羊飼いダビデ
文字数 2,436文字
かくしてエッサイの末子ダビデは神に選ばれた。
この時、ダビデは一介のエイリアンバスターであった。
時は流れ紀元前十二世紀、初代イスラエル王サウルの時代――。
イスラエルを脅かす外敵・ペリシテ人は軍隊を召集し、エフェス・ダミムの地に布陣した。一方、サウル王とイスラエルの兵も集結し、ペリシテと谷を挟んで陣を敷き戦いに備えた。(サムエル記Ⅰ/17章1節)
時に、ペリシテの陣営から代表が進み出た。名をゴリアテといい、イスラエルの戦士との一騎打ちを望むという。
「我ト決闘セヨ。貴様ラガ勝テバぺりしてハ奴隷トナロウゾ。ダガ我ラガ勝テバ貴様ラガ奴隷トナルノダ」
サウルとイスラエル兵はこの言葉を聞いて全員が失禁した。ゴリアテが太陽を覆うほどの宇宙戦艦であったからである。なるほど、船でも戦車でも何人乗っていようが一騎は一騎。円盤型の宇宙戦艦と槍装備の歩兵でも一騎打ちは成立する。遠宇宙からの侵略者ペリシテ星人は、これほどまでにイスラエルの言葉が堪能であった。
さて、イスラエル軍の戦列にはベツレヘムの住人エッサイの息子らも加わっていた。エッサイは息子たちの様子が心配になり、残って羊の世話をしていた末の子ダビデに言った。
「差し入れを持って兄さんたちのところへ行き、安否を確かめてきなさい。このチーズ十個は千人隊長どのの袖の下に入れなさい」
(サムエル記Ⅰ/17章17-18節)
ダビデたちの住むベツレヘムから戦場まで山道で二十キロ以上あり、ダビデの足をもってしても二十分ほどを要した。そうしてダビデが野営地につくと、ちょうどゴリアテからの挑戦の時間だった。
あれ以来、ゴリアテは毎日の朝と晩に欠かさず同じ言葉を送ってきていた。そのたびに兵士たちが失禁するものだから、辺りには塩水の湖ができた。これが現在の死海である。
千人隊長の袖の下にチーズを詰め込みながらダビデが憤ると、ダビデの兄である長男エリアブは怒りを燃やして言った。
ダビデはまだ王ではなかったが、預言者サムエルによって油を注がれたことで神の霊が激しく下っていた。(サムエル記Ⅰ16章13節) それを篭めた眼力はまさしく悪魔そのもの、近くにいた全員を失禁させた威圧感は、ゴリアテ対策に頭を痛めるサウル王の耳にも届いた。
アンモニア臭漂う本陣へと呼び出されたダビデはサウルに言った。
サウルはダビデに言った。
ダビデの眼力に神のご意思を感じたサウルは、ダビデに自分の鎧を貸し与えた。ダビデはその上にサウルの剣を帯び、思い切って歩いてみた。
ダビデは青銅の鎧を引きちぎって捨てると、自分の杖を手に取り、川から五つのなめらかな石を拾ってきた。イスラエルの羊飼いは狼やライオンから羊を守るために石投げひもを使うのが風習であり、ダビデはその中でも名手だった。
武器を用意したダビデは石投げひもを手に、戦艦ゴリアテへと近づいた。
馬鹿にされたと思ってかビカビカと赤い光を放つゴリアテにダビデは言った。
「お前は何やらよく分からない光学兵器を武器に向かってくるが、私はお前がなぶったイスラエルの戦陣の神、万軍の主の御名によって、お前に立ち向かうのだ。
この戦いは主の戦いだ。主はお前たちを我々の手に渡される」
(サムエル記Ⅰ/17章45-46節)
ゴリアテは第四戦速を発令し、全砲門をダビデへと向けた。
投石である。
ただ石を投げるだけの、だが鍛え上げられた技の疾さは光速もかくや。小石という名の地球の欠片を食らった宇宙戦艦ゴリアテは何をする間もなく爆発炎上してゆく。祖母ルツより授けられしこの投石術こそ、ダビデをエイリアンバスターたらしめている所以であった。
火だるまになりながら地上へ落下するゴリアテを目で追ったサウルは、当然のように無傷で帰還したダビデに言った。
名も無きエイリアンバスターであったダビデの名はこの日、全イスラエルへと知れ渡った。
イスラエルの初代国王がサウル、二代目がダビデです。もともとイスラエルは神と預言者(予言者)が治める国だったところを、王を求める民の声に神が応え、ベニヤミン族の青年サウルを選定した経緯があります。
はじめはすぐれた治世をしていたサウルでしたが、だんだん高慢になり神をないがしろにするようになってしまいます。そこで神はサウルを見限り、新たな王としてダビデを指名します。それが冒頭のシーンです。
もっともダビデはまだ少年(紅顔の美少年だったと伝わります)だったので、その後もしばらくはサウルの王権が続きます。そんなダビデが成長するにつれて力をつけていき、最終的に王になる過程を描くのがサムエル記です。