第19話 ロビンソン
文字数 2,485文字
「誰も触~れ~ない~、二人だけ~の国~、君の手を~離さ~ぬよ~うに~♪」
「イエーイ! たくみちゃん、いいね~!」
時は10月末──加藤はいつものカラオケ店に畑口と2人で来ていて、スピッツのロビンソンをカラオケで熱唱していた。
普段の様にお酒を浴びる様に飲み、そして狂ったように歌いまくる──何一つ変わらないふりをしていた加藤の変化を畑口は見逃さなかった。
──ロビンソン熱唱後
「たくみちゃん……悪い事言わないから、やめときな……」
「──え? な、何がですか?」
「気持ちは分からないでもないけど……絶対望んでないから、彼女」
「い、いや……気のせい──」
「運命の人、楓ときてロビンソンと来たら、ピンと来るわよ……」
「よ、よく分かりましたね……流石、月光の囁きを愛読書にしているだけありますね、伊織さん……」
「たくみちゃんも、あの作品をただの変態エロ漫画と捉えず、裏に潜む本質を理解したのね……そこからスピッツを学ぶとは……流石、稀代の変態……」
「そりゃ、伊織さんから散々色んな英才教育受けてきましたからね。……さて、久しぶりに勝負しませんか? 今の俺なら……伊織さんに一泡吹かせられる筈ですから」
「ハッ……懲りずにまたこの私に賭けを挑むとは……いい度胸してるわね。いいわ! 返り討ちにしてあげるわ! で……勝負の内容は、何?」
「伊織さんの怒りの感情を引きずり出す……というのはどうですか?」
「ハッ……何を言い出すかと思いきや……できるものならやっ──」
「伊織さん、もしラルクのhydeさんが実はゲイでマッキーとデキてるという噂、俺のメルマガに流したらどうなりますかね?」
「ふざけるんじゃないわよ! もしホントにそんな噂流して彼が失墜したら、地の底までたくみちゃんを追いかけて嬲り殺すからね!」
「フッ……伊織さん、本気で怒るとそういう風になるんですね。怒った顔も中々キュートでしたよ」
「クッ……神を冒涜する汚れたBLネタを持ってくるなんて……まさかここまで成長しているとは……流石、キラーキング……」
「素朴にマッキーがネコでアンアン言って──」
「ぶっ殺すわよ!」
「……なるほど、人の記憶に残りたい場合、あえてこういう手もあるんだ……激しい憎悪という感情で強く意識させた後、ストックホルム症候群の応用で大半の人はどうにかできそうですね。……滅茶苦茶リスキーでしょうけど……やっぱりやる価値は大いにありますね」
「た、たくみちゃん? どうしたの? 何か危ない事、考えてる?」
「……まだ朧気ですが……これで俺が目指すべきFPとしての道が大まかに完成しました」
「今の危ない話から、どうしてそうなるのよ……」
「簡単に、昨晩思い描いた構想を話しますと────」
──15分後──
「──という感じです。個人的には案外いい線いける気しますが、伊織さん、どう思います?」
「……たくみちゃん、それだけは絶対やめときな? 最悪、社会的に潰されちゃうよ? 生きていけなくなっちゃうよ? 世の中、たくみちゃんが思う以上に残酷だから」
「……想定済です。大きすぎて潰したくても潰せない存在になるまでに消されたら……ま、俺はそれまでの存在だったって事で甘んじて最悪を受け止めますよ。ただ……そこまでの存在になれたら……その後はどうとでもなりますよね?」
「確かにそうだけど! リスク大きすぎるじゃない! 何よ、最悪を受け止めるって。それじゃ、まるでホントに命懸けるみたいじゃない!」
「元からそのつもりですよ……何のバックボーンもない無名の男が業界を一変させようとする訳ですから。これくらいのリスクはしょうがないですよ」
「そもそも、その過程の中に強力な味方が現れる事が前提になってるけど、現れなかったら終わりじゃない!」
「伊織さん、言ってくれたじゃないですか。俺は……一生人に助けられて生きていく宿命にあるって。なら……きっと現れますよ。こんな狭い街ですら俺を助けてくれる人にたくさん出会えた訳ですから」
「それでも1人で耐えられる筈ないじゃない! いくらたくみちゃんがドMでも……最後まで持つ筈ないじゃない……壊れちゃうよ……」
「……伊織さんがこれだけ本気で心配してくれるって事は……そこそこ現実味があるからって事ですね。少なくとも潰されそうになるくらいには……なれる訳だ」
「壊れたら意味ないじゃない! そんな事しても、彼女、喜ばないよ? 望んでないよ? たくみちゃんが幸せになる事──」
「妹達が許しませんよ……俺が幸せに、なんて。せめて……あの子達の望み、叶えてあげないと。誰よりも辛い思いして、苦しんで、壊れながら逝かないと」
「…………」
「あの子達や美幸……死んでいった彼女が味わった絶望、苦悩、喪失感……全部俺も味わわなきゃ……」
「……そっか、たくみちゃん、ロージャになりたいんだ……罰を受けたいんだね」
「──?!」
「だったら……協力してあげる。その代わり、もう限界だと思ったら……その子達の所に行きな。きっと……そこでたくみちゃんの旅が終わるから」
「い、意味分かりません……」
「分からなくてもいいから……それだけは絶対する事! 約束だよ!」
「わ、分かりました……」
「間に合うと……いいね」
「……俺もまだまだですね。さっきから伊織さんの言ってる意味、全然理解できません……」
「勉強不足だよ、たくみちゃん。ドストエフスキーの後期五大長編作品や旧約聖書や新約聖書くらいは読破しないと」
「万巻の書を読み千里の道をゆく……ですね」
「文籍腹に満つと雖も一嚢銭に如かず、だけどね」
「両脚の書廚はダメだよ、と」
「知は力なりだからね」
「……一夜君と共に語る、十年書を読むに勝る、です」
「安西先生の気持ち……初めて理解したわ」
「──え?」
「……私に出藍の誉れ、味わわせてね。不貞の弟子になったら……承知しないから」
「……はい」
──保険業界の闇を世に知らしめる事で世論を動かし、業界をぶっ壊す。そして金融リテラシーの高い集団に生まれ変わらせる。
限りなくシャレで出したメルマガによって、加藤の人生は大きく、大きく変わろうとしていた。
「イエーイ! たくみちゃん、いいね~!」
時は10月末──加藤はいつものカラオケ店に畑口と2人で来ていて、スピッツのロビンソンをカラオケで熱唱していた。
普段の様にお酒を浴びる様に飲み、そして狂ったように歌いまくる──何一つ変わらないふりをしていた加藤の変化を畑口は見逃さなかった。
──ロビンソン熱唱後
「たくみちゃん……悪い事言わないから、やめときな……」
「──え? な、何がですか?」
「気持ちは分からないでもないけど……絶対望んでないから、彼女」
「い、いや……気のせい──」
「運命の人、楓ときてロビンソンと来たら、ピンと来るわよ……」
「よ、よく分かりましたね……流石、月光の囁きを愛読書にしているだけありますね、伊織さん……」
「たくみちゃんも、あの作品をただの変態エロ漫画と捉えず、裏に潜む本質を理解したのね……そこからスピッツを学ぶとは……流石、稀代の変態……」
「そりゃ、伊織さんから散々色んな英才教育受けてきましたからね。……さて、久しぶりに勝負しませんか? 今の俺なら……伊織さんに一泡吹かせられる筈ですから」
「ハッ……懲りずにまたこの私に賭けを挑むとは……いい度胸してるわね。いいわ! 返り討ちにしてあげるわ! で……勝負の内容は、何?」
「伊織さんの怒りの感情を引きずり出す……というのはどうですか?」
「ハッ……何を言い出すかと思いきや……できるものならやっ──」
「伊織さん、もしラルクのhydeさんが実はゲイでマッキーとデキてるという噂、俺のメルマガに流したらどうなりますかね?」
「ふざけるんじゃないわよ! もしホントにそんな噂流して彼が失墜したら、地の底までたくみちゃんを追いかけて嬲り殺すからね!」
「フッ……伊織さん、本気で怒るとそういう風になるんですね。怒った顔も中々キュートでしたよ」
「クッ……神を冒涜する汚れたBLネタを持ってくるなんて……まさかここまで成長しているとは……流石、キラーキング……」
「素朴にマッキーがネコでアンアン言って──」
「ぶっ殺すわよ!」
「……なるほど、人の記憶に残りたい場合、あえてこういう手もあるんだ……激しい憎悪という感情で強く意識させた後、ストックホルム症候群の応用で大半の人はどうにかできそうですね。……滅茶苦茶リスキーでしょうけど……やっぱりやる価値は大いにありますね」
「た、たくみちゃん? どうしたの? 何か危ない事、考えてる?」
「……まだ朧気ですが……これで俺が目指すべきFPとしての道が大まかに完成しました」
「今の危ない話から、どうしてそうなるのよ……」
「簡単に、昨晩思い描いた構想を話しますと────」
──15分後──
「──という感じです。個人的には案外いい線いける気しますが、伊織さん、どう思います?」
「……たくみちゃん、それだけは絶対やめときな? 最悪、社会的に潰されちゃうよ? 生きていけなくなっちゃうよ? 世の中、たくみちゃんが思う以上に残酷だから」
「……想定済です。大きすぎて潰したくても潰せない存在になるまでに消されたら……ま、俺はそれまでの存在だったって事で甘んじて最悪を受け止めますよ。ただ……そこまでの存在になれたら……その後はどうとでもなりますよね?」
「確かにそうだけど! リスク大きすぎるじゃない! 何よ、最悪を受け止めるって。それじゃ、まるでホントに命懸けるみたいじゃない!」
「元からそのつもりですよ……何のバックボーンもない無名の男が業界を一変させようとする訳ですから。これくらいのリスクはしょうがないですよ」
「そもそも、その過程の中に強力な味方が現れる事が前提になってるけど、現れなかったら終わりじゃない!」
「伊織さん、言ってくれたじゃないですか。俺は……一生人に助けられて生きていく宿命にあるって。なら……きっと現れますよ。こんな狭い街ですら俺を助けてくれる人にたくさん出会えた訳ですから」
「それでも1人で耐えられる筈ないじゃない! いくらたくみちゃんがドMでも……最後まで持つ筈ないじゃない……壊れちゃうよ……」
「……伊織さんがこれだけ本気で心配してくれるって事は……そこそこ現実味があるからって事ですね。少なくとも潰されそうになるくらいには……なれる訳だ」
「壊れたら意味ないじゃない! そんな事しても、彼女、喜ばないよ? 望んでないよ? たくみちゃんが幸せになる事──」
「妹達が許しませんよ……俺が幸せに、なんて。せめて……あの子達の望み、叶えてあげないと。誰よりも辛い思いして、苦しんで、壊れながら逝かないと」
「…………」
「あの子達や美幸……死んでいった彼女が味わった絶望、苦悩、喪失感……全部俺も味わわなきゃ……」
「……そっか、たくみちゃん、ロージャになりたいんだ……罰を受けたいんだね」
「──?!」
「だったら……協力してあげる。その代わり、もう限界だと思ったら……その子達の所に行きな。きっと……そこでたくみちゃんの旅が終わるから」
「い、意味分かりません……」
「分からなくてもいいから……それだけは絶対する事! 約束だよ!」
「わ、分かりました……」
「間に合うと……いいね」
「……俺もまだまだですね。さっきから伊織さんの言ってる意味、全然理解できません……」
「勉強不足だよ、たくみちゃん。ドストエフスキーの後期五大長編作品や旧約聖書や新約聖書くらいは読破しないと」
「万巻の書を読み千里の道をゆく……ですね」
「文籍腹に満つと雖も一嚢銭に如かず、だけどね」
「両脚の書廚はダメだよ、と」
「知は力なりだからね」
「……一夜君と共に語る、十年書を読むに勝る、です」
「安西先生の気持ち……初めて理解したわ」
「──え?」
「……私に出藍の誉れ、味わわせてね。不貞の弟子になったら……承知しないから」
「……はい」
──保険業界の闇を世に知らしめる事で世論を動かし、業界をぶっ壊す。そして金融リテラシーの高い集団に生まれ変わらせる。
限りなくシャレで出したメルマガによって、加藤の人生は大きく、大きく変わろうとしていた。