でも卒業できない男ダビデ

文字数 842文字

「遊女ラハブにヨシュアのエリコ侵攻……。そんなわけあるか、もう四百年前の話じゃないか」
 受け入れがたい現実に頭を抱えるダビデだが、イタズラにしては手が込みすぎている。衛兵まで使って部外者のダビデを騙す理由があるとは思えない。

 何より、エリコに入る前は見えなかった城壁が突然現れたことにも説明がついてしまう。理解はできずとも納得するしかない。

「ペリシテの仕業だろうな。空の果てから来たり人間を化物に変えたりする連中なら、やってやれないこともなさそうだ」
 となると、まず最初に確認すべきことがある。
「俺が四百年前に来てしまったのか、それともエリコが四百年前の姿になったのか。もし、もしも前者なら……いや、実際に確かめるのが先か」
「ダビデ様、どうかされましたか? やはりまだお尻が……」
「違う。いや、違いはしないが違う。ちょっと出かける用事ができた」
「え? でも町の門はもう……」
「問題ない。こうしておもむろに立ち上がり窓枠に手をかけてですね」
「飛び降りた!?」
 エリコは城壁に囲まれた町であり、ラハブの家はその城壁に埋め込まれるように建てられている。つまり窓を飛び出せばそこは町の外の上空。そして、その下には。
「ミカル!」
「Ah――――!!」
「エルサレムまで走ってくれ。速度全開、夜が更けるまでに戻るぞ!」
 駆けつけた王女ミカル……だった生体兵器にまたがり、西を指差す。その先にあるのはつい先日出てきたばかりの首都エルサレム。

 地を割るばかりの速度で駆け出したダビデたちの背中に、ラハブは口に手を当てて叫ぶ。

「ところでダビデ様! 今夜のことですが!」
「心配無用! 絶対に戻るから床を準備して待っていていただきたい!」
「いろいろと忙しくなるので、ナシでお願い致します!!」
「……ああうん、そうだよね。戦争始まるんだもんね。そんなことしてる場合じゃないよね」
「Ha―――――♪」
 うなだれるダビデを振り落とさんばかりに速度を増したミカルの姿は、暮れなずむ西の地平線へとたちまちに消えていった。
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登場人物紹介

ダビデ


 後にイスラエルの栄華を築く羊飼いの少年。凶暴な生体兵器へと改造された王女ミカルを捕獲し、元に戻せば嫁にやると言われて旅立つ。特技は投石。好きな食べ物は羊の煮込み。女好きで外道

ミカル


 イスラエル王女。ヒロイン兼馬代わり。

 元は美少女だったが生体兵器へ改造されてしまった。口から放つ音響縮退砲エリコバスターは射程内のあらゆるものを粉砕する。

 腹をがばっと開くことができ、人間だった頃の体はそのスペースに収まっている。もうひとりくらいなら潜り込んで添い寝が可能。


 左は人間だった頃の姿である。改造後はカマドウマとナマコを足して割らなかったようなヌメヌメ六本足の身体となった。

サウル


 イスラエル初代国王。聡明だが臆病で短気なところもある、ダビデの主君でミカルの父。

 ペリシテの侵略に悩まされていたところにダビデが現れて喜ぶも、ミカルがダビデに惚れたことで手のひらを返した。が、そのミカルを改造されてしまったことでまたも手のひらを返し、ミカルを人間に戻せば嫁にやろうとダビデを焚き付ける。

ヨナタン


 イスラエル第一王子。ミカルの兄でダビデの大親友。

 シスコンをこじらせている。

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