第14話 死刑執行人
文字数 1,761文字
仲間たちに引き留められたグレコは、流されるままに国へとやってきた。そんなグレコを、黒ずくめの吸血鬼が待っていた。目の部分にだけ穴が空いた頭巾を被った異様な装い。他の吸血鬼よりもも少し小柄で、最初は人間かと思ったが、腕を取るその力は、人間のそれではないとグレコは感じた。
一人だけ国のはずれにある施設へと連れていかれる。地下への入り口は物々しく、普通の施設でないことは容易に見てとれた。吸血鬼はどんどん階段を降りていく。一番奥にある扉を開くと、グレコを投げるようにして押し込んだ。そこにはもう一人の人間、ガタガタと震えるロブがいた。
吸血鬼はドアを閉めると、頭巾を取って髪を振り乱した。
「ようこそ地獄の入り口へ。今日からあんたたちはあたしの下僕だ。あたしは死刑執行人のリザ。粗相をしたラミアの首を打ち落とすのがあたしの仕事だ。マッチョ、あんたは軍人だろ。銀の扱いはよくわかっているはずだ。あんたは獲物の手入れをしろ。がりがり、あんたはマッチョの世話をするんだ。いいな?」
リザは一歩で間合いを詰めると、ロブの首を掴んで吊り上げた。
「マッチョ。もしも逃げようとしたら、ガリガリを八つ裂きにしてやるからね。ガリガリ、あんたは逃げないよな? 逃げたらあんたの両足を引きちぎってやるからな」
リザはロブを放すと、近くの作業台にあった銀の試料を手に取った。
リザはそれを自らの頬に押し当てた。
「あたしに銀は効かない。わかるよな? あんたらにあたしを倒すことは不可能だ」リザは銀の試料をグレコに向かって投げた。「正真正銘の銀だ。そうじゃなきゃ、死刑執行人は務まらないからね」
グレコは感じていた。リザは完璧な吸血鬼ではない。髪は金髪で、瞳も薄い緑色をしている。肌の白さも、吸血鬼特有の質感を持つには至っていない。何より表情が豊かだ。
「いいか、多い時は毎日のように仕事がある。そろそろ掃除の時期だ」
グレコは臆さずに聞き返した。
「掃除?」
リザはグレコの顔を掴んで力を込めた。
「それが主人に物を聞く態度かい?」
「掃除とはなんですか?」
「定期的に間引くのさ。落第したラミアどもを。でなきゃ、増える一方だからな。あんたらも付き添うんだよ。ミスをしてみろ。ただじゃおかないからな」
「私たちは何をするのですか?」
「罪人の髪を切るんだよ。首がよく見えるようにね」
ロブが声にならない悲鳴をあげた。グレコも同じことを考えていた。
「相手が暴れたらどうするんですか?」
リザは鼻で笑った。
「あいつらが暴れたりするもんか。みんなんくだらない理由で死を賜る。でもな、反論するなんてみっともない真似はできない。潔さを示すのが最後の勤めさ。そんで、奴らの本心がよく見える。酷い形相であたしを見るんだ。ははっ、ざまあみろってんだ。思い上がっているから、足元を掬われるんだ」
「どこで行われるのですか?」
「ふん、偉いやつは立派な舞台でやるけど、雑魚は国の外で処分する。雑魚の処刑なんか誰も見にこないが、打ち損じれば面倒なことになる。あたしの前任者はそれで死んだ。罪人は国に引き返して二人殺った。人間が何人も怪我したらしい。気を抜くんじゃないよ」
リザは大欠伸をすると、「仕事以外のことはてめえでなんとかしな」と言い残して、頭巾を手に部屋を出ていった。
グレコは咽び泣くロブの背中をさすった。
「大丈夫か? 私はグレコ。君もカウクリッツ出身だね?」
「ロ、ロブ……。うう、なんで僕だけ……」
グレコは部屋を見渡した。右手には作業スペースがあり、左手には生活スペースがあった。奥に台所がある。
耳をすましながら、グレコはそっとドアに取りついた。驚くことに鍵はかかっていないようだった。しかし、ドアは重くびくともしない。
グレコは引き返して部屋のものを確認していった。
近くの箱には食料と黒いローブと頭巾。
グレコは魂の抜け殻のようになってしまったロブに話しかけた。
「ロブ。食事にしよう。ここの野菜は柔らかそうだぞ」
箱の中にあった野菜は、どれもカウクリッツにはないものだ。牛を知らないグレコにはチーズや牛乳が不思議だった。毒になるものはないだろうと思いつつ、何でもかんでもカウクリッツ流のアク抜きをする。
グレコが野菜を綿棒で叩いで繊維をほぐす後ろで、ロブは膝を抱えていた。
一人だけ国のはずれにある施設へと連れていかれる。地下への入り口は物々しく、普通の施設でないことは容易に見てとれた。吸血鬼はどんどん階段を降りていく。一番奥にある扉を開くと、グレコを投げるようにして押し込んだ。そこにはもう一人の人間、ガタガタと震えるロブがいた。
吸血鬼はドアを閉めると、頭巾を取って髪を振り乱した。
「ようこそ地獄の入り口へ。今日からあんたたちはあたしの下僕だ。あたしは死刑執行人のリザ。粗相をしたラミアの首を打ち落とすのがあたしの仕事だ。マッチョ、あんたは軍人だろ。銀の扱いはよくわかっているはずだ。あんたは獲物の手入れをしろ。がりがり、あんたはマッチョの世話をするんだ。いいな?」
リザは一歩で間合いを詰めると、ロブの首を掴んで吊り上げた。
「マッチョ。もしも逃げようとしたら、ガリガリを八つ裂きにしてやるからね。ガリガリ、あんたは逃げないよな? 逃げたらあんたの両足を引きちぎってやるからな」
リザはロブを放すと、近くの作業台にあった銀の試料を手に取った。
リザはそれを自らの頬に押し当てた。
「あたしに銀は効かない。わかるよな? あんたらにあたしを倒すことは不可能だ」リザは銀の試料をグレコに向かって投げた。「正真正銘の銀だ。そうじゃなきゃ、死刑執行人は務まらないからね」
グレコは感じていた。リザは完璧な吸血鬼ではない。髪は金髪で、瞳も薄い緑色をしている。肌の白さも、吸血鬼特有の質感を持つには至っていない。何より表情が豊かだ。
「いいか、多い時は毎日のように仕事がある。そろそろ掃除の時期だ」
グレコは臆さずに聞き返した。
「掃除?」
リザはグレコの顔を掴んで力を込めた。
「それが主人に物を聞く態度かい?」
「掃除とはなんですか?」
「定期的に間引くのさ。落第したラミアどもを。でなきゃ、増える一方だからな。あんたらも付き添うんだよ。ミスをしてみろ。ただじゃおかないからな」
「私たちは何をするのですか?」
「罪人の髪を切るんだよ。首がよく見えるようにね」
ロブが声にならない悲鳴をあげた。グレコも同じことを考えていた。
「相手が暴れたらどうするんですか?」
リザは鼻で笑った。
「あいつらが暴れたりするもんか。みんなんくだらない理由で死を賜る。でもな、反論するなんてみっともない真似はできない。潔さを示すのが最後の勤めさ。そんで、奴らの本心がよく見える。酷い形相であたしを見るんだ。ははっ、ざまあみろってんだ。思い上がっているから、足元を掬われるんだ」
「どこで行われるのですか?」
「ふん、偉いやつは立派な舞台でやるけど、雑魚は国の外で処分する。雑魚の処刑なんか誰も見にこないが、打ち損じれば面倒なことになる。あたしの前任者はそれで死んだ。罪人は国に引き返して二人殺った。人間が何人も怪我したらしい。気を抜くんじゃないよ」
リザは大欠伸をすると、「仕事以外のことはてめえでなんとかしな」と言い残して、頭巾を手に部屋を出ていった。
グレコは咽び泣くロブの背中をさすった。
「大丈夫か? 私はグレコ。君もカウクリッツ出身だね?」
「ロ、ロブ……。うう、なんで僕だけ……」
グレコは部屋を見渡した。右手には作業スペースがあり、左手には生活スペースがあった。奥に台所がある。
耳をすましながら、グレコはそっとドアに取りついた。驚くことに鍵はかかっていないようだった。しかし、ドアは重くびくともしない。
グレコは引き返して部屋のものを確認していった。
近くの箱には食料と黒いローブと頭巾。
グレコは魂の抜け殻のようになってしまったロブに話しかけた。
「ロブ。食事にしよう。ここの野菜は柔らかそうだぞ」
箱の中にあった野菜は、どれもカウクリッツにはないものだ。牛を知らないグレコにはチーズや牛乳が不思議だった。毒になるものはないだろうと思いつつ、何でもかんでもカウクリッツ流のアク抜きをする。
グレコが野菜を綿棒で叩いで繊維をほぐす後ろで、ロブは膝を抱えていた。