第14話
文字数 3,130文字
13時30分 ブルー★ベルベット第30話。
ーーー1968年12月10日午前9時20分
発煙筒から白いもやが立ち昇り、あたりに広がり始める。怯えた羊の群れのように身を寄せあっている現金輸送車に乗っていた4人の行員。
そのとき雷鳴がした。
おかしいことに気づいた行員の一人がダイナマイト(消えゆく発煙筒)に近寄っていく。そして怒声とともに、ブルー★ベルトが始まる。
行員「た、大変だ!強盗だ!」
午前10時18分に現金輸送車が、現金三億円を奪われた府中刑務所の塀前からほぼ北方直線距離で約1キロの人家の少ない原っぱに乗り捨ててあるのが発見される。車内からは現金を詰めたジュラルミンケースが消えていた。
午前10時32分に全車輛の検問が都内と、それに隣接する各県に指令された。
ーーー時代は1975年12月24日・成田から高速で都心に向かうタクシーの中
ボスがアキオが寝ている横で、三億円事件時効成立の見出しがかかれた週刊誌を読んでる。
白バイの男の手配写真を見つめながら回想するボス。
ーーー1968年11月10日・喫茶店
事件の1ヶ月前。
ドアを開けるとベルがチリンチリンとなる。
楽しそうにおしゃべりをひとしきり交わしている若い男女のグループが座っている。
そこにベルがチリンチリンとなり、若い男2人が入ってくる。一人が持っていた薄い箱をカウンターの上に投げるように置く。
マスター(ボス)「なんだこれ?」
男が期待に満ちた表情で言う。男「マスターにプレゼント」
一緒に来たもう一人の男はスポーツ新聞を持っている。「かっぱらったんだろ」
男「うるせーんだよ、いい物だから、かっぱらったんだよ。マスターにと思ってさ」男が言う。「開けてみなよ」
マスターが箱を手にとって開けると、ブルーのベルベットのマフラーが入っている。
マスター「ありがとう、気に入ったよ」
似合うかどうかしてみてくれと男がいう。
マスター「マフラーっていうのはどんな人間にも似合うものだよ」
それでもしろとしつこいのでいわれるとおりにする。
男はにっこりして笑う。が、白バイの男のモンタージュ写真とは違う。
ーーー時代は1975年12月24日・走るタクシーの中
寝ていたアキオが起きる。ボスは週刊誌を閉じる。
東京の街が見えてくる。アキオはこれから始まることに心を奪われている様子。
ーーー霞が関で高速を降りるタクシー・ホテルニューオータニに入って行く
タクシーからおりる二人。フロントまでボーイが先導する。チェックインして、ホテル内の廊下を歩きながらアキオは上機嫌だった。ボスは時折、後ろを振り返り、尾行する者がいないか確認するようなしぐさをしている。エレベーターのドアが開く。エレベーターを降りて、ホテルの部屋のドアに歩いていく。そして鍵を開け部屋に入っていく二人。
ボス「(鍵をキャビネットに置く)」鳴っているのは冷蔵庫のブーンという音だけ。ボスはゆっくりと窓際にいっき、放心したようにじっと眼下に広がる外の景色を眺めている。
アキオは荷物を置き、浴槽にお湯を溜めに入って行く。出てきて、ボスの後ろにくると、身体をくねらせながら愛撫するように耳に舌を這わせて耳たぶに唇を押し当てる。
ボスは、とりたてて何の反応も示さない。
その間もアキオの腰は動きつづける。
アキオ「(優しい声で)オヤジ」
ボスにかるく接吻をする。
アキオ「ヘイ……カモーン」
ボスの服をめくりあげる。
アキオがさらにボスにキスして。
「ヘイ」
ボスは、とりたてて何の反応も示さない。
ボスの心の声が言う。本当にきたかいがあった。こんな景色が見られるなんて。たとえこれで死ぬことになってもーー
アキオは眉根をよせて問いただした。思わず大きな声を出してしまう。
「ワッツ ザ マター ウィズ ユー!」
ボスはアキオに背を見せたまま、相変わらず窓外からの景色を見ている。
アキオ、もう興奮を感じずにそれ以上何も言えず、頭をふりながらバスルームに入って行く。部屋に沈黙がおとずれる。
ボスはじっと景色をみている。
ーーー時間経過・ホテルのエレベーターホール
アキオはまだ怒ったしかめ面をしたまま。ボスは相変わらず黙りこくって、二人は無言で来たエレベーターに乗る。下に降り、しずかに廊下を歩いてホテル内にあるレストランに入って行く。支配人の案内で、テーブルの間を進んだ。
―――夜中・寝ているボスとアキオ
夢を見ているボス。
ーーーボスの夢
空き地にカローラがやって来る。夢だからなのか、暗い感じでノイズがひどくところどころ歪んだりして見える。白バイの男がカローラから降りると、間髪を入れずに座席を前に倒して、後部座席のジュラルミンケースから金を抜きとる。用意したバッグにつめていく。そして金を抜きとった一番上のジュラルミンケースを一度カローラの外に出す。その時、手伝っている手袋をはめた自分の手が見える。二つ目のジュラルミンケースの中にはお金を固定させるために丸めたクッションが入っている。通りには人が歩いている。傘をさしていたためこちらを見るものはいない。続いて金を抜きとった二つめの空のジュラルミンケースを受けとる。白バイの男は一番下のジュラルミンケースの金にとりかかりバッグに詰めていく。それがおわり、ボスが空の二つのジュラルミンケースをカローラの後部座席に戻す。そして金を入れた3つのバックを白バイの男がかかえて後から来た別の車の運転席側の後部座にうつしかえ、カローラにシートをかけてるボスを手伝う。雨が降りしきる中、白バイの男が笑いながら自分を見つめる。パトカーがゆっくりと空き地に向かってくるのが見えて、ハッと目が覚めるボス。
隣のベッドで、枕に顔を埋め、こちら側に尻を突き出した裸のアキオが寝息をたてている。
ボスはナイトテーブルに置いてあるタバコから一本を取り出して火をつけ、窓を見つめる。
暗闇の中で点滅する街の明かり。
ボスの回想。
ーーー自分(ボス)の家(夜中)
原稿用紙にカタカナとひらがなで脅迫状の内容をピンセットやカッターナイフをもちいて切り貼りしている。
ーーー数日後・喫茶店
ボス「ノリちゃん。ちょっと店見ててもらってもいいかな?(マフラーと手袋をしながらカウンターから客の女の子に声をかける)」
ノリちゃん「いいですけど、そのかわり今日のぶんは、マスターがご馳走してくださいね」
微笑むボス。
ボス「ああ、いいよ」
ノリちゃん「どこにいくんですか?」
ボス「ちょっとラブレターを出しにね」そう言ってカウンターの中から出てくる。
ノリちゃんが笑う。「ラブレター?」
ボス「(レジを開け、中に入っていた小さなビニールに入った切手を出す)」
ボス「ノリちゃん。ベーってして」
ノリちゃんは赤い舌を出してべーしてみせる。
ボス「(ノリちゃんの舌に付けた切手を本『盗まれた手紙』の間に挟んでいた封筒に貼りつける)」
ノリちゃんがふくれっつらの子供のような顔になる。
ノリちゃん「マスターって、本当に元警察官だったんですか?」
それにボスは笑いながら答える。
ボス「ノリちゃんは、きっと男にすぐ騙されるタイプだな」
微笑んだままそう言って店を任せて出ていく。
ーーー新宿駅前(昼前)
大変な賑わいである。
スポーツ新聞をジーパンのお尻のポケットに突っ込んだ男がいる。歩いてくるボスを見ている。
ボス「(その男に本に挟んだまま封筒を手渡す)」
男が受け取る。
男「(アラン・ポウの本の表紙を見る)やっぱりこういうのは作家志望の人にやってもらわないと、俺たちバカだからさ」
男が笑いを浮かべたあと付け加える。
男「ね、先生」
ボス「(照れながら)何言っんだバカ」
ーーーホテルのベッドの上
ボス「(ナイトテーブルの上にある灰皿にタバコをもみ消す)」
そしてベッドで眠りにつく。
ーーー1968年12月10日午前9時20分
発煙筒から白いもやが立ち昇り、あたりに広がり始める。怯えた羊の群れのように身を寄せあっている現金輸送車に乗っていた4人の行員。
そのとき雷鳴がした。
おかしいことに気づいた行員の一人がダイナマイト(消えゆく発煙筒)に近寄っていく。そして怒声とともに、ブルー★ベルトが始まる。
行員「た、大変だ!強盗だ!」
午前10時18分に現金輸送車が、現金三億円を奪われた府中刑務所の塀前からほぼ北方直線距離で約1キロの人家の少ない原っぱに乗り捨ててあるのが発見される。車内からは現金を詰めたジュラルミンケースが消えていた。
午前10時32分に全車輛の検問が都内と、それに隣接する各県に指令された。
ーーー時代は1975年12月24日・成田から高速で都心に向かうタクシーの中
ボスがアキオが寝ている横で、三億円事件時効成立の見出しがかかれた週刊誌を読んでる。
白バイの男の手配写真を見つめながら回想するボス。
ーーー1968年11月10日・喫茶店
事件の1ヶ月前。
ドアを開けるとベルがチリンチリンとなる。
楽しそうにおしゃべりをひとしきり交わしている若い男女のグループが座っている。
そこにベルがチリンチリンとなり、若い男2人が入ってくる。一人が持っていた薄い箱をカウンターの上に投げるように置く。
マスター(ボス)「なんだこれ?」
男が期待に満ちた表情で言う。男「マスターにプレゼント」
一緒に来たもう一人の男はスポーツ新聞を持っている。「かっぱらったんだろ」
男「うるせーんだよ、いい物だから、かっぱらったんだよ。マスターにと思ってさ」男が言う。「開けてみなよ」
マスターが箱を手にとって開けると、ブルーのベルベットのマフラーが入っている。
マスター「ありがとう、気に入ったよ」
似合うかどうかしてみてくれと男がいう。
マスター「マフラーっていうのはどんな人間にも似合うものだよ」
それでもしろとしつこいのでいわれるとおりにする。
男はにっこりして笑う。が、白バイの男のモンタージュ写真とは違う。
ーーー時代は1975年12月24日・走るタクシーの中
寝ていたアキオが起きる。ボスは週刊誌を閉じる。
東京の街が見えてくる。アキオはこれから始まることに心を奪われている様子。
ーーー霞が関で高速を降りるタクシー・ホテルニューオータニに入って行く
タクシーからおりる二人。フロントまでボーイが先導する。チェックインして、ホテル内の廊下を歩きながらアキオは上機嫌だった。ボスは時折、後ろを振り返り、尾行する者がいないか確認するようなしぐさをしている。エレベーターのドアが開く。エレベーターを降りて、ホテルの部屋のドアに歩いていく。そして鍵を開け部屋に入っていく二人。
ボス「(鍵をキャビネットに置く)」鳴っているのは冷蔵庫のブーンという音だけ。ボスはゆっくりと窓際にいっき、放心したようにじっと眼下に広がる外の景色を眺めている。
アキオは荷物を置き、浴槽にお湯を溜めに入って行く。出てきて、ボスの後ろにくると、身体をくねらせながら愛撫するように耳に舌を這わせて耳たぶに唇を押し当てる。
ボスは、とりたてて何の反応も示さない。
その間もアキオの腰は動きつづける。
アキオ「(優しい声で)オヤジ」
ボスにかるく接吻をする。
アキオ「ヘイ……カモーン」
ボスの服をめくりあげる。
アキオがさらにボスにキスして。
「ヘイ」
ボスは、とりたてて何の反応も示さない。
ボスの心の声が言う。本当にきたかいがあった。こんな景色が見られるなんて。たとえこれで死ぬことになってもーー
アキオは眉根をよせて問いただした。思わず大きな声を出してしまう。
「ワッツ ザ マター ウィズ ユー!」
ボスはアキオに背を見せたまま、相変わらず窓外からの景色を見ている。
アキオ、もう興奮を感じずにそれ以上何も言えず、頭をふりながらバスルームに入って行く。部屋に沈黙がおとずれる。
ボスはじっと景色をみている。
ーーー時間経過・ホテルのエレベーターホール
アキオはまだ怒ったしかめ面をしたまま。ボスは相変わらず黙りこくって、二人は無言で来たエレベーターに乗る。下に降り、しずかに廊下を歩いてホテル内にあるレストランに入って行く。支配人の案内で、テーブルの間を進んだ。
―――夜中・寝ているボスとアキオ
夢を見ているボス。
ーーーボスの夢
空き地にカローラがやって来る。夢だからなのか、暗い感じでノイズがひどくところどころ歪んだりして見える。白バイの男がカローラから降りると、間髪を入れずに座席を前に倒して、後部座席のジュラルミンケースから金を抜きとる。用意したバッグにつめていく。そして金を抜きとった一番上のジュラルミンケースを一度カローラの外に出す。その時、手伝っている手袋をはめた自分の手が見える。二つ目のジュラルミンケースの中にはお金を固定させるために丸めたクッションが入っている。通りには人が歩いている。傘をさしていたためこちらを見るものはいない。続いて金を抜きとった二つめの空のジュラルミンケースを受けとる。白バイの男は一番下のジュラルミンケースの金にとりかかりバッグに詰めていく。それがおわり、ボスが空の二つのジュラルミンケースをカローラの後部座席に戻す。そして金を入れた3つのバックを白バイの男がかかえて後から来た別の車の運転席側の後部座にうつしかえ、カローラにシートをかけてるボスを手伝う。雨が降りしきる中、白バイの男が笑いながら自分を見つめる。パトカーがゆっくりと空き地に向かってくるのが見えて、ハッと目が覚めるボス。
隣のベッドで、枕に顔を埋め、こちら側に尻を突き出した裸のアキオが寝息をたてている。
ボスはナイトテーブルに置いてあるタバコから一本を取り出して火をつけ、窓を見つめる。
暗闇の中で点滅する街の明かり。
ボスの回想。
ーーー自分(ボス)の家(夜中)
原稿用紙にカタカナとひらがなで脅迫状の内容をピンセットやカッターナイフをもちいて切り貼りしている。
ーーー数日後・喫茶店
ボス「ノリちゃん。ちょっと店見ててもらってもいいかな?(マフラーと手袋をしながらカウンターから客の女の子に声をかける)」
ノリちゃん「いいですけど、そのかわり今日のぶんは、マスターがご馳走してくださいね」
微笑むボス。
ボス「ああ、いいよ」
ノリちゃん「どこにいくんですか?」
ボス「ちょっとラブレターを出しにね」そう言ってカウンターの中から出てくる。
ノリちゃんが笑う。「ラブレター?」
ボス「(レジを開け、中に入っていた小さなビニールに入った切手を出す)」
ボス「ノリちゃん。ベーってして」
ノリちゃんは赤い舌を出してべーしてみせる。
ボス「(ノリちゃんの舌に付けた切手を本『盗まれた手紙』の間に挟んでいた封筒に貼りつける)」
ノリちゃんがふくれっつらの子供のような顔になる。
ノリちゃん「マスターって、本当に元警察官だったんですか?」
それにボスは笑いながら答える。
ボス「ノリちゃんは、きっと男にすぐ騙されるタイプだな」
微笑んだままそう言って店を任せて出ていく。
ーーー新宿駅前(昼前)
大変な賑わいである。
スポーツ新聞をジーパンのお尻のポケットに突っ込んだ男がいる。歩いてくるボスを見ている。
ボス「(その男に本に挟んだまま封筒を手渡す)」
男が受け取る。
男「(アラン・ポウの本の表紙を見る)やっぱりこういうのは作家志望の人にやってもらわないと、俺たちバカだからさ」
男が笑いを浮かべたあと付け加える。
男「ね、先生」
ボス「(照れながら)何言っんだバカ」
ーーーホテルのベッドの上
ボス「(ナイトテーブルの上にある灰皿にタバコをもみ消す)」
そしてベッドで眠りにつく。