第6話

文字数 2,192文字

「それでは、邸に飾られている絵画をご案内します」
 リリーの案内で邸に飾られた「絵画」を見ていく。
〈金持ちの趣味ってやつか〉
 絵画よりも、少し「邸そのもの」の方に興味が向く。
〈ここはオカルトの中で間違いないんだろうな〉
 おそらく現実でも、現代でもなく「過去」か「記憶」の中だと考えている。見たところ、70’sあるいは80’sか。少なくともパソコンやスマホのような「IT機器」のようなものは邸にはなさそうだ。そもそも、電波が圏外だ。
「邸の中」を見る。二階建ての豪邸。広くてあらゆる物が豪華だ。
 昔は、今と比べて娯楽は少なかっただろう。
 すると「美術品の収集」なんてものがステータスを兼ねた趣味になった。おそらく、この時代はそうなのだろう。邸の中の調度品も高級そうだ。ただ、懸念するべきことがあるのなら〈この手の金持ち、カタギじゃないかもな〉という予感だ。

 1つ目の絵画の前。階段横に飾られた一枚。
 絵画のタイトルは「雨」だ。
 美術に詳しくはないが、印象派のように見えた。雨の日の街の風景、遠くに傘を差している男が一人立っている。青色が綺麗だとは思うが、今のところ私には「この絵画に特別な価値は見いだせない」な。
 リリーが言う。
「絵画は、ご主人がお集めになって邸に飾られています」
「この絵画は「有名な画家のもの」なんですか?」
「おそらくはそうではないでしょう。ですが、ご主人は意味を感じて収集したようです。時折、一人で絵画の前に立って眺めています」

 私は、しばらく眺めたが「この絵画は私の心に響かない」といったところ。絵画の心の中の価値は、結局、個人よって異なるものだ。
〈でも、絵画に何億も払うのは正直に言うと感覚が分からないよな〉
 私がケチなのは「お金がないから」なんだろう。
 苦学生、とまではいかないが、生活に余裕はなくて、だから心霊ライターをやっている。そして、この邸にやって来たんだ。それを「奇妙な縁」があるものだと感じる。もっともオカルトとの繋がりなどは一般社会では不要なものなんだけど。
「それでは「次の絵画へ」案内します」
「あ、はい」と私は言った。
 もっと、あれこれ説明されたりするものかと思っていたが、素っ気ないというか。あるいはリリーは「この絵画に詳しくないのかもしれない」と思った。
 私たちは、次の絵画が飾られている場所へと移動する。

 彼女「リリー」が気になっている。
〈彼女「リリー」から、重要なことを聞き出せるだろうか? あるいは「話せる相手」なら話してみたいけれど。それは少し危険なことか?〉
 適当な会話で彼女のことを少し探ってみようか?
〈相手のことを聞き出そうとすると、芋づる式に、自分のことを話さないといけなくなるかもしれない。それも今は避けたい〉
 そう考えているとリリーの方から私に聞いてきた。
「ジェローム様は、お仕事は何をされている人なのですか?」
 不意をつかれて、つい本当のことを言う。
「えっと。一応、オカルト雑誌の記者をやっていて」
 リリーは「凄いですね」とニコッと笑う。
〈何だろう? これはアジアのカルチャーかも?〉
 それはどこか「お世辞」にも似た、食えない印象の笑顔だ。
 リリーは少し話してみた感じは、何だか「毒」を隠し持っていそうだ。言葉に本心を見せないからだ。私は、彼女に「アジアなカルチャー」を感じ取っている。言葉ではないところに意味を籠める。というアジアン・カルチャー。
「察する文化」はラテン・アメリカにもある。けれど。ラテン・アメリカの「それ」とも、また違うカルチャーのように感じ取った。

 * * * * *

 リリーの案内で絵画を20枚ほど見た。
 すると「とある疑問」に気付く。
〈この絵画たち。何か意味が隠されている?〉
 多くは、何かの「シーン」が描かれている。
 どれもが、何かしらが隠されているような「暗示」が見て取れる。何故なら「一人の男」が、どこかに必ず立っているからだ。そこには「意味」があるのでは? そう考えていると、何か「物語の断片」があるような気がした。
 自分がライター業をやっているからかもしれないが、何かを見ても、そこに意味や、物語を見つけようとしてしまう「クセ」がある。これらの作品は、何か「背景に誰かの物語か心があるのでは?」そう思う。
 リリーが私に告げる。
「次がコレクションの最後になります」
 私は、疑問を持ったまま、その最後の絵画へ向かう。

 その「最後の絵画」の前。廊下の見えない角に「一人の男」が立っていた。スーツを着た「金髪のラティーノ」に見える。見た感じは「落ち着いた雰囲気」を持っている。私たちの存在に、向こうも気付く。 
 男は絵画を指差して言った。
「この絵画。何故、何も描かれていないのだろう?」
「Xの絵画」と名付けられた絵画は何も描かれていなかった。
 リリーが「いつからこの邸に?」と彼に話しかけた。
「それが覚えていないんだ。気がついたらこの邸に居たよ。それで「この絵画」の前から、何故か離れられずに立っているんだ」
 私は、改めて「Xの絵画」を見た。
〈この絵画。何か意味がありそうだ〉
 あの主人と見られる男は「集めた絵画を見せるように」と言った。つまり「コレクション」なわけだが「何も描かれていない絵画」は、おかしい。絵画もそうだし、その絵画の前に立っている「彼」も、何かの「キー」であるような気がする。
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