第11話 また新人(?)と……
文字数 5,007文字
「時~に愛は2人を試してる~ Because I love you~♪」
「イエーイ! たくみちゃん、いいね~」
(俺は……一体何をやっているんだろうか……こんな真昼間から……)
時は9月──加藤は九重でも古田でもなく、とある新人(?)職員と昼間のフリータイムのカラオケに来ていた。
場面は少し前に遡る。
先日の夜の出来事の結果──古田は突然退社した。新人が1ヶ月でいなくなる事はよくある事とはいえ、古田の退職は皆の噂話の中心となっていた。──絶対加藤と何かあったんだ、と。自業自得とはいえ、何とも気まずい空気に久しぶりに胸が痛む思いをしていたとある日、小橋に呼び出され、事情を聞かれる事となった。
「──そう、だから古田は突然退社しちゃったのね。中々お似合いだと思ってたけど、流石にまだ早かったか……彼女亡くしてまだ半年も経ってないし」
加藤は九重の事のみ隠し、全てを小橋に話した。てっきり怒られるかと覚悟していたら、意外な事を小橋は言い出した。
「ま、こういう事もあるから。これに懲りずに、また今日から1人面倒、見てね」
あまりに予想外の小橋の言葉に首をかしげていると、さらに続けてきた。
「結果は残念だったけど、それで加藤君の評価が変わる事はないから。これから色んなタイプの子を指導して、一流のトレーナーになって貰わないと、ね」
「あ、い、いや……俺、やっぱり──」
「もう少し考えてみてよ。次のアテ、まだ何もないんでしょ? 外資の話も断ったみたいだし」
「──?! よ、よくご存じ──そういえば、俺の事、調査してましたね……」
「お金だって入用でしょ? あえて何かは聞かないけど」
「は、はい……確かに……」
「だったら、すぐ答え出さないでせめて今年中……今年度中までどうするか考えてもいいじゃない」
「け、けど……それじゃ給料泥棒みたいになっちゃい──」
「それくらいの貢献は今まで十分したから。それに、その間にいろんな新人の子の指導でもしていれば少しは気が紛れるでしょ?」
「は、はぁ……」
「よし、決定! これは私と加藤君との約束だからね! じゃ、畑口の事よろしくね~、後で挨拶いかせるから」
「ちょ、ちょっと──」
……という何とも強引な流れで、再び1人の新人の面倒を任された加藤。そして、小橋はとんでもない事を言い残し、颯爽と去っていった。
──年上のバツイチなら、結婚の心配しなくて安心して遊べるでしょ? 畑口はうってつけだから、安心して楽しんでね♪
生きる伝説の生保レディ小橋の恐ろしさを垣間見た気がした加藤であった。
■ヒモ……?
小橋が去っていき、途方に暮れていると入れ替わる様に1人の女性が入って来た。先ほど小橋が言っていた新人である。加藤はその女性を見た時、思わず目が点になっていた。まるで夜の街からそのまま抜け出してきましたとでも言わんがばかりの格好、モデルの様なスタイル、そしてルックス──
(こ、この高級クラブのママみたいな女性の面倒を俺が……見る……? 無理だろ!)
これが、加藤が畑口伊織に対して抱いた第一印象だった。恐ろしくキレイではある──が、そこらの男には絶対手に余る存在……下手に手を出したら大やけどをしてしまう女……極道の女。
そんな畑口を一体どうやって指導、いや、それ以前にどう接していけばいいんだ? と加藤が頭を悩ませていた矢先、畑口がとんでもない事を言い出した。
「じゃ、取りあえずカラオケいこっか。お互いよく知る為には、まずお酒飲んで一緒に騒ぐのが一番だから」
「──は? い、いや、俺、今日は昼から仕事が──」
「固い事言わないの~。今日はこれが仕事だから~。ほら、小橋さんから軍資金も貰ってるんだから。今日はたくみちゃんを連れて親交を深めろって」
「い、いや……普通、そういうのは仕事が終わってからって話かと……え? たくみ……ちゃん?」
「たまには昼間から羽目を外すのもメリハリ出てありだって~。ほら、時間が勿体ないからいくよ!」
「ちょ、ちょっと──」
……という訳の分からない流れで、カラオケへ連行された加藤であった。
そして時間は冒頭に戻る。
カラオケを歌っては喉を潤す為にアルコール、そんな事を3時間もしているうちに、加藤達はすっかり出来上がっていた。
「いや~、たくみちゃん、意外にノレるね~。流石、キラーキング」
「な、なんですか、それ……」
「有名だよ? この街で一番の女ったらしはたくみちゃんだって。社内の子をすけこまして契約を取る悪魔的手法はアイツにしかできないって」
「か、勝野さんね……また訳分からん噂、流してるんだ……」
「俺がどうやっても堕とせなかった九重をあっという間に手駒にしたアイツは心底恐ろしいって、震えながら言ってたよ」
「な、何を……」
「アイツには近づくな! もしアイツに少しでも関わったら二度と堅気の生活に戻れなくなるぞ! まだホストにハマった方がマシだ、って私に何度も」
「い、意味分からん……」
「そんな危険な噂の絶えないたくみちゃんは、一体どんな魔法を使うんだろうって半年前からずっと興味持ってたの♡」
「い、いや……デタラメもいい所ですって……俺なんて、そこら辺にいる25歳の普通の男の1人に過ぎないですって……それは、もう分かりましたよね? って、半年前? え?」
「抱いてたイメージとかなり違ったけど……ある意味噂以上って事は分かったわ。これは勝野君、勝てないわ~」
「い、意味分かりません……」
「天然でこれは、確かに危険だわ~。九重ちゃんも古田ちゃんも山田さんも他営業所の山口って人もコロっといっちゃう訳だ。たくみちゃん……今までたくさんの人に助けて貰って来たでしょ」
「──?!」
「上手く表現できないけど、たくみちゃんと一緒にいると何かしてあげたいって母性本能が凄いくすぐられるんだよね~。そういうフェロモンが恐ろしく強烈なんだよね~」
「フェロ……モン?」
「凄い男性らしい所もあれば、妙に女性らしい所もあったり、頼りがいがあったり、か弱かったり、とにかく両極端が混在して、凄い不安定だから……何とかしてあげなくっちゃって気持ちになる人、多いよ~、絶対」
「な、何か俺……凄い危なっかしい人みたいじゃないですか。もっと、こう、男の中の男とか、芯が強い男とか、そういうのに憧れるんですが」
「無理に決まってるじゃないw 自分の特性はちゃんと理解しなきゃ。一生たくみちゃんは人に助けられて生きていくから」
「う、うぅぅ……俺、1人で生きていけないんだ……ヒモみたいに生きていくんだ……」
「何言ってるの? ヒモは憧れの仕事の断トツ一位じゃない。なりたくてもなれない人なんて星の数程いるんだし」
「うぅぅ、そうかもしれないですけど、1人で生きていける力が欲しいですよ、俺は……」
「たくみちゃんには絶対無理だからw 割り切ってその才能を伸ばす事を考えた方が絶対いいから! これから私がしっかり教育していくから、任せて!」
「い、いや……何か訳分からん方向に話が進んでいる様な……そもそも、何で俺が教わ──」
「そうと決まったら、今日は飲むわよ! ほら、たくみちゃん、一気! 一気!」
(俺はホントに真昼間から何やってるんだろう……)
……こんな感じで、新人(?)との親睦を深めていく事になった加藤であった。
こんな意味不明な形で始まった畑口との関係は、意外な程長く続く事となり……そして畑口は九重と同様、下手したらそれ以上に深く関わっていく事になっていく。
様々なピースが重なっていき、やがて加藤は小橋が恐れた破壊神への道を本当に辿っていく事になるのだが、それはもう少し先の話である。
■願い事1つだけ、再び
──九重が暴走した翌夜
「たくみ君、お願いごと1つだけ聞いてあげる、何がいい?」
「え~っと、どういう事?」
「昨日のお詫び。1日経って冷静に考えてみたら、私、とんでもない事しちゃったな~って思って」
「ん? 別にいいって~、そんな気にしなくても」
「それじゃ私の気が済まないの! だって私の軽率な暴走なせいでたくみ君の未来が変わっちゃったかもしれないから。さ、遠慮しないで言ってみて」
「……俺、さらにとんでもない事言うかもしれないよ? 後悔しても知らないよ?」
「い、いいわよ! 何よ!」
「じゃ、さ……────」
「──?!」
──翌日
「うぅぅ……何でこんな事に……普通、あれだけの事でここまでして貰おうと思う?」
「www 俺、元々空気読めないから」
「私にセーラー服着て女子高生のフリして予備校に潜り込めなんて……一体どういう神経してるのよ!」
「だから言ったじゃん、別に約束守らなくても構わないからって。聞いてあげるっていう事は叶えてあげるっていう意味じゃないとも言えるし」
「そんなペテン師みたいな事、私のプライドが許さないから! それにしても……うぅぅ……私は何をやってるんだろう……」
「ま、いいじゃん、花嫁修業だと思えば。フィアンセ、意外にこういう趣味あるかもしれないし。それに制服もタダで手に入ってラッキーじゃん。意外に似合ってるし、まだ現役で十分通用するって」
「フィアンセにそんな性癖あったら婚約破棄するわよ! このバカ!」
「イメクラで女子高生の制服は人気NO.1だから。絶対フィアンセ、いつもより元気になるって。流石に俺には無理だから……彼女に話掛けなくてもいいから、様子を遠くから見て来てくれるだけでいいから……って、流石に迷惑かけすぎか、ごめん。やっぱいい──」
「やるって言ってるでしょ! 何度も言わせないで! こうなったら徹底的にやるわよ! 一眼レフも用意してよね!」
「い、いや……流石にそこまで望んでないから。予備校に潜り込むだけでも大変──」
「学校に潜り込むから!」
「……は?」
「予備校で張り込むより、いっその事学校に潜り込んだ方が手っ取り早いでしょ! 部活の様子もカメラに収めてくるから!」
「お、お前……バカ? どこの世界に高校生のフリして学校に忍び込む23歳がいるんだよ……もしバレたら──」
「そんな私に女子高生のフリして予備校に忍び込ませようとしてる人が、良くそんな事言えるわね! こんな事バレたら一環の終わりなのは同じでしょ! 何日もかけるより1日で終わらせた方がまだリスク低いから! ……近くで待機しててよね!」
「わ、分かったよ……けど、もし捕まったら1人で──」
「共犯に決まってるでしょ! ったく、もうこの男は……(ブツブツブツ……)」
──数日後
「──♪」
「お前……これどうやったんだよ……何でカメラ目線になってるんだよ、美子ちゃん……」
「卒業式や卒業アルバムに使うかもしれないからって言ったら余裕だったわよ。すっかり私を生徒会の役員だと勘違いしてたから」
「お、お前……凄いな……それ、営業に活かせば余裕で一財築ける様な……」
「何言ってるの? これくらい営業かじった人なら誰でもできるわよ。ね? たくみ君が営業向いてないってよく分かったでしょ?」
「し、知らなかった……みんなこういう事、当たり前の様にできるんだ……俺、ダメ営業マンだったんだ……ちょっと落ち込むよ……」
「ドンマイ♡ で、その美子ちゃんっていうのはたくみ君の推しのアイドルか何か? 人の趣味をとやかくいうつもりはないけど、ほどほどにしとかないと、ストーカーで捕まっちゃうよ?」
「……美子ちゃん、元気そうだった?」
「ん? 明るくてよく喋ってたよ。友達と常に一緒にいたし」
「……テニス、やってた?」
「写真みたら分かるでしょ? キャーキャー叫びながら楽しそうにテニスしてたよ」
「……そっか……良かった……あ、このラケットにシューズ……ちゃんと使ってくれてたんだ……」
「何? プレゼントまで送ってたの? それ、危ないよ……絶対報われないよ? もうたくみ君もいい年なんだから、現実に目を向けなきゃ」
「……分かってるよ、絶対報われない事なんて。ただ、彼女が少しでも幸せになるなら……俺はそれで充分満足だから。その為だったら、俺は何だってするよ……」
「いいな~……私もプレゼント欲しいな~」
「ん? 制服買ってあげたじゃん。現役の制服なんて貴重だよ? あ、そういえばもう1人探って欲しいんだけど、ブレザーなんだよね、あそこの学校。また買ってあげるから──」
「二度とやらないわよ! バカ!」
「wwwwww」
※美子=死別した美幸の妹
「イエーイ! たくみちゃん、いいね~」
(俺は……一体何をやっているんだろうか……こんな真昼間から……)
時は9月──加藤は九重でも古田でもなく、とある新人(?)職員と昼間のフリータイムのカラオケに来ていた。
場面は少し前に遡る。
先日の夜の出来事の結果──古田は突然退社した。新人が1ヶ月でいなくなる事はよくある事とはいえ、古田の退職は皆の噂話の中心となっていた。──絶対加藤と何かあったんだ、と。自業自得とはいえ、何とも気まずい空気に久しぶりに胸が痛む思いをしていたとある日、小橋に呼び出され、事情を聞かれる事となった。
「──そう、だから古田は突然退社しちゃったのね。中々お似合いだと思ってたけど、流石にまだ早かったか……彼女亡くしてまだ半年も経ってないし」
加藤は九重の事のみ隠し、全てを小橋に話した。てっきり怒られるかと覚悟していたら、意外な事を小橋は言い出した。
「ま、こういう事もあるから。これに懲りずに、また今日から1人面倒、見てね」
あまりに予想外の小橋の言葉に首をかしげていると、さらに続けてきた。
「結果は残念だったけど、それで加藤君の評価が変わる事はないから。これから色んなタイプの子を指導して、一流のトレーナーになって貰わないと、ね」
「あ、い、いや……俺、やっぱり──」
「もう少し考えてみてよ。次のアテ、まだ何もないんでしょ? 外資の話も断ったみたいだし」
「──?! よ、よくご存じ──そういえば、俺の事、調査してましたね……」
「お金だって入用でしょ? あえて何かは聞かないけど」
「は、はい……確かに……」
「だったら、すぐ答え出さないでせめて今年中……今年度中までどうするか考えてもいいじゃない」
「け、けど……それじゃ給料泥棒みたいになっちゃい──」
「それくらいの貢献は今まで十分したから。それに、その間にいろんな新人の子の指導でもしていれば少しは気が紛れるでしょ?」
「は、はぁ……」
「よし、決定! これは私と加藤君との約束だからね! じゃ、畑口の事よろしくね~、後で挨拶いかせるから」
「ちょ、ちょっと──」
……という何とも強引な流れで、再び1人の新人の面倒を任された加藤。そして、小橋はとんでもない事を言い残し、颯爽と去っていった。
──年上のバツイチなら、結婚の心配しなくて安心して遊べるでしょ? 畑口はうってつけだから、安心して楽しんでね♪
生きる伝説の生保レディ小橋の恐ろしさを垣間見た気がした加藤であった。
■ヒモ……?
小橋が去っていき、途方に暮れていると入れ替わる様に1人の女性が入って来た。先ほど小橋が言っていた新人である。加藤はその女性を見た時、思わず目が点になっていた。まるで夜の街からそのまま抜け出してきましたとでも言わんがばかりの格好、モデルの様なスタイル、そしてルックス──
(こ、この高級クラブのママみたいな女性の面倒を俺が……見る……? 無理だろ!)
これが、加藤が畑口伊織に対して抱いた第一印象だった。恐ろしくキレイではある──が、そこらの男には絶対手に余る存在……下手に手を出したら大やけどをしてしまう女……極道の女。
そんな畑口を一体どうやって指導、いや、それ以前にどう接していけばいいんだ? と加藤が頭を悩ませていた矢先、畑口がとんでもない事を言い出した。
「じゃ、取りあえずカラオケいこっか。お互いよく知る為には、まずお酒飲んで一緒に騒ぐのが一番だから」
「──は? い、いや、俺、今日は昼から仕事が──」
「固い事言わないの~。今日はこれが仕事だから~。ほら、小橋さんから軍資金も貰ってるんだから。今日はたくみちゃんを連れて親交を深めろって」
「い、いや……普通、そういうのは仕事が終わってからって話かと……え? たくみ……ちゃん?」
「たまには昼間から羽目を外すのもメリハリ出てありだって~。ほら、時間が勿体ないからいくよ!」
「ちょ、ちょっと──」
……という訳の分からない流れで、カラオケへ連行された加藤であった。
そして時間は冒頭に戻る。
カラオケを歌っては喉を潤す為にアルコール、そんな事を3時間もしているうちに、加藤達はすっかり出来上がっていた。
「いや~、たくみちゃん、意外にノレるね~。流石、キラーキング」
「な、なんですか、それ……」
「有名だよ? この街で一番の女ったらしはたくみちゃんだって。社内の子をすけこまして契約を取る悪魔的手法はアイツにしかできないって」
「か、勝野さんね……また訳分からん噂、流してるんだ……」
「俺がどうやっても堕とせなかった九重をあっという間に手駒にしたアイツは心底恐ろしいって、震えながら言ってたよ」
「な、何を……」
「アイツには近づくな! もしアイツに少しでも関わったら二度と堅気の生活に戻れなくなるぞ! まだホストにハマった方がマシだ、って私に何度も」
「い、意味分からん……」
「そんな危険な噂の絶えないたくみちゃんは、一体どんな魔法を使うんだろうって半年前からずっと興味持ってたの♡」
「い、いや……デタラメもいい所ですって……俺なんて、そこら辺にいる25歳の普通の男の1人に過ぎないですって……それは、もう分かりましたよね? って、半年前? え?」
「抱いてたイメージとかなり違ったけど……ある意味噂以上って事は分かったわ。これは勝野君、勝てないわ~」
「い、意味分かりません……」
「天然でこれは、確かに危険だわ~。九重ちゃんも古田ちゃんも山田さんも他営業所の山口って人もコロっといっちゃう訳だ。たくみちゃん……今までたくさんの人に助けて貰って来たでしょ」
「──?!」
「上手く表現できないけど、たくみちゃんと一緒にいると何かしてあげたいって母性本能が凄いくすぐられるんだよね~。そういうフェロモンが恐ろしく強烈なんだよね~」
「フェロ……モン?」
「凄い男性らしい所もあれば、妙に女性らしい所もあったり、頼りがいがあったり、か弱かったり、とにかく両極端が混在して、凄い不安定だから……何とかしてあげなくっちゃって気持ちになる人、多いよ~、絶対」
「な、何か俺……凄い危なっかしい人みたいじゃないですか。もっと、こう、男の中の男とか、芯が強い男とか、そういうのに憧れるんですが」
「無理に決まってるじゃないw 自分の特性はちゃんと理解しなきゃ。一生たくみちゃんは人に助けられて生きていくから」
「う、うぅぅ……俺、1人で生きていけないんだ……ヒモみたいに生きていくんだ……」
「何言ってるの? ヒモは憧れの仕事の断トツ一位じゃない。なりたくてもなれない人なんて星の数程いるんだし」
「うぅぅ、そうかもしれないですけど、1人で生きていける力が欲しいですよ、俺は……」
「たくみちゃんには絶対無理だからw 割り切ってその才能を伸ばす事を考えた方が絶対いいから! これから私がしっかり教育していくから、任せて!」
「い、いや……何か訳分からん方向に話が進んでいる様な……そもそも、何で俺が教わ──」
「そうと決まったら、今日は飲むわよ! ほら、たくみちゃん、一気! 一気!」
(俺はホントに真昼間から何やってるんだろう……)
……こんな感じで、新人(?)との親睦を深めていく事になった加藤であった。
こんな意味不明な形で始まった畑口との関係は、意外な程長く続く事となり……そして畑口は九重と同様、下手したらそれ以上に深く関わっていく事になっていく。
様々なピースが重なっていき、やがて加藤は小橋が恐れた破壊神への道を本当に辿っていく事になるのだが、それはもう少し先の話である。
■願い事1つだけ、再び
──九重が暴走した翌夜
「たくみ君、お願いごと1つだけ聞いてあげる、何がいい?」
「え~っと、どういう事?」
「昨日のお詫び。1日経って冷静に考えてみたら、私、とんでもない事しちゃったな~って思って」
「ん? 別にいいって~、そんな気にしなくても」
「それじゃ私の気が済まないの! だって私の軽率な暴走なせいでたくみ君の未来が変わっちゃったかもしれないから。さ、遠慮しないで言ってみて」
「……俺、さらにとんでもない事言うかもしれないよ? 後悔しても知らないよ?」
「い、いいわよ! 何よ!」
「じゃ、さ……────」
「──?!」
──翌日
「うぅぅ……何でこんな事に……普通、あれだけの事でここまでして貰おうと思う?」
「www 俺、元々空気読めないから」
「私にセーラー服着て女子高生のフリして予備校に潜り込めなんて……一体どういう神経してるのよ!」
「だから言ったじゃん、別に約束守らなくても構わないからって。聞いてあげるっていう事は叶えてあげるっていう意味じゃないとも言えるし」
「そんなペテン師みたいな事、私のプライドが許さないから! それにしても……うぅぅ……私は何をやってるんだろう……」
「ま、いいじゃん、花嫁修業だと思えば。フィアンセ、意外にこういう趣味あるかもしれないし。それに制服もタダで手に入ってラッキーじゃん。意外に似合ってるし、まだ現役で十分通用するって」
「フィアンセにそんな性癖あったら婚約破棄するわよ! このバカ!」
「イメクラで女子高生の制服は人気NO.1だから。絶対フィアンセ、いつもより元気になるって。流石に俺には無理だから……彼女に話掛けなくてもいいから、様子を遠くから見て来てくれるだけでいいから……って、流石に迷惑かけすぎか、ごめん。やっぱいい──」
「やるって言ってるでしょ! 何度も言わせないで! こうなったら徹底的にやるわよ! 一眼レフも用意してよね!」
「い、いや……流石にそこまで望んでないから。予備校に潜り込むだけでも大変──」
「学校に潜り込むから!」
「……は?」
「予備校で張り込むより、いっその事学校に潜り込んだ方が手っ取り早いでしょ! 部活の様子もカメラに収めてくるから!」
「お、お前……バカ? どこの世界に高校生のフリして学校に忍び込む23歳がいるんだよ……もしバレたら──」
「そんな私に女子高生のフリして予備校に忍び込ませようとしてる人が、良くそんな事言えるわね! こんな事バレたら一環の終わりなのは同じでしょ! 何日もかけるより1日で終わらせた方がまだリスク低いから! ……近くで待機しててよね!」
「わ、分かったよ……けど、もし捕まったら1人で──」
「共犯に決まってるでしょ! ったく、もうこの男は……(ブツブツブツ……)」
──数日後
「──♪」
「お前……これどうやったんだよ……何でカメラ目線になってるんだよ、美子ちゃん……」
「卒業式や卒業アルバムに使うかもしれないからって言ったら余裕だったわよ。すっかり私を生徒会の役員だと勘違いしてたから」
「お、お前……凄いな……それ、営業に活かせば余裕で一財築ける様な……」
「何言ってるの? これくらい営業かじった人なら誰でもできるわよ。ね? たくみ君が営業向いてないってよく分かったでしょ?」
「し、知らなかった……みんなこういう事、当たり前の様にできるんだ……俺、ダメ営業マンだったんだ……ちょっと落ち込むよ……」
「ドンマイ♡ で、その美子ちゃんっていうのはたくみ君の推しのアイドルか何か? 人の趣味をとやかくいうつもりはないけど、ほどほどにしとかないと、ストーカーで捕まっちゃうよ?」
「……美子ちゃん、元気そうだった?」
「ん? 明るくてよく喋ってたよ。友達と常に一緒にいたし」
「……テニス、やってた?」
「写真みたら分かるでしょ? キャーキャー叫びながら楽しそうにテニスしてたよ」
「……そっか……良かった……あ、このラケットにシューズ……ちゃんと使ってくれてたんだ……」
「何? プレゼントまで送ってたの? それ、危ないよ……絶対報われないよ? もうたくみ君もいい年なんだから、現実に目を向けなきゃ」
「……分かってるよ、絶対報われない事なんて。ただ、彼女が少しでも幸せになるなら……俺はそれで充分満足だから。その為だったら、俺は何だってするよ……」
「いいな~……私もプレゼント欲しいな~」
「ん? 制服買ってあげたじゃん。現役の制服なんて貴重だよ? あ、そういえばもう1人探って欲しいんだけど、ブレザーなんだよね、あそこの学校。また買ってあげるから──」
「二度とやらないわよ! バカ!」
「wwwwww」
※美子=死別した美幸の妹