無職王ダビデ
文字数 1,430文字
悲しみのあまり、王サウルは血税で作られた着物を引き裂いた。王にこの急報を運んだダビデの足元には、首輪をつけられ調教されたミカル(だった獣)がうずくまっている。
昨日、ミカルを捕獲したダビデは兄弟に羊を預け、言った。
「王にこのことを知らせねば。よし、とりあえず調教して乗っていこう」
手始めにとダビデの投石を見せつけられたミカルは即座に忠犬と化し、ダビデの足となった。見よ、あの凶暴な『カインの獣』が売られていく羊のように静まっている。
その現実を前にして何故だ何故だと頭を振り乱すサウルに、ダビデは言った。
見よ、王の娘を調教して乗り物に使ったダビデの非道を咎めるものは誰もいない。王宮のしもべたちは賢明であった。
陽の皮はないペリシテも面の皮くらい剥げるだろうと息巻く。ダビデは純情だったからである。しかし、ダビデの頭を抑えつけてサウルは言った。
抑えつけられた頭を押し返すダビデに、サウルは言った。
ミカルを元に戻し、諸悪の根源ペリシテを叩き潰す。目的を同じくするふたりは以心伝心であった。
「は、ここに」
「神に誓って答えます。ありません、王よ。ただ神のみが為しうることです」
「お許し下さい、王よ。しもべは誤りを申しました。ただ神と、ペリシテのみが為しうることかと存じます。神の言葉のように確かなものではありませんが、変えられるのなら戻せるのが道理でございましょう」
「そのように、王よ。嗚呼、どこかにペリシテを打ち、方法を吐かせることのできる戦士がいればよいのですが」
「すでに走り去りました」
「仕方がありません、王よ」
皆の行動は単純であった。目的が単純だからである。この日、ダビデは晴れて無職となった。