第10話 司祭
文字数 1,350文字
国へ連れてこられていたバートは牢屋に入れられていた。吸血鬼への恭順が明確でなく、シモンが領主であった領地へ連れてこられたことで、バートを排除する空気が出来上がっていた。
カウクリッツで気絶していたバートは気がついた時にはタイソンに付き添われてトラックに乗せられていた。ガンガンする頭で、ようやく思い出した時には、すべては終わってしまっていた。
祖父の名をつぶやくバートに、立派な方だったとタイソンは涙に声を詰まらせた。車内には、ヘンダウケゆかりのものたちが乗っている。父や兄の姿はない。
国へ到着すると、身体を張って守ろうとするタイソンと引き離されて、一人牢獄へと連行された。他にも人が収監されている人間がいるが、いずれも部屋が離れている。
しばらくして、遠くで出入りの音がした。新しい新人が連れてこられて、バートのいる牢屋の前を通って、隣の牢屋に入れられた。
うなだれるバートは見向きもしなかったが、バルカンはしっかりとバートの存在を確認した。
看守が入り口近くの席に戻ると、バルカンはバート側の壁に張り付いて、ベラベラと喋りだした。
「ねえ、君。僕の隣に入れられるなんてよっぽどだね。僕はさ、人倫を紊すから研究所への移送の準備ができるまで隔離だってさ。いいこと教えてあげようか? この国ではね、和を乱す奴や、責務を果たすのが難しい人まで、排除されちゃうんだよ。人間によってね。不審死もあるんだ。これホント。医者だからわかる。そんな時に頼りになるのは、食事の世話をしに来る人たち。僕はラミア教の司祭って呼んでいるんだけど、他の人が見捨てた人間に、辛抱強く味方してくれる。嘘でもいいからさ、取り入ったほうがいいよ」
バートは力無く言い捨てた。
「もういい」
「うん?」
「もういいんだ」
「殺されちゃうよ」
「吸血鬼を根絶やしにするのが俺の使命だったんだ。でも、俺なんかいなくても、みんなんは吸血鬼の下で生きていける。人間の為政者よりも、吸血鬼の支配者の方がいいんだ」
「ふーん。ねえ、お願いがあるんだけど」
バルカンは鉄格子から腕を回して、バート側の壁をばしばしと叩いた。
「文字書ける? 死ぬ前に一筆書いといてよ。君の身体を僕にちょうだい。僕が解剖してあげる。吸血鬼退治よりも役に立つよ」
「ああ、そう。わかったよ」
バートはほっといてほしかった。
バルカンは喋り続ける。
「僕は忘れてないからね。痛かったなぁ。なかなかの瞬発力だったね、痛かったよ。体格もいいし、街一番のルーキーって感じ? 馬の餌でよくここまで鍛えたね。吸血鬼さえいなければ、君は立派な支配者になれた。それにしても痛かったなぁ。僕のおかげで隊長君助かったよね? ああ、歯茎がグラグラするなぁ」
「悪かったな。殴って」
「いえーい」
バートは思わず拳を握りしめた。
「くそっ……!」
「いっひっひ」
バートはホリーを思い出した。気を失う前に、何かされた気がする。
すると足音が近づいてきて、バートの檻の前まで看守がやってきた。
「バート。迎えがきているぞ。あんまり悲しませるようなことはするなよ」
「………………」
「嫁さんがいるのに、やけを起こすな」
耳を疑うバート。
バルカンの叫びが牢獄にこだました。
「ずるいよ! なんで君にはいるのに、僕にはいないんだ!」
カウクリッツで気絶していたバートは気がついた時にはタイソンに付き添われてトラックに乗せられていた。ガンガンする頭で、ようやく思い出した時には、すべては終わってしまっていた。
祖父の名をつぶやくバートに、立派な方だったとタイソンは涙に声を詰まらせた。車内には、ヘンダウケゆかりのものたちが乗っている。父や兄の姿はない。
国へ到着すると、身体を張って守ろうとするタイソンと引き離されて、一人牢獄へと連行された。他にも人が収監されている人間がいるが、いずれも部屋が離れている。
しばらくして、遠くで出入りの音がした。新しい新人が連れてこられて、バートのいる牢屋の前を通って、隣の牢屋に入れられた。
うなだれるバートは見向きもしなかったが、バルカンはしっかりとバートの存在を確認した。
看守が入り口近くの席に戻ると、バルカンはバート側の壁に張り付いて、ベラベラと喋りだした。
「ねえ、君。僕の隣に入れられるなんてよっぽどだね。僕はさ、人倫を紊すから研究所への移送の準備ができるまで隔離だってさ。いいこと教えてあげようか? この国ではね、和を乱す奴や、責務を果たすのが難しい人まで、排除されちゃうんだよ。人間によってね。不審死もあるんだ。これホント。医者だからわかる。そんな時に頼りになるのは、食事の世話をしに来る人たち。僕はラミア教の司祭って呼んでいるんだけど、他の人が見捨てた人間に、辛抱強く味方してくれる。嘘でもいいからさ、取り入ったほうがいいよ」
バートは力無く言い捨てた。
「もういい」
「うん?」
「もういいんだ」
「殺されちゃうよ」
「吸血鬼を根絶やしにするのが俺の使命だったんだ。でも、俺なんかいなくても、みんなんは吸血鬼の下で生きていける。人間の為政者よりも、吸血鬼の支配者の方がいいんだ」
「ふーん。ねえ、お願いがあるんだけど」
バルカンは鉄格子から腕を回して、バート側の壁をばしばしと叩いた。
「文字書ける? 死ぬ前に一筆書いといてよ。君の身体を僕にちょうだい。僕が解剖してあげる。吸血鬼退治よりも役に立つよ」
「ああ、そう。わかったよ」
バートはほっといてほしかった。
バルカンは喋り続ける。
「僕は忘れてないからね。痛かったなぁ。なかなかの瞬発力だったね、痛かったよ。体格もいいし、街一番のルーキーって感じ? 馬の餌でよくここまで鍛えたね。吸血鬼さえいなければ、君は立派な支配者になれた。それにしても痛かったなぁ。僕のおかげで隊長君助かったよね? ああ、歯茎がグラグラするなぁ」
「悪かったな。殴って」
「いえーい」
バートは思わず拳を握りしめた。
「くそっ……!」
「いっひっひ」
バートはホリーを思い出した。気を失う前に、何かされた気がする。
すると足音が近づいてきて、バートの檻の前まで看守がやってきた。
「バート。迎えがきているぞ。あんまり悲しませるようなことはするなよ」
「………………」
「嫁さんがいるのに、やけを起こすな」
耳を疑うバート。
バルカンの叫びが牢獄にこだました。
「ずるいよ! なんで君にはいるのに、僕にはいないんだ!」