遊女ラハブ
文字数 965文字
六本足に目が四つ、体表は粘膜でヌメヌメの生物に乗っているダビデを人々が避ける中、見よ、声をかけてきた女がいる。ベールで顔を隠し、それでも分かる派手な化粧と装身具はひと目で遊女と分かる姿であり、ダビデはその身体がとても豊満であるのを見た。
ヌメヌメした頭をどうどうと撫でながら言い切るダビデに、さしもの遊女も引きつった笑顔で一歩退く。よく見ればどこぞの商店でひっつけてきたとみえる花や果物が彩りを加えており、ドドメ色の体表をさらに混沌とした色合いに変えていてますます不気味である。
遊女の言葉に疑問を持ったダビデは周囲を見回し、言った。
先の岩山では気づかなかったが、見よ、城壁が町を囲んでいる。ダビデはそれが大石を積み上げて建てられた重厚な壁であるのを見た。
不審な事態に首をひねるダビデの右手に白く細い手を重ね、遊女は言った。
城壁のことはひとまず頭の隅に追いやり、ダビデは唸るミカルを引いて女の家へと入った。
女は、ラハブと名乗った。(ヨシュア記/2章1節)
人類最古の城壁のひとつとされるのがエリコの城壁です。
ダビデの時代より遡ること約五百年前、エリコは城塞都市として栄えていました。東はヨルダン川、西は山に挟まれた天然の要塞にさらに堅固な城壁を築いたエリコを前に、侵略者たちは幾度となく撤退を余儀なくされます。
その城壁も紀元前千五百年ごろに崩れ去り(考古学では紀元前三千年とも)、二十一世紀の現在ではわずかな遺跡が残るのみです。