【シュロスの異邦人ー2】③

文字数 2,280文字

 東部州都軍務部のスミレ・アルタクインがシュロスの城砦に到着したのはその日の夕方だった。スミレは副隊長のフィデス・ステンマルクや文官のフラーベルに挨拶をすませるとナンリの部屋を尋ねた。
 そこにはミユウとササラ、それに見知らぬ男がいた。スミレの部下のミユウは、その男性はフェルナンド・キースという名で、わけあって未来の世界から来たお客様だと言った。
「そこでね、一緒に来た仲間を探すため、ナンリさんがカッセルの城砦に行ってくれることになったんです」
「なにやら込み入った状況ですが、ひとっ走り行ってきます。王女様にも先日のお礼が言いたいし」
「それはご苦労様です。ところで、ミユウはお役に立っていますか。ちょっと心配なので様子を見に来たんです」
「それはもう・・・何でも引き受けてくれますよ、ミユウちゃんは」
「そうか、それなら安心した」
「いえ、そこは、押し付けてると言った方が正しいかと思うんですが」
 ミユウが訂正した。
「すまん、ミユウを押し付けたのは、こっちだった」
 スミレが笑いながら謝った。
「もしかして、スミレさん、私を迎えに来てくれたとか。やっぱり、州都に私がいないと困るでしょう」
「困らない」
「断言しないでください。私の代わりは誰にも務まりませんって」
「いるんだよ。ミユウの代わりが」
 州都軍務部のスミレが部屋の外に声を掛けると、入ってきたのはローズ騎士団文官のニコレット・モントゥーだった。
「ニコレットさんは騎士団を退職して州都の軍に志願してきた。一兵卒から出直す覚悟だというので採用したわけさ。さすがは王宮に勤務していただけあって即戦力だ。今回はフィデスさんに謝罪したいというので連れてきた」
「それは良かった、ミユウちゃんの代わりが見つかったんですね」
「良くないです、まさか、私は・・・ここに、ずっと、シュロスに・・・こんな展開になるとは」
「ところで・・・この男は」
 と、スミレがフェルナンド・キースを振り返った。
「大丈夫です、スパイではありません。むしろ役に立っているくらいです。この人のおかげで謎が解けてきました」
「謎ですか」
「ええ、エルダさんの身体に関することです」
 ナンリはエルダの身体に歯車が組み込まれていた一件やCZ46のことを話した。
「ううむ、初めて聞いたので、今一つよくわからない・・・」
「取り調べに当たっているのはミユウちゃんです。詳しいことは訊いてください」
「それも押し付けられたんです」
 そう言いながら、ミユウはまんざらでもない表情だ。
「ナンリさんが言うのなら任せておきます。この男性に聞かれると困ると思ったのだが、その心配はなそうだ」
 それから州都のスミレは、
「実はここへ来たのは」
 と言った。
 ナンリ、ミユウたちが緊張した面持ちでスミレ・アルタクインの言葉を待った。
「数日前に情報が入ったばかりなのだが、北方のグリア共和国が南下してきた。また戦いになるんだ」

   〇 〇 〇

「ジェインちゃんを助けてあげよう」
 カッセル守備隊の隊員を前にベルネが声を張り上げた。
「未来からやってきたっていう説明を信じることにした。はるばるカッセルの城砦に来たからには、あたしたちの仲間だ。ジェインちゃんが困っているんなら助けてやろう、それが仲間だろう」
 アリスやロッティー、三姉妹、マリア王女様もベルネの話にそうだとばかりに頷いた。一人、司令官のマルシアスだけは蚊帳の外で頬杖をついている。
「どんなことでもいいから、話してよ、ジェインちゃん。みんなで協力するから」
 ベルネに励まされジェインはここに来た目的を話し始めた。
 フェルの研究しているレンガに金属の部品が挟まっていた。それを巡ってCZ46というロボット女が現れ、ある女性を探すために、遺跡の場所から500年も昔の時代に空間移動してきた。しかし、途中で一緒に来たフェルとははぐれてしまった・・・
「予定ではバロムナントカという町に到着するはずだったんです、でも、私が着いたのはカッセルでした。この近くにバロムと名の付く城砦はありませんか」
「そうねえ・・・バロムか・・・待って」
 副隊長のカエデが閃いた。
「バロムナントカではないけど、隣国はバロンギア帝国というのよ。ここから一番近いのはシュロスの城砦だわ」
「シュロス! そうそう、それよ。フェルが言っていたわ」
 ジェインはフェルからシュロスという名を聞いていたのを思い出した。
「遺跡の発掘の場所にあったのはシュロスの城砦なんだって。今ではバロムシュタットという町になってるけど」
「バロムに・・・シュロスの城砦ねえ」
「確かにバロムシュタットに似てる」
 ベルネのおかげでフェルの居場所の手掛かりが見つかりそうになってきた。
「シュロスという町は遠いんですか、フェルはそこにいるかもしれないんです」
「馬を飛ばせば一日半で行ける。馬車なら二日かな」
「敵国だけど、安心して、今のところは友好的よ」
 副隊長のカエデが友好的だと言ったのでジェインはホッとした。
「ところで、ジェイン、ロボットって何のこと」
 スターチが尋ねた。
「そうだよね、この時代にはロボットはいないものね。ロボットは全身が金属とか鉄板の、でも、人間と同じ格好してる人、いえ、ロボット」
「ふうん、聞けば聞くほど難しいわ」

 遺跡・・・シュロスの城砦・・・
 城砦監督のロッティーはジェインが口にした「遺跡」とか「発掘」という言葉に何か引っ掛かるものを感じていた。シュロスの城砦が「遺跡」とは、どういうことだろうか。だが、その疑問がはっきりしないうちに、事態は予想もしない方向へ進んでしまうことになる。
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