第10話
文字数 1,900文字
邸の中、雨音が聞こえている。
部屋には豪華な家具。
机の上には「ボルヘスの短編小説」も見える。
部屋の中に居る「コール」は、ナイーブな表情で、膝を抱えて皮のソファー椅子に座っている。人生を憂うような表情を浮かべている。
一日中、降り続く雨。窓の向こうの雨を見つめるコールの表情も晴れない。湿度が高く、不快感と雨による閉塞感を強く感じている。一匹の、小さな南米種の緑色の雨蛙が、窓ガラスにビタッと貼り付いている。
コールはその雨蛙を見ていた。
コンコン、と控えめなノックの音がした。コールは動かずに次の言葉を待った。扉の向こうで「お兄様。エミリアです」と妹の声が聞こえた。その声を聞いたコールは穏やかな声で「今、鍵を開けるよ」と言った。
扉の前まで歩き、扉の鍵を開ける。
扉が開き、妹「エミリア」がコールの部屋の中へ。
「コールお兄様」
彼女は黒く上品な洋服を着ている。
傍目にも、コールとエミリアは兄妹だと分かった。
コールはエミリアを部屋に招いた後で、扉の鍵をかける。
こうすることで、一時「マフィアの世界から抜け出す」そうでもしないと、コールもエミリアも、安心して本心を話すことが出来なかった。この邸は広いが、この邸の中の外へ出ることも難しく、邸の中でさえ気を許せない。
どこで、誰が自分の命を狙っているのか分からない。
二人も、絶えず繰り返される「マフィアの世界」の住人だった。
「二人きり」の時は、お互いに隙を見せることさえある。コールにとって妹の「エミリアの存在」は大きかった。それは、このマフィアのファミリーの中で「血縁」という、唯一信頼が出来る特別な絆だった。
ファミリーは、今は「兄妹だけ」だった。
兄妹の両親はマフィアの抗争で亡くっている。そのことが、兄妹の絆をより強くしたと同時に、コール、ディアボロも、他人に心を許すことが一切出来なくなった。そして残された唯一の家族、妹のエミリアを溺愛した。
二人だけで居る時。コールとエミリアは「家族」として、周りを気にせずに会話が出来る。コールはナイーブな性格だった。
「血生臭い家に生まれてしまったものだよ。いつか、私も誰かに殺されるかもしれない。殺される前に、殺さなきゃならないことが「定め」なのか」
「そんなことはないと思いたいです」
「だけど、実際はそうなんだ」
コールは窓の外の雨を見つめて言う。
「逃れられない宿命「カルマ」なんだろうと思う」
コールはそのように考えている。
カルマ。そう考えなければ「世界の理不尽」というものを受け入れることが出来なかった。全ての悪は、何かの因果関係があって、前世から今の自分に課された「罪」なのだと思うことにした。そして神に、非合法な世界で生きていくために「この手を血で染めることを許してくれ」と祈り、時に呪う。
エミリアがコールに聞く。
「お兄様は、先日のこと、どう思っていますか?」
エミリアは先日「男が邸で殺された」と聞いた。今日は、そのことについてコールの本心が聞きたくて部屋を訪れた。
コールは自分の考えを偽りなくエミリアに話す。
「みんなが「ディアボロ」を恐れている。そして、それは私も例外ではない。私も「ディアボロが怖い」だけど、ディアボロも、またカルマの中に居るだけだ。ディアボロも「いくつもの銃口」が己に向けられていることを知っている」
二人に少しの沈黙。雨の音を聞いた。
エミリアも窓の外の雨を見る。
「ここに居ると「孤独」です。今は特に。雨で邸から出ることも躊躇うからです。私には友達も居ない。みんな、私がこの家の娘だと知っているから怖がって近寄ってこない。声をかけても、誰も私を知ってくれないわ」
「私もそうだよ」とコールは言う。
「一度、普通の暮らしに憧れて「一般人を装ったこと」があるよ。でも、結局、一人で海を見ていた。自分の背景や、今までの人生を偽って生きていくことも、また「別の孤独」でしかなかった。そしてこの邸に戻ってきてしまった」
「私はお兄様と一緒に暮らせて嬉しいです」
「ありがとう。エミリア」
エミリアは疑問をコールに聞いた。
「どうして「ここ」に邸を建てたのでしょうか?」
エミリアの疑問にコールが答える。
「以前、同じ質問を父親にしたことがあるよ。曰く、ここには「運命を引き寄せる強力な魔力、呪いがある」と父親は言っていた。先住民の神話さ。実際に、ここに来てからは何もかもが「ファミリー」に転がり込んできたと聞く」
そう言ってからコールは呟いた。
「それが幸せか、不幸か、までは分からないけれど」
そしてエミリアへ笑顔を見せる。
「私が心を許せるのはエミリアだけだ。最愛の妹よ」
部屋には豪華な家具。
机の上には「ボルヘスの短編小説」も見える。
部屋の中に居る「コール」は、ナイーブな表情で、膝を抱えて皮のソファー椅子に座っている。人生を憂うような表情を浮かべている。
一日中、降り続く雨。窓の向こうの雨を見つめるコールの表情も晴れない。湿度が高く、不快感と雨による閉塞感を強く感じている。一匹の、小さな南米種の緑色の雨蛙が、窓ガラスにビタッと貼り付いている。
コールはその雨蛙を見ていた。
コンコン、と控えめなノックの音がした。コールは動かずに次の言葉を待った。扉の向こうで「お兄様。エミリアです」と妹の声が聞こえた。その声を聞いたコールは穏やかな声で「今、鍵を開けるよ」と言った。
扉の前まで歩き、扉の鍵を開ける。
扉が開き、妹「エミリア」がコールの部屋の中へ。
「コールお兄様」
彼女は黒く上品な洋服を着ている。
傍目にも、コールとエミリアは兄妹だと分かった。
コールはエミリアを部屋に招いた後で、扉の鍵をかける。
こうすることで、一時「マフィアの世界から抜け出す」そうでもしないと、コールもエミリアも、安心して本心を話すことが出来なかった。この邸は広いが、この邸の中の外へ出ることも難しく、邸の中でさえ気を許せない。
どこで、誰が自分の命を狙っているのか分からない。
二人も、絶えず繰り返される「マフィアの世界」の住人だった。
「二人きり」の時は、お互いに隙を見せることさえある。コールにとって妹の「エミリアの存在」は大きかった。それは、このマフィアのファミリーの中で「血縁」という、唯一信頼が出来る特別な絆だった。
ファミリーは、今は「兄妹だけ」だった。
兄妹の両親はマフィアの抗争で亡くっている。そのことが、兄妹の絆をより強くしたと同時に、コール、ディアボロも、他人に心を許すことが一切出来なくなった。そして残された唯一の家族、妹のエミリアを溺愛した。
二人だけで居る時。コールとエミリアは「家族」として、周りを気にせずに会話が出来る。コールはナイーブな性格だった。
「血生臭い家に生まれてしまったものだよ。いつか、私も誰かに殺されるかもしれない。殺される前に、殺さなきゃならないことが「定め」なのか」
「そんなことはないと思いたいです」
「だけど、実際はそうなんだ」
コールは窓の外の雨を見つめて言う。
「逃れられない宿命「カルマ」なんだろうと思う」
コールはそのように考えている。
カルマ。そう考えなければ「世界の理不尽」というものを受け入れることが出来なかった。全ての悪は、何かの因果関係があって、前世から今の自分に課された「罪」なのだと思うことにした。そして神に、非合法な世界で生きていくために「この手を血で染めることを許してくれ」と祈り、時に呪う。
エミリアがコールに聞く。
「お兄様は、先日のこと、どう思っていますか?」
エミリアは先日「男が邸で殺された」と聞いた。今日は、そのことについてコールの本心が聞きたくて部屋を訪れた。
コールは自分の考えを偽りなくエミリアに話す。
「みんなが「ディアボロ」を恐れている。そして、それは私も例外ではない。私も「ディアボロが怖い」だけど、ディアボロも、またカルマの中に居るだけだ。ディアボロも「いくつもの銃口」が己に向けられていることを知っている」
二人に少しの沈黙。雨の音を聞いた。
エミリアも窓の外の雨を見る。
「ここに居ると「孤独」です。今は特に。雨で邸から出ることも躊躇うからです。私には友達も居ない。みんな、私がこの家の娘だと知っているから怖がって近寄ってこない。声をかけても、誰も私を知ってくれないわ」
「私もそうだよ」とコールは言う。
「一度、普通の暮らしに憧れて「一般人を装ったこと」があるよ。でも、結局、一人で海を見ていた。自分の背景や、今までの人生を偽って生きていくことも、また「別の孤独」でしかなかった。そしてこの邸に戻ってきてしまった」
「私はお兄様と一緒に暮らせて嬉しいです」
「ありがとう。エミリア」
エミリアは疑問をコールに聞いた。
「どうして「ここ」に邸を建てたのでしょうか?」
エミリアの疑問にコールが答える。
「以前、同じ質問を父親にしたことがあるよ。曰く、ここには「運命を引き寄せる強力な魔力、呪いがある」と父親は言っていた。先住民の神話さ。実際に、ここに来てからは何もかもが「ファミリー」に転がり込んできたと聞く」
そう言ってからコールは呟いた。
「それが幸せか、不幸か、までは分からないけれど」
そしてエミリアへ笑顔を見せる。
「私が心を許せるのはエミリアだけだ。最愛の妹よ」