第15話
文字数 2,195文字
私は「暗闇の中」に引きずり込まれる。
〈ああ。こんなことになるのなら来なければよかったな〉
無数の亡霊のうめき声が聞こえている。
コール、ディアボロ、も無数の亡霊の中の「一部」だったのかもしれない。そう考えながら「ここで終わるのか」と、走馬灯のように過去を思い出している。小さな頃の記憶。そういえば祖母に「幽霊に決して近づいちゃいけないよ」と言われていた。その約束は守れなかったな。
遠くに、異形の存在「ファントム」が見える。
無数の亡霊の集合体「成れの果て」だ。
〈私もこいつに喰われる。あるいは一部になるのか?〉
私は死を観念した。だが。
〈何もしてこないな。どうしてだろうか?〉
まだ何もされていなく特に痛みも苦しみもない。
遠くに「ファントム」が見える。けれど、もしかして私を見失っているのか? 何故? そういえば「私を取り込めなかった」と言っていた。もしかすると「名前を偽った以外にも」何か別の理由、要素があるのだろうか?
私がそう疑問に思っていると。
『――静かに』と、女性の声が聞こえた。
私の目の前に、この邸に初めて来た時に現れた「白い女性の幽霊」が再び現れた。彼女は私に「警告したのに」と言う。
今は「彼女の声」が聞こえる。
〈そうだ。一番初めに会ったのは彼女だ〉
すると、何か秘密がまだあるのだろうか?
「あなたが「このオカルト」の黒幕なの?」
私の言葉に「違うわ」と厳しい顔で静かに告げる。
「私を悪霊なんかと一緒にしないで。私は、あなたの守護霊よ。名前は「ヴェロニカ」あなたの祖母が亡くなった後、あなたを守ることが私の役割だった。だから、あなたに「行くな」と言った。あなたが「あれ」に取り込まれなかったのは、あなたがあの時に「別の名前を使ったこと」と、私の加護」
言われて、私は間抜けに「あ、ありがとうございます」と言う。
「それで、この状況から生還出来るんでしょうか?」
「私が、あなたを現実の世界へ導きます」
不意に「優しい光」が見えた。
自分の懐で「何かが」光っている?
取り出すと「月の光」のように優しく光る石。祖母からもらったお守り「ムーンストーン」だ。邪悪な暗闇から私を守るように光っている。それが少し欠けたかと思うと、その欠片は「光るハチドリ」の姿となった。
〈〈私の示す道を行きなさい。決して後ろを振り向かずに〉〉
私は「ムーンストーン」をポケットに仕舞った。
ハチドリが先に飛んでいくと、暗闇の中に「道」が見えた。私は言葉に従い、その道を歩いてハチドリに着いていく。途中、後ろにファントムのものであろう「気配」を感じたけれど、私は振り向くことなく歩き続けた。
〈現実に生還しないと。まだ、何も答えを出せていない人生が惜しい〉
瀬戸際になって、その思いは強くなっていく。
「それでいいわ」とヴェロニカの声が聞こえた。
「今の思いを決して忘れずに。さあ「起きなさい」悪夢は過ぎ去った」
すると。後ろに感じていた「ファントムの気配」が消えた。
かと思うと、急に「現実に引き戻される感覚」があった。遠くで「誰か」の声が聞こえている。オカルトじゃなくて「人の声」だ。
――私はどこかに座っている?
――私は今、眠っているのか?
そう分かった時、私は眠りから覚めていく。
* * * * *
『――お客さん。起きてください』
タクシードライバーの「着きましたよ」の声で起きる。
はっと意識が戻ると、何てことはない。
見慣れた「レティーロ駅」の前だ。夜、街灯の灯り。タクシーの外では人々の喧騒。それと「確かに感じる現実感」だ。ずっと感じていた「夢の中に居るような違和感」はもうなくなっている。
ここが「現実」だと分かる。
「どうしたんですか? 早く料金を払ってくださいよ?」
タクシードライバーが急かすようにそう言った。
「えっと。私、タクシーに乗っていたんですよね?」
「ええ。取材なのに「ボルヘスさん」は眠っていましたがね」
彼はそんな嫌味を言った。
「今日は何月何日ですか?」
「寝ぼけているんですか?」
しばらく呆然としていたけれど、料金を払えと急かしてくるタクシードライバーに言われるがまま料金を支払って、まだ状況に戸惑ったままでタクシーを降りる。私が降りると、タクシーはさっさと行ってしまった。
〈あれは夢だったのか?〉
「そうだ「今日の月日」を確認しよう」
今は、タクシーに取材した日で間違いないよな? そう思いスマホを取り出そうとすると「コツン」と指先に何かが当たる感覚。
「あれ? これは何だっけ?」
それを取り出す。見て思わず一言呟く。
「夢、じゃないな」
「ムーンストーン」は欠けている。
九死に一生を得てあの世から戻ってきたようだ。
でも、今はそのことを喜ぶより「別の言葉」を口に出していた。
「悔しいのが、これをこのまま記事に出来ないこと「作り話もいい加減にしろ」って編集に言われそう。話が出来すぎている。何か、悔しい」
どう変えてもこれは記事に出来ない。
〈ああ、気が付けば私は立派な「Occult Writer」だ〉
ふう、と大きなため息を吐いて夜空を見上げる。
ブエノスアイレスの夜空に大きな月が浮かんでいて「どうして、こんなにも美しい夜なんだ」と言葉にしていた。こんなに月が美しい夜には、孤独でさえも、一瞬愛せる。不覚にもそんな気がしたんだ。今。
「ファントム(Xの絵画)」END
〈ああ。こんなことになるのなら来なければよかったな〉
無数の亡霊のうめき声が聞こえている。
コール、ディアボロ、も無数の亡霊の中の「一部」だったのかもしれない。そう考えながら「ここで終わるのか」と、走馬灯のように過去を思い出している。小さな頃の記憶。そういえば祖母に「幽霊に決して近づいちゃいけないよ」と言われていた。その約束は守れなかったな。
遠くに、異形の存在「ファントム」が見える。
無数の亡霊の集合体「成れの果て」だ。
〈私もこいつに喰われる。あるいは一部になるのか?〉
私は死を観念した。だが。
〈何もしてこないな。どうしてだろうか?〉
まだ何もされていなく特に痛みも苦しみもない。
遠くに「ファントム」が見える。けれど、もしかして私を見失っているのか? 何故? そういえば「私を取り込めなかった」と言っていた。もしかすると「名前を偽った以外にも」何か別の理由、要素があるのだろうか?
私がそう疑問に思っていると。
『――静かに』と、女性の声が聞こえた。
私の目の前に、この邸に初めて来た時に現れた「白い女性の幽霊」が再び現れた。彼女は私に「警告したのに」と言う。
今は「彼女の声」が聞こえる。
〈そうだ。一番初めに会ったのは彼女だ〉
すると、何か秘密がまだあるのだろうか?
「あなたが「このオカルト」の黒幕なの?」
私の言葉に「違うわ」と厳しい顔で静かに告げる。
「私を悪霊なんかと一緒にしないで。私は、あなたの守護霊よ。名前は「ヴェロニカ」あなたの祖母が亡くなった後、あなたを守ることが私の役割だった。だから、あなたに「行くな」と言った。あなたが「あれ」に取り込まれなかったのは、あなたがあの時に「別の名前を使ったこと」と、私の加護」
言われて、私は間抜けに「あ、ありがとうございます」と言う。
「それで、この状況から生還出来るんでしょうか?」
「私が、あなたを現実の世界へ導きます」
不意に「優しい光」が見えた。
自分の懐で「何かが」光っている?
取り出すと「月の光」のように優しく光る石。祖母からもらったお守り「ムーンストーン」だ。邪悪な暗闇から私を守るように光っている。それが少し欠けたかと思うと、その欠片は「光るハチドリ」の姿となった。
〈〈私の示す道を行きなさい。決して後ろを振り向かずに〉〉
私は「ムーンストーン」をポケットに仕舞った。
ハチドリが先に飛んでいくと、暗闇の中に「道」が見えた。私は言葉に従い、その道を歩いてハチドリに着いていく。途中、後ろにファントムのものであろう「気配」を感じたけれど、私は振り向くことなく歩き続けた。
〈現実に生還しないと。まだ、何も答えを出せていない人生が惜しい〉
瀬戸際になって、その思いは強くなっていく。
「それでいいわ」とヴェロニカの声が聞こえた。
「今の思いを決して忘れずに。さあ「起きなさい」悪夢は過ぎ去った」
すると。後ろに感じていた「ファントムの気配」が消えた。
かと思うと、急に「現実に引き戻される感覚」があった。遠くで「誰か」の声が聞こえている。オカルトじゃなくて「人の声」だ。
――私はどこかに座っている?
――私は今、眠っているのか?
そう分かった時、私は眠りから覚めていく。
* * * * *
『――お客さん。起きてください』
タクシードライバーの「着きましたよ」の声で起きる。
はっと意識が戻ると、何てことはない。
見慣れた「レティーロ駅」の前だ。夜、街灯の灯り。タクシーの外では人々の喧騒。それと「確かに感じる現実感」だ。ずっと感じていた「夢の中に居るような違和感」はもうなくなっている。
ここが「現実」だと分かる。
「どうしたんですか? 早く料金を払ってくださいよ?」
タクシードライバーが急かすようにそう言った。
「えっと。私、タクシーに乗っていたんですよね?」
「ええ。取材なのに「ボルヘスさん」は眠っていましたがね」
彼はそんな嫌味を言った。
「今日は何月何日ですか?」
「寝ぼけているんですか?」
しばらく呆然としていたけれど、料金を払えと急かしてくるタクシードライバーに言われるがまま料金を支払って、まだ状況に戸惑ったままでタクシーを降りる。私が降りると、タクシーはさっさと行ってしまった。
〈あれは夢だったのか?〉
「そうだ「今日の月日」を確認しよう」
今は、タクシーに取材した日で間違いないよな? そう思いスマホを取り出そうとすると「コツン」と指先に何かが当たる感覚。
「あれ? これは何だっけ?」
それを取り出す。見て思わず一言呟く。
「夢、じゃないな」
「ムーンストーン」は欠けている。
九死に一生を得てあの世から戻ってきたようだ。
でも、今はそのことを喜ぶより「別の言葉」を口に出していた。
「悔しいのが、これをこのまま記事に出来ないこと「作り話もいい加減にしろ」って編集に言われそう。話が出来すぎている。何か、悔しい」
どう変えてもこれは記事に出来ない。
〈ああ、気が付けば私は立派な「Occult Writer」だ〉
ふう、と大きなため息を吐いて夜空を見上げる。
ブエノスアイレスの夜空に大きな月が浮かんでいて「どうして、こんなにも美しい夜なんだ」と言葉にしていた。こんなに月が美しい夜には、孤独でさえも、一瞬愛せる。不覚にもそんな気がしたんだ。今。
「ファントム(Xの絵画)」END