第27話
文字数 1,984文字
ブルー★ベルベット第61話
ーーー2階アキオの部屋
夕暮れの光が窓から差し込んでいる。
ビールの空き瓶や半分になったウイスキーの瓶などが散乱している。
秒針が回転し、短針と長針は4時15分を指している。
アキオ「(ベッドの上で天井を見つめている)」
(ナレーション)アキオはボスの愛を失い、孤独で迷子のような苦痛な感情に苦しんでいた。くじけそうな気持ちを抑えようと奮闘していた。
窓の外の風が強くなり、葉が音をたてる。もう一人の自分がアキオに問う。
それで結局お前は何者なのだ?
鳥たちは揺れ動く枝から舞い上がって、暗みゆく空にむかい、飛んでいく。
人に頼って生きるのはやめろ、そう言われているみたいだった。
でもここから逃れたいと思ったらなにをすればいいだろうか?どこへ行けばいいのか?この先自分はどうなるだろうか?
そんなことを考えながら、アキオは何をするにも、疲れたように、ただぼんやりとしている。
アキオ「(現実感を失い、柔らかい光が美しく優しい幸子を照らしている光景を見つめた)」
幸子の胸はみずみずしく膨らみ、その先端は熟れたさくらんぼのようだった。彼女の肌は白く、きめ細かい。
アキオはゆっくりと幸子に歩み寄り、彼女の胸を揉み始め、乳首を愛撫した。それが固くなってきたのを感じ取ると、彼は幸子の股間に手を伸ばした。
しかし、幸子はぴたりと太腿を閉じてアキオの手を押さえた。
「いいだろ、やらせろよ」アキオは言い、幸子の唇にキスをする。唾液の粘液がいやらしく糸を引き、アキオはさらに激しくそそられ、しゃにむに幸子の唇をなめた。
突然、プシュー!と音を立てて、幸子はビニールの人形のようにしぼんでしまい、アキオは焦って幸子を抱きしめようとしたが、その瞬間、我に帰った。そして、途切れ途切れに見る夢の中の出来事のように、映像が順を追って甦ってきた。
ーーー映像1
ほっそりとしたアキオを産んだ母親がアキオを置いて家を出ていく。霧の中に消えていく。小さな頃のアキオは激しく錐揉みしながらどこまでも落ちていく。
母親の服を身につけて小さなアキオが鏡の前で、口紅を塗ってる「どうして僕を捨てたの、ママ?」とつぶやく。
ーーー映像2
学校でいじめられているアキオ。
『気持ち悪い』『向こう行け!オカマ』
アキオはベッドから起き上がり、ナイトテーブルのウイスキーをグラスに注ぎ、一気にそれを飲み干し、ドアに向かう。階段を降りて、キッチンの蛇口の下に頭をおいて、冷たい水を浴びた。
(ナレーション)今の彼のまわりには、だらけてふやけた時間だけがあり、できることといえば、また新宿二丁目に行くことだけだった。
――ー浴室(夜)
翼と食事を終えた幸子がシャワーを浴びている。
翼「(自分の匂いに感ずかれないよう、はじめて獲物を狙うライオンのように浴室の最初の扉を開けて、脱衣所の中に入っていく)」
すりガラス越しに映る幸子の身体は、まるで女性的な優雅さと洗練さの化身のようだ。
気配を感じ、誰かいることに気づいて、幸子はびっくっとして声をあげた。
幸子「誰?」
少しだけ扉を開けると、湯気が翼を包み、空気のような霧が取り巻いた。まぶしい幸子の身体が見えて、翼の感覚は研ぎ澄まされ、目をはりつけたまま言う。
翼「由美さんから電話」
幸子は、ほっと安堵の吐息が洩れた。
――ーバー・ブルーベルベット(夜)
店はいつもどおり賑わいを見せている。
ボスはカウンターの中から注文を受けている。
手がたりなくて、客が店を手伝っている。
ーーー時間が経過。
客がいなくなった店内。秒針が時を刻む音。深夜1時過ぎ。
ボスが閉店の準備にとりかかる。
売り上げを数えて、帰る時にゴミを店の前に出す。
そこに、打ちのめされた負け犬のような姿の男がよろよろと歩いて通り過ぎる。
ドアに鍵を掛けるボス。
男が立ち止まって振り返り、じーとボスを見ている。
ボスはタクシーを拾って帰っていく。
男が店の看板を見て呟く。
男「……ブルー……ベルベット……」
脳裏でチリンチリンという音だけがする。そして憎悪とも、悲しみともとれる顔つきで歩き続ける。
ーーー男の回想。
車の中で、別れ際に白バイの男が二人に言う。どのバッグにいくら入っているかはわからない。けど、先に好きなのを選ばせてやる。それで恨みっこなしだぜ。
ー――新宿2丁目の通り(夜)
歩いている男を女のような仕草で誘うアキオ。設定では母親のような女になっていた。胸には、幸子のロザリオをかけている。
しばらく何人かの男に声をかけ、最後に声をかけた男とホテルに向かう。
男がアキオに名前を尋ねると、アキオはひとりよがりのにこやかな笑みを浮かべ、これこそ主の思し召しどおりだ、と思いながら、「幸子です」と答えた。
(ナレーション)この行為が、アキオの意識下で母親を憎み、母親に対する一種の復讐行為なのか、それとも幸子に対する憧れなのか、アキオ自身にもわからなかった。
ーーー2階アキオの部屋
夕暮れの光が窓から差し込んでいる。
ビールの空き瓶や半分になったウイスキーの瓶などが散乱している。
秒針が回転し、短針と長針は4時15分を指している。
アキオ「(ベッドの上で天井を見つめている)」
(ナレーション)アキオはボスの愛を失い、孤独で迷子のような苦痛な感情に苦しんでいた。くじけそうな気持ちを抑えようと奮闘していた。
窓の外の風が強くなり、葉が音をたてる。もう一人の自分がアキオに問う。
それで結局お前は何者なのだ?
鳥たちは揺れ動く枝から舞い上がって、暗みゆく空にむかい、飛んでいく。
人に頼って生きるのはやめろ、そう言われているみたいだった。
でもここから逃れたいと思ったらなにをすればいいだろうか?どこへ行けばいいのか?この先自分はどうなるだろうか?
そんなことを考えながら、アキオは何をするにも、疲れたように、ただぼんやりとしている。
アキオ「(現実感を失い、柔らかい光が美しく優しい幸子を照らしている光景を見つめた)」
幸子の胸はみずみずしく膨らみ、その先端は熟れたさくらんぼのようだった。彼女の肌は白く、きめ細かい。
アキオはゆっくりと幸子に歩み寄り、彼女の胸を揉み始め、乳首を愛撫した。それが固くなってきたのを感じ取ると、彼は幸子の股間に手を伸ばした。
しかし、幸子はぴたりと太腿を閉じてアキオの手を押さえた。
「いいだろ、やらせろよ」アキオは言い、幸子の唇にキスをする。唾液の粘液がいやらしく糸を引き、アキオはさらに激しくそそられ、しゃにむに幸子の唇をなめた。
突然、プシュー!と音を立てて、幸子はビニールの人形のようにしぼんでしまい、アキオは焦って幸子を抱きしめようとしたが、その瞬間、我に帰った。そして、途切れ途切れに見る夢の中の出来事のように、映像が順を追って甦ってきた。
ーーー映像1
ほっそりとしたアキオを産んだ母親がアキオを置いて家を出ていく。霧の中に消えていく。小さな頃のアキオは激しく錐揉みしながらどこまでも落ちていく。
母親の服を身につけて小さなアキオが鏡の前で、口紅を塗ってる「どうして僕を捨てたの、ママ?」とつぶやく。
ーーー映像2
学校でいじめられているアキオ。
『気持ち悪い』『向こう行け!オカマ』
アキオはベッドから起き上がり、ナイトテーブルのウイスキーをグラスに注ぎ、一気にそれを飲み干し、ドアに向かう。階段を降りて、キッチンの蛇口の下に頭をおいて、冷たい水を浴びた。
(ナレーション)今の彼のまわりには、だらけてふやけた時間だけがあり、できることといえば、また新宿二丁目に行くことだけだった。
――ー浴室(夜)
翼と食事を終えた幸子がシャワーを浴びている。
翼「(自分の匂いに感ずかれないよう、はじめて獲物を狙うライオンのように浴室の最初の扉を開けて、脱衣所の中に入っていく)」
すりガラス越しに映る幸子の身体は、まるで女性的な優雅さと洗練さの化身のようだ。
気配を感じ、誰かいることに気づいて、幸子はびっくっとして声をあげた。
幸子「誰?」
少しだけ扉を開けると、湯気が翼を包み、空気のような霧が取り巻いた。まぶしい幸子の身体が見えて、翼の感覚は研ぎ澄まされ、目をはりつけたまま言う。
翼「由美さんから電話」
幸子は、ほっと安堵の吐息が洩れた。
――ーバー・ブルーベルベット(夜)
店はいつもどおり賑わいを見せている。
ボスはカウンターの中から注文を受けている。
手がたりなくて、客が店を手伝っている。
ーーー時間が経過。
客がいなくなった店内。秒針が時を刻む音。深夜1時過ぎ。
ボスが閉店の準備にとりかかる。
売り上げを数えて、帰る時にゴミを店の前に出す。
そこに、打ちのめされた負け犬のような姿の男がよろよろと歩いて通り過ぎる。
ドアに鍵を掛けるボス。
男が立ち止まって振り返り、じーとボスを見ている。
ボスはタクシーを拾って帰っていく。
男が店の看板を見て呟く。
男「……ブルー……ベルベット……」
脳裏でチリンチリンという音だけがする。そして憎悪とも、悲しみともとれる顔つきで歩き続ける。
ーーー男の回想。
車の中で、別れ際に白バイの男が二人に言う。どのバッグにいくら入っているかはわからない。けど、先に好きなのを選ばせてやる。それで恨みっこなしだぜ。
ー――新宿2丁目の通り(夜)
歩いている男を女のような仕草で誘うアキオ。設定では母親のような女になっていた。胸には、幸子のロザリオをかけている。
しばらく何人かの男に声をかけ、最後に声をかけた男とホテルに向かう。
男がアキオに名前を尋ねると、アキオはひとりよがりのにこやかな笑みを浮かべ、これこそ主の思し召しどおりだ、と思いながら、「幸子です」と答えた。
(ナレーション)この行為が、アキオの意識下で母親を憎み、母親に対する一種の復讐行為なのか、それとも幸子に対する憧れなのか、アキオ自身にもわからなかった。