14

文字数 1,124文字

日曜日。私は一日家でいた。
思っていたより眠れなくて結局早く起きた今朝。
食欲がなくてコーヒーだけを流し込む。体に染み渡るカフェインは、意識をはっきりとさせてくれた。
私の体がある程度収まるソファに寝転がり、ぼんやりとテレビを見ていた。昼には早すぎる時間にお腹が空き、よく食べる気に入りのカップ麺を食べる。それに缶ビールを一本。
それからはしばらく本を読んだ。小説を読む習慣がきちんと取れるようになったのは、一人になってからだ。
電話が鳴った。
父からだった。
「何してた?」
「家にいて、特に何も。今は本読んでた」
本を机の上に伏せる。
「今夜予定はないのか」
「何も」
「猪鍋、食べるか?」
父は昔から電話好きだと思う。よく晩酌しながら長電話をしていた。そして今は私も、その電話相手の一人。長電話はしないけれど。 

顔を合わせるのは久しぶりだ。

父は日がすっかり暮れた、六時ぴったりに家に来た。それから台所に立って猪鍋をしてくれた。父はいくつか得意な料理がある。おにぎりと天ぷらと鍋。それらは特別美味しい。
猪や鹿の鍋はよく食べた。あまり美味しいとは思わなかった子供の頃。今は肉と一緒に煮込まれた、大根と長ネギ、ちぎりこんにゃくがほんとに美味しいと思う。
父は体を悪くしてから、酒の量はかなり減った。麦焼酎を薄く割ったものをいつも飲んでいる。そして今夜も。
「文音が彼氏と家に来たよ。二時間もかけてわざわざ山奥に」
父は今、山に囲まれた家で住んでいる。父の実家。目の前に川が広がっていて、私はよくそこで遊んだ。
「冷凍してあった鮎を焼いてやったら、頭から食べていたよ。よく酒を飲み、なかなかいい奴だった」
私がまだ会ったことのない文音の彼氏。父に気に入られたようだ。文音はお爺ちゃんが好きな子だった。それは今も変わりなくて。そのことが嬉しい。
「お前は、変わりないのか」
キッチンで湯割りを作っている私の背中越しに、父はそう言った。
「変わらないよ。仕事もそれなりに忙しくしてる。文音はこの間会いに来てくれて、誕生日を祝ってくれたの。ここは静かでいいところだし」
マドラーでゆっくりと混ぜながらそう答えた。
「何かあれば、言えよ。何も気にするな。親は利用するもんだ」
胸の奥がぎゅっとして、泣きたくなった。
まだ飲みすぎていなくてよかった。昼に缶ビールを飲んだ私は、いつもより遅いペースで飲んでいたから。
昔はたくさん喧嘩した。この人は私を分かりすぎている。きっととても似ている。


できることなら父には、私の目で見える限り元気にいてほしい。だから私を見送ってくれればいい。それはとても親不孝で、それ以上親不孝な事はないだろう。それでも私は、そうである事を願わずにはいられない。

私は父を、とても愛している。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み