第11話
文字数 1,863文字
雨。邸の中。邸の窓から見えるものは、この日も雨だった。邸はブエノスアイレスからそれほど離れているわけではないが、このあたりは雨が多い。もともとが森だったのには理由があり、植物が生えるには適しているようだ。
庭には鬱蒼とミントが生い茂っている。
大広間にディアボロ、エミリア、クラーク、顧問弁護士ガルシア。
「今日は、何か「良い話がある」と聞いているが?」
ディアボロがエミリアにそう聞く。
「ええ、お兄様。とても良いお話です」
エミリアが控えめに微笑み、クラークの手を取ってディアボロの前へ出る。
「お兄様。実は私たち、結婚しようと考えています」
クラークがディアボロを前に誠実そうに言う。
「ボス。私は彼女を幸せにしてみせます」
二人は既に決意を固めているようで、細い銀の指環がその左手の薬指に見えた。ディアボロは黙ってそれを見つめているようだった。しばらく黙っていたことを考えるとディアボロには、寝耳に水、だったのかもしれない。
その後、ディアボロが静かに二人に告げる。
「それは素晴らしいことだ。私からも祝福させてもらうよ。テ・アモ」
「ありがとうございます。お兄様」
顧問弁護士ガルシアは「二人のことに興味がない」という表情でこの様子を眺めていた。ディアボロの顔は塗りつぶされていて、どのような表情なのかは分からない。喜んでいるのか、あるいはそうではないのか。
ディアボロが窓を向いて言った。
「折角の日なのに、雨が降っているな」
ディアボロは雨を見てそう言う。
「ええ、ボス。ですがこれは祝福の雨だと思うことにします」
「ああ、そう思ってくれ。それはそうと、実は君にプレゼントがあるんだ。何てことはない。君の功績に関して些細な贈り物というだけのことだ。今日という日に丁度よかったかもしれない。気に入ってもらえるだろうか?」
「ボスの贈り物なら。当然、私は気に入るでしょう」
「これなんだが、きっと気に入ってもらえると思う」
ラッピングされた「小さな赤い小箱」だった。
「開けてくれ」とディアボロは言う。
クラークは、余裕の表情でその小箱を開けた。だが、一瞬にしてクラークの表情が凍りついた。そして手に持っていた小箱を床に落とした。小箱から「無数の人の指」が床に散らばった。それは、本物の人間の指だった。
エミリアもあまりの出来事に絶句して両手を口に当てている。
ディアボロがクラークに言う。
「驚くことはないだろう?」
その口調は皮肉を含めた笑っている声だ。
「君と共に「反旗を翻して新しい組織を作ろうとしていた者たちの指」だよ。知らないとでも思っていたのか? エミリアを恋人にしたのも、お前の野心の一つでしかない。君は、我が妹エミリアに近づく「悪い虫」なんだ」
ディアボロは組織内の「謀反」を決して許さない。
まるで毒蛇のような残酷性を持って裏切り者を「始末」してきた。クラークたちの「謀反の計画」の噂を聞き、噂の裏を取り、クラークを除く全員を極秘に始末した。そして、今日にもクラークを始末しようとしていた。
クラークは釘を刺されたように動けずにいた。
クラークは今まで「怯えたこと」などなかった。どんな人間を相手にしても、自身の中にある「悪」を持ってここまで成り上がってきた。人を殺すことにも躊躇いもなかった。だが、今、生まれて初めて怯えた。この底しれぬ悪「ディアボロ」を前に「蛇に睨まれた蛙のように」動けずにいた。
ディアボロは取り出した銃を彼に向ける。
「さよならだ。お前も、また私の敵の一人でしかなかった」
クラークが銃を取り出そうとした時。銃声が鳴り響いた。
ディアボロの冷徹な一撃はクラークの頭部を撃ち抜いた。
エミリアは、あまりのことに放心したように呆然としていた。ディアボロはエミリアの前まで歩き、エミリアの手に触れた。
「愛しの「エミリア」よ。この男は、悪者だった。お前の幸せを本当に願っているのはファミリーだけ。今はこの私だけだ」
ディアボロは一度エミリアのもとを離れる。
廊下に立っていた「別の部下」を呼び出して「死体を始末するように」と伝えた。全てを見ていた顧問弁護士ガルシアは、高級腕時計を愛おしそうに見て「時間だ」と言って自分の書斎へと戻っていった。
「これでエミリアに近づく「悪い虫」を殺せたな」
ディアボロがエミリアのもとに戻ってきてその顔に触れる。
「お前を愛しているのは、私だけだよ。エミリア」
エミリアは抑揚のない声でディアボロに「悪魔」と言った〉〉
そこで私の意識は、物語の舞台からフェードアウトしていく。
庭には鬱蒼とミントが生い茂っている。
大広間にディアボロ、エミリア、クラーク、顧問弁護士ガルシア。
「今日は、何か「良い話がある」と聞いているが?」
ディアボロがエミリアにそう聞く。
「ええ、お兄様。とても良いお話です」
エミリアが控えめに微笑み、クラークの手を取ってディアボロの前へ出る。
「お兄様。実は私たち、結婚しようと考えています」
クラークがディアボロを前に誠実そうに言う。
「ボス。私は彼女を幸せにしてみせます」
二人は既に決意を固めているようで、細い銀の指環がその左手の薬指に見えた。ディアボロは黙ってそれを見つめているようだった。しばらく黙っていたことを考えるとディアボロには、寝耳に水、だったのかもしれない。
その後、ディアボロが静かに二人に告げる。
「それは素晴らしいことだ。私からも祝福させてもらうよ。テ・アモ」
「ありがとうございます。お兄様」
顧問弁護士ガルシアは「二人のことに興味がない」という表情でこの様子を眺めていた。ディアボロの顔は塗りつぶされていて、どのような表情なのかは分からない。喜んでいるのか、あるいはそうではないのか。
ディアボロが窓を向いて言った。
「折角の日なのに、雨が降っているな」
ディアボロは雨を見てそう言う。
「ええ、ボス。ですがこれは祝福の雨だと思うことにします」
「ああ、そう思ってくれ。それはそうと、実は君にプレゼントがあるんだ。何てことはない。君の功績に関して些細な贈り物というだけのことだ。今日という日に丁度よかったかもしれない。気に入ってもらえるだろうか?」
「ボスの贈り物なら。当然、私は気に入るでしょう」
「これなんだが、きっと気に入ってもらえると思う」
ラッピングされた「小さな赤い小箱」だった。
「開けてくれ」とディアボロは言う。
クラークは、余裕の表情でその小箱を開けた。だが、一瞬にしてクラークの表情が凍りついた。そして手に持っていた小箱を床に落とした。小箱から「無数の人の指」が床に散らばった。それは、本物の人間の指だった。
エミリアもあまりの出来事に絶句して両手を口に当てている。
ディアボロがクラークに言う。
「驚くことはないだろう?」
その口調は皮肉を含めた笑っている声だ。
「君と共に「反旗を翻して新しい組織を作ろうとしていた者たちの指」だよ。知らないとでも思っていたのか? エミリアを恋人にしたのも、お前の野心の一つでしかない。君は、我が妹エミリアに近づく「悪い虫」なんだ」
ディアボロは組織内の「謀反」を決して許さない。
まるで毒蛇のような残酷性を持って裏切り者を「始末」してきた。クラークたちの「謀反の計画」の噂を聞き、噂の裏を取り、クラークを除く全員を極秘に始末した。そして、今日にもクラークを始末しようとしていた。
クラークは釘を刺されたように動けずにいた。
クラークは今まで「怯えたこと」などなかった。どんな人間を相手にしても、自身の中にある「悪」を持ってここまで成り上がってきた。人を殺すことにも躊躇いもなかった。だが、今、生まれて初めて怯えた。この底しれぬ悪「ディアボロ」を前に「蛇に睨まれた蛙のように」動けずにいた。
ディアボロは取り出した銃を彼に向ける。
「さよならだ。お前も、また私の敵の一人でしかなかった」
クラークが銃を取り出そうとした時。銃声が鳴り響いた。
ディアボロの冷徹な一撃はクラークの頭部を撃ち抜いた。
エミリアは、あまりのことに放心したように呆然としていた。ディアボロはエミリアの前まで歩き、エミリアの手に触れた。
「愛しの「エミリア」よ。この男は、悪者だった。お前の幸せを本当に願っているのはファミリーだけ。今はこの私だけだ」
ディアボロは一度エミリアのもとを離れる。
廊下に立っていた「別の部下」を呼び出して「死体を始末するように」と伝えた。全てを見ていた顧問弁護士ガルシアは、高級腕時計を愛おしそうに見て「時間だ」と言って自分の書斎へと戻っていった。
「これでエミリアに近づく「悪い虫」を殺せたな」
ディアボロがエミリアのもとに戻ってきてその顔に触れる。
「お前を愛しているのは、私だけだよ。エミリア」
エミリアは抑揚のない声でディアボロに「悪魔」と言った〉〉
そこで私の意識は、物語の舞台からフェードアウトしていく。