第17話 メルマガ「大きな声では言えない生保会社の裏事情」誕生秘話

文字数 2,265文字

■伝説の始まり……?

 10月初旬──北さんの突然の一言より全てが始まった。

「加藤君、メルマガ出そっか」

※メールマガジン……簡単に説明すると、個人や企業が発信するメール雑誌みたいなもの。

 いまいち意味が分からず、ポカーンとしている加藤に対し、さらに北さんは続ける。

「2人で伝説作ろうやって約束しただろ? まさかと思うけど……忘れてた?」

「い、いえ、ちゃ~んと覚えてますよ。その為に気合でタイピングゲームで鍛えてますので」

「じゃ、問題ないな。来週までに俺に原稿送ってよ。発行手続きは俺がやるからさ。もう部屋貸して半年くらいになるから、ネタの一つや二つくらい用意してあるよな? じゃ、ヨロシク!」

 恐らく多くの読者もすっかり忘れている事であろう。現在の加藤の事務所という名の住まいは、この北さんから無償で貸して貰っている事を。

──何も飛び込みだけが営業じゃないって。他の手段考えればいいだけじゃん。これからはネットの時代だし。加藤君の体験談とか、滅茶苦茶面白いから、上手くやればネット上で活躍できるんじゃないかな~って思ってね。……これからパソコンやネットの事、1から教えていくから。将来2人で伝説でも作ろうや。

 当時の北さんの言っていた事を思いだし、加藤は……青ざめた。

(ど、どうしよう……思いっきり忘れてたよ……ネタ、何も用意してないよ……何とかしなければ……)

 加藤、全く白紙状態のまま──いきなり計画始動!


■相談者その1:九重

──その日の夜、泥酔している九重に相談

「──ん~、メールマガジンか~。これなんか参考になるんじゃない? 私が愛読してるヤツ。面白いよ?」

「……裏モノライター野田スカの奮闘記? え、えっと……確かに面白いけど、な、何か不真面目過ぎない? 何か、こう、読んでて為になる様なヤツ、俺はやりたいんだけど……」

「そんなの興味あるの、ごく一部だって~。漫画の売上と小説の売上を比較したら一目瞭然じゃん」

「た、確かにその通りだけど……保険って基本、小難しいじゃん。題材的にお堅い内容になるのが──」

「それを面白おかしく書いたもの、あったら私は喰いつくな~。重大月とか施策とか、見方を変えればネタの宝庫じゃん、保険会社って」

「そ、その通りだけど……そんな会社に喧嘩売る様な内容を書いたら──」

「バレなきゃ問題ないって! それに、現実はそこまで甘くないから。注目浴びる程にはならないから心配するだけ無駄だってw」

「ま……確かにね……業界暴露ものか……ちょっと考えてみるわ」

「それにしてもたくみ君、いい度胸してるね~。まさか業界全体を敵に回すなんて。流石、歩く波乱万丈男! カッコいい~!」

「…………」

■相談者その2:畑口

──翌日、例のカラオケ店で畑口に相談

「──ってな感じで九重は言ってたんですが、伊織さんはどう思います?」

「脚フェチは高確率でM男に昇華するから狙いはいいと思うよ」

「あ、相変わらず意味不明な例えで理解できないんですが……」

「ノーマルの人をアナルを掘られたいと思う変態ドMにする為にはステップが必要だよって話だよ。SMの基本でしょ?」

「要するに、メンズエステ→M性感エステ→SMクラブやニューハーフヘルスという風に……という事ですね?」

「そう! 大分成長したじゃん、たくみちゃん。取りあえず間口を広げて深みにはめていくというのはどの世界でも基本だから」

「……最初の間口はライトに、という事ですね、なるほど……」

「後はタイトルも重要だから。ほら、こないだ貸したDVDなんて傑作だったでしょ?」

「……パイパニック~あなたの股間もデカプリオ~でしたっけ。あんな原作を冒涜した作品、初めてみました。九重、怒り狂ってましたよ……これは酷いって」

「けど、妙に記憶に残るでしょ? これが人を惹きつけるセンスだから」

「……何となく分かりました。取りあえず業界暴露ネタという方向でやってみます。上手くいくか分かりませんが……」

「そうと決まったら、今日もとことん飲むわよ! ほら、たくみちゃん、一気! 一気!」

……九重と畑口という強力な味方(?)による的確な(狂った?)アドバイスを得て、加藤のメルマガ作成計画は着々と進められていった。

■そして出来たものがコレ……

──1週間後

「──どうです? 取りあえず2パターン作ってみたんですが」

「……まさかの保険業界の暴露話、それに、ドラえもんのパロディでしずかちゃんが悪徳生保レディになってのび太君をハメていくとんでも物語ときたか……ぶっ飛んでるね~」

「取りあえず、間口をなるべく広く面白おかしくという感じで考えたら、こうなっちゃいました。北さん……どうです? やっぱ不味いですかね」

「ドラえもんのパロディものは著作権にモロひかかりそうだから保留として……保険業界の暴露話ものは、もしかしたら人気出るかもしれないね、少なくとも俺はこんな保険業界の暴露もの、見た事ないし。文章力はまだまだだけど、何か勢い感じるし……これがどうお金になるか分からんけど……シャレでやってみるか!」

(マジか……ホントにこれやる事になるか……冷静にこれ、FPからかけ離れているような……ま、取りあえず文章を書く練習と思って、九重や畑口、北さんを楽しませる為にやってみるか!)

……という感じで「大きな声では言えない生保会社の裏事情」というメールマガジンはスタートを切った。限りなくシャレで発行したこのメールマガジンにより、加藤の人生は普通から大きく逸脱していく事になるが、当時は当然その事を知る由もなかった。
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