第11話
文字数 2,418文字
僕は、翔のように華々しいことをして名を挙げようなんて野心は持っていなかった。
何かを証明したがっている者はどこにでもいるけど、僕は一生働かないで暮らしたかった。それが本当のことだもーん。まさにダメ人間。
そんなんだから、毎日昼頃に起きて、大きなあくびをしてオチンチンをかきながら昼ドラを見ていた。
13時30分からやってる『ブルー★ベルベット』にはまっていた。それがなんとなく映像が日活ロマンポルノちっくなんだ。言ってもわかんねーか?
物語は、1968年(昭和43年)12月10日に東京府中内で、警察官を装った男に三億円を積みこんだ銀行の現金輸送車が車ごと奪われた日本の犯罪史上、類を見ない現金強奪事件、いわゆる三億円事件。その共犯者と思われる男が主人公だ。が、関与していたかどうかはまだ不明である。また警察が総力を上げて犯人を追う中、白バイ警官にふんして、現金輸送車を襲撃した犯人の男(立川グループのリーダー格。事件当時は19歳)がやがては所轄や捜査本部からもマークされるところとなり、父親共々追い詰められていく。事件から5日後の12月15日に死を遂げるが、『ブルー★ベルベット」では白バイ隊員の父親によって青酸カリで殺されている。その殺された犯人の男がよく通っていた新宿の喫茶店のマスターがハワイで贅沢三昧な暮らしをしながら、ある日、日本食レストランの寿司職人のアキオ(日系アメリカ人)と関系をもち、養子縁組になる。毎晩二人で男を買いまくり、乱交や雑婚的セックスに没頭するが、やがてそういった自堕落な生活にも飽きたりなくなっていく。その遊び方は酷いものだった。二人は女を抱くこともできたのだが欲望を感じるのはどこか母親の匂いのする女にだけだった。寿司職人たちの間でボスと呼ばれていた主人公の男は口髭をたくわえた紳士然とした男だったのだが、勃起不全で立たなくなる。アキオは養子縁組になってから、ボスのことをオヤジと呼ぶようになり、オヤジが勃起しなくなって欲求不満がつのっていく。
そして回をますにつれ、僕と翔の関係も深いものとなっていった。シーツはあふれてきた蜜で光っている。
ブルーベルベット第29話
―ー―ハワイのコンドミニアム
沈む夕日に真っ赤に染まっていく太平洋が見える。エキゾチックな木や花が植えられた庭には水をたたえたプールがある。
海に沈む夕日が最後の輝きを放つ。窓の外を見ながらボスが言う。背中はスミレ色の影になっている。
ボス「日本に帰るか……」
アキオ「僕も連れて行ってくれるの?」喜びで胸がドキドキするのを感じる。
ボス「オフコース」と振り返る。
秒針を刻んでいる時計。
アキオ「オヤジ奥さんもらってみたら?」
ボス「ふん」天井の弱い明かりに顔が照らし出されている。片目を細め、ひややかな笑みみを浮かべている。
アキオ「シングルマザー!」ボスに向かって小さく笑い片目をつぶる。「可愛い息子がいる人がいいな、僕」
―――日本のテレビ局のスタジオ
三億円事件の時効が迫り、特番がくまれ、その中で新宿の喫茶店のマスターの話も出てくる。
―――近所のタバコ屋の奥さんのインタビュー
タバコ屋の奥さん「ああ、そう言えばそんな人いたいた。あんたちょっと!」
旦那「なに?」出てくる。
タバコ屋の奥さん「ほら、少し行ったそこの喫茶店。あれ知らない間に潰れたよなぁ」
旦那「そう言えばそうだな。うちのノリ子がコーヒーが好きで、よく行ってたみたいだけど、今は九州に嫁いじゃいまして」
タバコ屋の奥さん「なんかいつもハイカラなブルーのベルベットのマフラーしてたのおぼえてるけど私。でもそういえばあの人も知らない間にいなくなっちゃったんだよ、なあ、あんた違うかい?」
旦那「入院するようなこといってなかたけ?」
タバコ屋の奥さん「さあ、知らんよ私そんなことまで」
ーーー福生近辺
立川グループをよくしる人物のインタビュー(女性)
女性「あの事件の数ヶ月前、何かとてつもなくデカイことをやるんだって、酔っ払いながら話してましたね」
インタビュア「警察にはそのことは?」
女性「ううん。だってなんか鉄クズ置場に鉄を持っていって換金しただけみたいよ、笑えるよね」
インタビュア「たたそれだけのこと?」
女性「(ゲラゲラ笑いながら)そう。あの連中が、できるわけないわ、三億円事件みたいなだいそれたこと」
ーーーハワイのコンドミニアムの部屋(夜)
抱き合うボスとアキオ。キスをしながら、乱暴に靴をけりすてる。アキオの指がボスの髪をまさぐり、二人はベッドで重なり合う。
その最中にアキオの口もとに意地悪な笑いが走った。
アキオ「僕とオヤジで、純粋な親子をもて遊んでやるの。オヤジは母親を、僕はその牝豚の息子をたっぷりとね。そして母親を娼婦にしてやるのよ。どう?」
ボスの頭に、赤い首輪を巻いた美しい母親が泣きじゃくってマスカラが落ちて目のまわりを黒く滲ませてるそんな光景が浮かぶ。サディステックな征服感を満喫できるような気がして、アキオの身体を引き寄せ、熱いキスを交わした。
―ー―成田空港
日航機が着陸する。
時効が成立した1975年12月10日から14日後の1975年12月24日。
ーーー成田空港・到着ロビー
到着機の乗客が出てくる。その中にトランクを引きずりながら二人が出てくる。
ボスはアメリカのパスポートを持って、ブルーのベルベットのマフラーをしている。髪には白いものが目立つが、印象は当時とそれほど変わっていない。
出迎えの人たちが大勢いる。出てきた客にとびつくように再会を喜び合っている人たちもいる。
立ち止まって、大きく息を吸いこんで頬をふくらませるボス。ゆっくりと空気を吐き出して目立たぬように恐る恐るという感じで歩いていく。
ジーンズをはいたアキオは楽しそうな顔で、いかにも日本に来たという感じで歩いている。
ーーー空港表、中央口。
タクシーが止まっている。
アキオ、タクシーに乗る。
ボス、タクシーに乗る。
走り出すタクシー。
何かを証明したがっている者はどこにでもいるけど、僕は一生働かないで暮らしたかった。それが本当のことだもーん。まさにダメ人間。
そんなんだから、毎日昼頃に起きて、大きなあくびをしてオチンチンをかきながら昼ドラを見ていた。
13時30分からやってる『ブルー★ベルベット』にはまっていた。それがなんとなく映像が日活ロマンポルノちっくなんだ。言ってもわかんねーか?
物語は、1968年(昭和43年)12月10日に東京府中内で、警察官を装った男に三億円を積みこんだ銀行の現金輸送車が車ごと奪われた日本の犯罪史上、類を見ない現金強奪事件、いわゆる三億円事件。その共犯者と思われる男が主人公だ。が、関与していたかどうかはまだ不明である。また警察が総力を上げて犯人を追う中、白バイ警官にふんして、現金輸送車を襲撃した犯人の男(立川グループのリーダー格。事件当時は19歳)がやがては所轄や捜査本部からもマークされるところとなり、父親共々追い詰められていく。事件から5日後の12月15日に死を遂げるが、『ブルー★ベルベット」では白バイ隊員の父親によって青酸カリで殺されている。その殺された犯人の男がよく通っていた新宿の喫茶店のマスターがハワイで贅沢三昧な暮らしをしながら、ある日、日本食レストランの寿司職人のアキオ(日系アメリカ人)と関系をもち、養子縁組になる。毎晩二人で男を買いまくり、乱交や雑婚的セックスに没頭するが、やがてそういった自堕落な生活にも飽きたりなくなっていく。その遊び方は酷いものだった。二人は女を抱くこともできたのだが欲望を感じるのはどこか母親の匂いのする女にだけだった。寿司職人たちの間でボスと呼ばれていた主人公の男は口髭をたくわえた紳士然とした男だったのだが、勃起不全で立たなくなる。アキオは養子縁組になってから、ボスのことをオヤジと呼ぶようになり、オヤジが勃起しなくなって欲求不満がつのっていく。
そして回をますにつれ、僕と翔の関係も深いものとなっていった。シーツはあふれてきた蜜で光っている。
ブルーベルベット第29話
―ー―ハワイのコンドミニアム
沈む夕日に真っ赤に染まっていく太平洋が見える。エキゾチックな木や花が植えられた庭には水をたたえたプールがある。
海に沈む夕日が最後の輝きを放つ。窓の外を見ながらボスが言う。背中はスミレ色の影になっている。
ボス「日本に帰るか……」
アキオ「僕も連れて行ってくれるの?」喜びで胸がドキドキするのを感じる。
ボス「オフコース」と振り返る。
秒針を刻んでいる時計。
アキオ「オヤジ奥さんもらってみたら?」
ボス「ふん」天井の弱い明かりに顔が照らし出されている。片目を細め、ひややかな笑みみを浮かべている。
アキオ「シングルマザー!」ボスに向かって小さく笑い片目をつぶる。「可愛い息子がいる人がいいな、僕」
―――日本のテレビ局のスタジオ
三億円事件の時効が迫り、特番がくまれ、その中で新宿の喫茶店のマスターの話も出てくる。
―――近所のタバコ屋の奥さんのインタビュー
タバコ屋の奥さん「ああ、そう言えばそんな人いたいた。あんたちょっと!」
旦那「なに?」出てくる。
タバコ屋の奥さん「ほら、少し行ったそこの喫茶店。あれ知らない間に潰れたよなぁ」
旦那「そう言えばそうだな。うちのノリ子がコーヒーが好きで、よく行ってたみたいだけど、今は九州に嫁いじゃいまして」
タバコ屋の奥さん「なんかいつもハイカラなブルーのベルベットのマフラーしてたのおぼえてるけど私。でもそういえばあの人も知らない間にいなくなっちゃったんだよ、なあ、あんた違うかい?」
旦那「入院するようなこといってなかたけ?」
タバコ屋の奥さん「さあ、知らんよ私そんなことまで」
ーーー福生近辺
立川グループをよくしる人物のインタビュー(女性)
女性「あの事件の数ヶ月前、何かとてつもなくデカイことをやるんだって、酔っ払いながら話してましたね」
インタビュア「警察にはそのことは?」
女性「ううん。だってなんか鉄クズ置場に鉄を持っていって換金しただけみたいよ、笑えるよね」
インタビュア「たたそれだけのこと?」
女性「(ゲラゲラ笑いながら)そう。あの連中が、できるわけないわ、三億円事件みたいなだいそれたこと」
ーーーハワイのコンドミニアムの部屋(夜)
抱き合うボスとアキオ。キスをしながら、乱暴に靴をけりすてる。アキオの指がボスの髪をまさぐり、二人はベッドで重なり合う。
その最中にアキオの口もとに意地悪な笑いが走った。
アキオ「僕とオヤジで、純粋な親子をもて遊んでやるの。オヤジは母親を、僕はその牝豚の息子をたっぷりとね。そして母親を娼婦にしてやるのよ。どう?」
ボスの頭に、赤い首輪を巻いた美しい母親が泣きじゃくってマスカラが落ちて目のまわりを黒く滲ませてるそんな光景が浮かぶ。サディステックな征服感を満喫できるような気がして、アキオの身体を引き寄せ、熱いキスを交わした。
―ー―成田空港
日航機が着陸する。
時効が成立した1975年12月10日から14日後の1975年12月24日。
ーーー成田空港・到着ロビー
到着機の乗客が出てくる。その中にトランクを引きずりながら二人が出てくる。
ボスはアメリカのパスポートを持って、ブルーのベルベットのマフラーをしている。髪には白いものが目立つが、印象は当時とそれほど変わっていない。
出迎えの人たちが大勢いる。出てきた客にとびつくように再会を喜び合っている人たちもいる。
立ち止まって、大きく息を吸いこんで頬をふくらませるボス。ゆっくりと空気を吐き出して目立たぬように恐る恐るという感じで歩いていく。
ジーンズをはいたアキオは楽しそうな顔で、いかにも日本に来たという感じで歩いている。
ーーー空港表、中央口。
タクシーが止まっている。
アキオ、タクシーに乗る。
ボス、タクシーに乗る。
走り出すタクシー。