14時~15時半ね」
「異人館巡りで1時間半かぁ。3カ所くらい回れる感じ?」
「結構、駆け足にならない? 滝は諦めようか?」
「いや、異人館巡りの残りは、翌日も帰る途中で寄っても良いと思うけど」
「あ、そうだね。帰りは、急がないよね」
「岡山へは、暗くなる前に帰ってこられたら良い」
「じゃ、それで決定。あとは天気がいいことを祈ろうね。私、凄く楽しみ」
「僕も楽しみ」

「ちょっと、食事の後片付けするわね。それからコーヒーね」
「ありがとう。僕も何か手伝おうか?」
「いいわよ、大した量ないし、こうしてお話しながらでいいわ」
「こんなに頻繁にここへ来てもいいの? 迷惑じゃない?」
「迷惑じゃないけど、あまり頻繁だと日常生活に支障がでるかも知れないわね」
「1日おきくらいならいい?」

 コーヒーが入ったのでソファへ移動した。彼の隣に座る。1週間ぶりだから、何だか嬉しいけど、ちょっと緊張するかも。

「結心さんも時々遊びにくるから、私の時間も欲しいのよね」
「もう少し間隔を開けたほうがいい?」
「今は、このペースでもいいわ。その内、スケジュールを決めたらいいのじゃない?」
「そうだね」

 彼が、私の肩を抱き寄せると、待ち切れないようにキスをする。懐かしい彼の臭いが充満したように思った。そして、お約束のように彼の手が胸に触った。

「ねぇ、もう刺激的なことをしても大丈夫なの?」
「もう大丈夫だと聞いてるからね」
「来週の検査まではどうするの?」
「残っている精子をせっせと出して空っぽにしないといけないんだって」
「ああ、なるほど。空っぽにするって、アナログっぽい表現ね」
 なんとなく、何も思わず、私は笑ってしまった。
「デジタルには、そういうのは無いでしょ」
 彼も笑って、私も一緒に笑った。――何を話しているのやら、おかしな会話だ。

 深いキスをしながら私の胸の上に置いた彼の手がそっと服の中に侵入してきた。私は普段着に着替えているから、簡単に背中に手が届いてブラのホックを外され、胸の膨らみを彼の手が覆った。初めてのときのような衝撃はないものの、久し振りだから凄く感じてしまい思わず吐息が漏れる。膨らみの先の敏感な部分を触られるとぞくぞくして身体が自然に反応してしまう。――夢中で彼にしがみついて、感じてしまった。

「……ねぇ、こんなことしたらダメじゃないの?」
「こうして詩織さんが感じてくれるだけで嬉しい。ちょっとトイレ」
 そういうと、彼は立ち上がって離れた。
 暫くして戻ってくると「精子を出してきたから大丈夫」と言って、また優しくキスをしてくれる。
 何となく、彼がトイレでしてきたことが分かった。それなら、彼も欲求不満にならなくて済むのよね。
 正直に言って、安心感というかホッとした。だって、私だけが感じていたら彼に悪いような気がするもの。

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登場人物紹介

矢野 詩織 《やの しおり》

大学准教授

近藤 克矩 《こんどう かつのり》

大学教授

天野 智敬 《あまの ともたか》

ソフトウェア会社社長

森山 結心 《もりやま ゆい》

パン屋さんの看板娘

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