第24話
文字数 3,595文字
ブルー★ベルベット第58話。
ハワイをイメージさせたカジュアルなバーをオープンさせて半年が過ぎた。
店は仕事帰りの客で表までごった返している。
これほどまでにスペアリブが反響を呼び、繁盛するとは思わなかった。
ーーー閉店後のラジオから音楽が流れている店内。
ボス「店は誰かに任せるか?」
売り上げを数えているアキオ。
アキオ「なんで? もう飽きたの?」
ボスは、口髭を手でこすりながら答える。
ボス「幸子といたいんだ」
その場に固まるアキオ。
アキオ「まさか本気になったわけじゃ……ないよね……」
ボス「お前にはあの愛おしい心はわからんさ。私は誰かを愛したり、求めたり、必要とすることができるとは思っていなかった。それにお前さえよければ、この店をお前にやってもいいと思っている。私なりに誠意ってつもりなんだがね」
話の行方が見えず、戸惑うアキオ。
アキオ「(声を荒げた)僕は、オヤジの愛が欲しいんだ!」
そして「(ボスの胸に擦り寄って)またあの頃みたいに楽しくやりたいんだ。あんな女、ちょっと味見すればそれでいいだろ、よく考えてみろ、オヤジがあんな女にいつまでもへばりついてるのを、僕が黙ってみてるとでも思うのか?」
ボスはあきれたように首をふった。「私は、もう若くないよ」
アキオの顔が蒼白になる。「僕たちは支え合うことで二倍の強さを得た。互いを必要としていたんじゃなかったのか!これまでずっとそうしてきだろう?」
答えず黙っているボス。
アキオ「これからもずっとそうだろ?」
ボスは黙っている。
険悪な目付きをしたアキオの口もとには笑みらしきものが浮かんで、ボスにうっすらと微笑みかけ、ワルぶった口をきく。
アキオ「じゃあ、僕もあの女とファックしてやる」かすかに、淫らな色が、唇に浮かぶ。ボスを見ながら、「これでおしまいだよ」
そう言ってアキオはウイスキーが入っているグラスを大きく飲み干し、売り上げ金を持って飛び出していく音が虚しく響いていた。
ーーー時間経過・ボスと幸子の寝室
ロッキングチェアで寝ている幸子。激しい木枯らしの音のなかで、誰かの指が、優しく幸子の髪の中をすべらすのに気づいて目を覚ます。
酔っ払ってにやけたアキオが幸子を覗きこんでいる。
幸子の全身に恐怖が走る。
幸子の腕をアキオは強く引っ張って後ろにねじあげ。幸子はアキオから身を引き離そうともがいた。
翼がすぐ母の寝室へ駆けてくる。アキオの肩をつかみ、幸子から引き離そうとしたが、子供なみにあっけなく突き飛ばされる。
目に楽しそうな色を浮かべ、アキオがキスを迫る。ベッドに押し倒された幸子はあせって顔の向きを左右に変える。アキオがその口を強引にふさぐと、幸子の鼻先からは悩ましい声がもれ、身悶えする。スカートは大きくまくられ、すらりとした太腿からパンティを脱がしにかかるアキオ。
幸子は闇に引きこまれる。「脱がせ、脱がせ」声が聞こえてくる。
「楽しませてもらうぜ!」
悲鳴をあげる幸子。
「押さえつけろ!」
「やっちまえ!」
自分の純潔を奪おうとしている男たちの声で、ハッと目を覚ました幸子。夢だとわかって安心する。
時計を見ると、午前2時。のろのろと時間が経ち、どのくらいたったかわからなかったが、やがてボスが帰宅する。
サテンのナイトガウンを羽織って幸子は寝室を出た。リビングで迎える。
「おかえりなさい、お茶をいれましょうか?」
幸子が聞くと、ボスはすばやく幸子を抱き寄せ、そのまま接吻をしかける。突然のことに幸子は顔をそむける。ボスは幸子を腕に抱き上げ、寝室に運び、幸子はあえいで手足をばたつかせる。
幸子「シャワーを浴びてきてください」
腕の中でもがく幸子を無視して、ベッドに押さえつけ、抱こうとするボス。
「やめてっ、な、何をするの?」と言いかけて幸子は言葉を途切らせた。静脈が透けて見えるほど白い足を愛撫しながらパンティを膝まで押し下げ、股のあいだにボスの手が廻り、「あああ……だめっ」幸子は腰をよじりたてる。必死に臀部の谷間を引き締めようとする。ボスは楽しげに笑い、幸子の髪をひっぱて顔を上に向けさせ、キスをする。その態度からは謙虚さなどまるで感じられない。むしろいつもにもまして傲慢で自信満々に見える。
ーーー2階の翼の部屋
真っ暗な中で、翼がベッドで仰向けで寝ながら目を開けて耳をそばだてている。望みもしないのに、どういうわけか幸子がボスにされている恥ずかしいことーーひざまずいてペニスの根元に添えていた指をほどき、ボスの裸の尻へまわして両手で愛しげに抱えこんで、娼婦のように口で奉仕しさせられている姿が脳裏をよぎる。幸子の咽喉の奥へ入れすぎて、幸子が息を詰まらせるがそのままやり続けるボス。そして動かすのをやめたと同時に、幸子は咳き込みながら何かを吐く。
翼は、前の母に戻って欲しかった。まさにおとぎばなしに登場するようなお姫さまに。が、幸子は、ただ可愛らしい女性から、男性を喜ばせる高級娼婦のような女性になっていく。文句なしに、男たちが振り返るタイプの女に。
爪先立って、ボスの頬にキスする幸子の姿を想像する翼。濃いめのアイシャドーや口紅のせいで妖艶さがかもしだされている。
ーーー1階の廊下
歩いていく足音が聞こえ、時間経過
シャワーの水圧で配管がうなるよな音を立てている。
ーーー浴室
ボスに剃毛され、湯に浸る幸子。嗜虐的なボスのやり方に恥ずかしく、後ろめたさを感じる幸子にくらべ、徐々に本性を現してきたボス。いつまでも幸子を、ただの心地よさだけに浸しておくはずはなく、幸子の扱い方は、手荒で恥知らずなものに。
一緒に湯に浸かりながら、ボスのいやらしい手が、幸子の乳房、腹部、そして剃毛したところを指先でなぞる。
ボス「想像してごらん?いまの人生とまったく別の人生を。みんな必死に働いている。そういう人生の苦しみを想像してごらん」幸子が返事をしないので、さらに言葉を重ねる「僕なら、なんでも買える。わかるかい?僕のそばにいれば思うままに豊かな生活ができる」
幸子は頭の中でボスの言葉を考えているようだった。ここを離れても、自分が本当の自分の人生を生きていけるとは、とても思えなかった。古びた平家で夫と息子と三人で過ごしていた幸子にとって、華やかな邸宅での生活は非常に快適であった。困難な状況に陥ることがまったくないように見えたのだ。
ボスは幸子の不安を嗅ぎつけ、彼女の肩のくぼみに唇を押しあてた。幸子が抵抗する気持ちをくじき、お金を持っているというこの「信仰」を幸子に植えつけた。
幸子の頭の中の声が、話はじめた。
「私にどうしろと言うの?わたしもほかの人たちと同じように、この生活を捨てて、あくせく働いて暮らせというの?」
その時、遠くから別の自分がささやく声が聞こえた。「お金を持つということは、その人をお金から解放すること。プライドや自尊心を保つことができる。それに人生というのはどれもみんな同じで、何年たってもたいして様変わりしないものよ」
「けど、いろんなものをこの人から与えられれば与えられるほど、惨めな思いもしなければならない……それをわからない?まるで人形じゃない!」
「罰よ。そう、せめてもの罪ほろぼし。犯してもいない罪のための罰」それで幸子は無意識のうちに自分を罰していた。
「それはあなた一人の罪悪感というものに関する問だわ。罪の埋め合わせにはならないわ。あなたは母親よ、亡き夫との絆もある、あの人は今でもあなたを信頼してるはずよ。それになにより、贅沢なものを手にするよりも、結局のところ、幸せは自分の中にあるの」
「そのどっちの声が神の御心にかなっているかは、はっきりしているじゃない」
そう気づいてはいたが、もう手遅れだった。私も翼も、いまここにいる。同じ立場に立たされて断る女性が何人いるだろうか。
幸子は、この生活を続けれるなら、なんだってするつもりだった。我が子には裕福な生活をさせてやりたいと思うのが親だからだ。幸子の心が宙にさまよっている間も、ボスの手は休んでいなかった。幸子は自分自身と翼のためにそっと濡れた瞳でボスの目をうかがい、うっとりと潤んだ表情でほほえもうとした。そこには屈服した女の媚態が含まれていた。
ーーー新宿二丁目のバー。
ほとんど沈黙のまま、何時間も無闇矢鱈にグラスをあおっていたアキオ。
店員に閉店を告げられ外に出る。
新宿駅近くまで歩いてくると、五十がらみの男が声をかけた。
「お兄さん、いいところがありますぜ、ちょいと寄ってきませんか」
二人はそのまま雑居ビルの中に入って行った。
ややあって、女がアキオの手をとって部屋の中へと導き、ズボンのボタンを外して取り出した、ビンと反り返ったアキオのペニスを口に含みしゃぶり始める。
次第にアキオはたまらない気持ちになってきた。
「幸子……」
虚ろな目で幸子がしている姿を思い浮かべていたのだが、実際には厚化粧をした老婆だった。
ハワイをイメージさせたカジュアルなバーをオープンさせて半年が過ぎた。
店は仕事帰りの客で表までごった返している。
これほどまでにスペアリブが反響を呼び、繁盛するとは思わなかった。
ーーー閉店後のラジオから音楽が流れている店内。
ボス「店は誰かに任せるか?」
売り上げを数えているアキオ。
アキオ「なんで? もう飽きたの?」
ボスは、口髭を手でこすりながら答える。
ボス「幸子といたいんだ」
その場に固まるアキオ。
アキオ「まさか本気になったわけじゃ……ないよね……」
ボス「お前にはあの愛おしい心はわからんさ。私は誰かを愛したり、求めたり、必要とすることができるとは思っていなかった。それにお前さえよければ、この店をお前にやってもいいと思っている。私なりに誠意ってつもりなんだがね」
話の行方が見えず、戸惑うアキオ。
アキオ「(声を荒げた)僕は、オヤジの愛が欲しいんだ!」
そして「(ボスの胸に擦り寄って)またあの頃みたいに楽しくやりたいんだ。あんな女、ちょっと味見すればそれでいいだろ、よく考えてみろ、オヤジがあんな女にいつまでもへばりついてるのを、僕が黙ってみてるとでも思うのか?」
ボスはあきれたように首をふった。「私は、もう若くないよ」
アキオの顔が蒼白になる。「僕たちは支え合うことで二倍の強さを得た。互いを必要としていたんじゃなかったのか!これまでずっとそうしてきだろう?」
答えず黙っているボス。
アキオ「これからもずっとそうだろ?」
ボスは黙っている。
険悪な目付きをしたアキオの口もとには笑みらしきものが浮かんで、ボスにうっすらと微笑みかけ、ワルぶった口をきく。
アキオ「じゃあ、僕もあの女とファックしてやる」かすかに、淫らな色が、唇に浮かぶ。ボスを見ながら、「これでおしまいだよ」
そう言ってアキオはウイスキーが入っているグラスを大きく飲み干し、売り上げ金を持って飛び出していく音が虚しく響いていた。
ーーー時間経過・ボスと幸子の寝室
ロッキングチェアで寝ている幸子。激しい木枯らしの音のなかで、誰かの指が、優しく幸子の髪の中をすべらすのに気づいて目を覚ます。
酔っ払ってにやけたアキオが幸子を覗きこんでいる。
幸子の全身に恐怖が走る。
幸子の腕をアキオは強く引っ張って後ろにねじあげ。幸子はアキオから身を引き離そうともがいた。
翼がすぐ母の寝室へ駆けてくる。アキオの肩をつかみ、幸子から引き離そうとしたが、子供なみにあっけなく突き飛ばされる。
目に楽しそうな色を浮かべ、アキオがキスを迫る。ベッドに押し倒された幸子はあせって顔の向きを左右に変える。アキオがその口を強引にふさぐと、幸子の鼻先からは悩ましい声がもれ、身悶えする。スカートは大きくまくられ、すらりとした太腿からパンティを脱がしにかかるアキオ。
幸子は闇に引きこまれる。「脱がせ、脱がせ」声が聞こえてくる。
「楽しませてもらうぜ!」
悲鳴をあげる幸子。
「押さえつけろ!」
「やっちまえ!」
自分の純潔を奪おうとしている男たちの声で、ハッと目を覚ました幸子。夢だとわかって安心する。
時計を見ると、午前2時。のろのろと時間が経ち、どのくらいたったかわからなかったが、やがてボスが帰宅する。
サテンのナイトガウンを羽織って幸子は寝室を出た。リビングで迎える。
「おかえりなさい、お茶をいれましょうか?」
幸子が聞くと、ボスはすばやく幸子を抱き寄せ、そのまま接吻をしかける。突然のことに幸子は顔をそむける。ボスは幸子を腕に抱き上げ、寝室に運び、幸子はあえいで手足をばたつかせる。
幸子「シャワーを浴びてきてください」
腕の中でもがく幸子を無視して、ベッドに押さえつけ、抱こうとするボス。
「やめてっ、な、何をするの?」と言いかけて幸子は言葉を途切らせた。静脈が透けて見えるほど白い足を愛撫しながらパンティを膝まで押し下げ、股のあいだにボスの手が廻り、「あああ……だめっ」幸子は腰をよじりたてる。必死に臀部の谷間を引き締めようとする。ボスは楽しげに笑い、幸子の髪をひっぱて顔を上に向けさせ、キスをする。その態度からは謙虚さなどまるで感じられない。むしろいつもにもまして傲慢で自信満々に見える。
ーーー2階の翼の部屋
真っ暗な中で、翼がベッドで仰向けで寝ながら目を開けて耳をそばだてている。望みもしないのに、どういうわけか幸子がボスにされている恥ずかしいことーーひざまずいてペニスの根元に添えていた指をほどき、ボスの裸の尻へまわして両手で愛しげに抱えこんで、娼婦のように口で奉仕しさせられている姿が脳裏をよぎる。幸子の咽喉の奥へ入れすぎて、幸子が息を詰まらせるがそのままやり続けるボス。そして動かすのをやめたと同時に、幸子は咳き込みながら何かを吐く。
翼は、前の母に戻って欲しかった。まさにおとぎばなしに登場するようなお姫さまに。が、幸子は、ただ可愛らしい女性から、男性を喜ばせる高級娼婦のような女性になっていく。文句なしに、男たちが振り返るタイプの女に。
爪先立って、ボスの頬にキスする幸子の姿を想像する翼。濃いめのアイシャドーや口紅のせいで妖艶さがかもしだされている。
ーーー1階の廊下
歩いていく足音が聞こえ、時間経過
シャワーの水圧で配管がうなるよな音を立てている。
ーーー浴室
ボスに剃毛され、湯に浸る幸子。嗜虐的なボスのやり方に恥ずかしく、後ろめたさを感じる幸子にくらべ、徐々に本性を現してきたボス。いつまでも幸子を、ただの心地よさだけに浸しておくはずはなく、幸子の扱い方は、手荒で恥知らずなものに。
一緒に湯に浸かりながら、ボスのいやらしい手が、幸子の乳房、腹部、そして剃毛したところを指先でなぞる。
ボス「想像してごらん?いまの人生とまったく別の人生を。みんな必死に働いている。そういう人生の苦しみを想像してごらん」幸子が返事をしないので、さらに言葉を重ねる「僕なら、なんでも買える。わかるかい?僕のそばにいれば思うままに豊かな生活ができる」
幸子は頭の中でボスの言葉を考えているようだった。ここを離れても、自分が本当の自分の人生を生きていけるとは、とても思えなかった。古びた平家で夫と息子と三人で過ごしていた幸子にとって、華やかな邸宅での生活は非常に快適であった。困難な状況に陥ることがまったくないように見えたのだ。
ボスは幸子の不安を嗅ぎつけ、彼女の肩のくぼみに唇を押しあてた。幸子が抵抗する気持ちをくじき、お金を持っているというこの「信仰」を幸子に植えつけた。
幸子の頭の中の声が、話はじめた。
「私にどうしろと言うの?わたしもほかの人たちと同じように、この生活を捨てて、あくせく働いて暮らせというの?」
その時、遠くから別の自分がささやく声が聞こえた。「お金を持つということは、その人をお金から解放すること。プライドや自尊心を保つことができる。それに人生というのはどれもみんな同じで、何年たってもたいして様変わりしないものよ」
「けど、いろんなものをこの人から与えられれば与えられるほど、惨めな思いもしなければならない……それをわからない?まるで人形じゃない!」
「罰よ。そう、せめてもの罪ほろぼし。犯してもいない罪のための罰」それで幸子は無意識のうちに自分を罰していた。
「それはあなた一人の罪悪感というものに関する問だわ。罪の埋め合わせにはならないわ。あなたは母親よ、亡き夫との絆もある、あの人は今でもあなたを信頼してるはずよ。それになにより、贅沢なものを手にするよりも、結局のところ、幸せは自分の中にあるの」
「そのどっちの声が神の御心にかなっているかは、はっきりしているじゃない」
そう気づいてはいたが、もう手遅れだった。私も翼も、いまここにいる。同じ立場に立たされて断る女性が何人いるだろうか。
幸子は、この生活を続けれるなら、なんだってするつもりだった。我が子には裕福な生活をさせてやりたいと思うのが親だからだ。幸子の心が宙にさまよっている間も、ボスの手は休んでいなかった。幸子は自分自身と翼のためにそっと濡れた瞳でボスの目をうかがい、うっとりと潤んだ表情でほほえもうとした。そこには屈服した女の媚態が含まれていた。
ーーー新宿二丁目のバー。
ほとんど沈黙のまま、何時間も無闇矢鱈にグラスをあおっていたアキオ。
店員に閉店を告げられ外に出る。
新宿駅近くまで歩いてくると、五十がらみの男が声をかけた。
「お兄さん、いいところがありますぜ、ちょいと寄ってきませんか」
二人はそのまま雑居ビルの中に入って行った。
ややあって、女がアキオの手をとって部屋の中へと導き、ズボンのボタンを外して取り出した、ビンと反り返ったアキオのペニスを口に含みしゃぶり始める。
次第にアキオはたまらない気持ちになってきた。
「幸子……」
虚ろな目で幸子がしている姿を思い浮かべていたのだが、実際には厚化粧をした老婆だった。