第11話 嫁
文字数 3,813文字
「俺はお前が嫌いだ」
はっきりとバートは言った。
「そうか」
ホリーは平然としている。バートに伴侶はいない。しかし、そんな嘘がつける人物には心当たりがあった。
嫁と偽って、ホリーが身元を引き受けにきたのだ。
国では若い娘が大事にされる。人口を増やすという観点から、あっさりとバートは解放された。一時的な措置かも知れない。
洗練された服装になっているホリーに、バートは嫌悪感を募らせた。
「俺はもう、お前とも誰とも関わりを持つ気はないんだ。じゃあな。俺は牢獄に戻る」
「戻ってどうする?」
「うるさい」
「死ぬ気か? いらないというのなら、その命を私にくれないか」
「断る。先約がいるからな」
踵を返すバートに、ホリーはため息をついた。
「子どもだな」
その一言に、バートは激怒した。反転してホリーに詰め寄った。
「てめえ、あの時なんかしたよな」
「こういうことか?」
どんっ。
しまったと思う間もなく、バートは失神した。
メアリーは心底悔いていた。危険な人間を引き入れたことを。
忸怩たる思いで、メアリーはエルベルに進言する。
「差し出がましいようですが、彼女はどうも……」
エルベルは優しく笑いかけた。
「彼女は重要な手掛かりなんだ。それに、少しシモンに似ている」
「シモン様はあのように無分別で下品なお方ではございませんでした」
「そ、そうだね。眼差しだろうか……」
そこにホリーがふらふらの少年を連れて戻ってきた。
唖然とするメアリー。さらには少年の顔を見たエルベルがしくしく泣き始めた。
メアリーは激怒した。
「出ていきなさい! いったいどういうつもりですか!」
エルベルが片手を上げた。
「いいんだ。メアリー。これは神が与えたもうた贖罪なのだよ」
瞬きするホリー。
「いや、違う」
メアリーの目が吊り上がった。
「ホリー!」
「いえ、そうです。バートにはエルベル男爵様のお許しが必要なのです。どうかお慈悲を。しからばこの者は善き兄弟になりましょう」
「白々しい。エルベル様。なりません。このような者たちをーー」
「メアリー。これは私の役目だ。シモンは言った。恨んではならないと。私はこの者に赦しを与えなければならないのだ」
メアリーはその言葉の意味するところを察して言葉を失った。悲壮な決意に、胸がいっぱいになる。
ホリーは叱られないように、しばし待ってから発言した。
「この者は文字が読めます」
メアリーは怪訝そうに聞き返した。
「それがどうしたというのです?」
エルベルが答えた。
「シモンの遺志を引き継ぐのに彼の力がいるのだよ、メアリー。心配はいらない。必ずや、迷える子羊たちを導けるように、僕は強くなるから」
メアリーは感激で目に涙を浮かべた。
「感服いたしました。これ以上の口出しはいたしません。どうか、くれぐれもご自愛くださいませ」
「ああ、わかったよ」
慎もうとしたものの、メアリーは気になってしまった。
「あの、もう一つだけよろしいでしょうか?」
「どうしたのだい?」
「詮索するつもりはございません。ですが、こればかりは外聞が悪うございます。その者の衣服を取り替える許可をいただけませんか?」
バートは風呂に入れられ、きっちりと撫でつけられた髪と、小綺麗な格好になった。
意識がはっきりしてきたバートははっとして目を見開いた。エルベルに気付き固まる。ホリーがバートに日記を差し出した。
「読んで欲しいものがある」
バートの怒りがよみがえった。すわされていた椅子から立ち上がり、距離を取る。
三度目はごめんだ。
「よくもぬけぬけと。俺は戻る。ここはどこだ。すっかり吸血鬼の犬に成り下がったんだな」
「落ち着け。お前の力が必要だ。死にたいのなら、これを読んだ後にしろ」
「お前の指図は受けない。会わないうちに、ずいぶんと図々しさに磨きがかかってんじゃねえか」
エルベルが恐る恐る声をかけた。
「君、恐れることはない。落ち着いーー」
「ああ?」
「ひっ……」
エルベルは困惑した。エルベルには二人がとんでもない野蛮人に見えた。思い切って聞いてみる。
「どうして君は、そんなにも僕らを……」
バートはぞんざいに言った。
「そんなことに理由はねえんだよ」
ホリーが口を挟んだ。
「私は知っている」
「なんでだよ」
その間にエルベルが泣き出した。
「理由はないのだね……」
バートはエルベルトホリーを見比べた。
「……お前は人間みたいだな。あいつの方がよっぽど吸血鬼らしいぜ」
ホリーがうなずく。
「本当に人間に近いんだと思う」
「なんだと?」
「バート、私の祖母の一人は吸血鬼だ」
バートは驚きのあまり声が出なかった。
ホリーはうっすらと笑った。
「私の実の母は若々しく、病気をしなかったらしい。私は普通に歳を取るし、傷の治りが早いわけでもない。それでも、人間以上の力を出せる。私は吸血鬼は人間から生まれたと考えている。その後、吸血鬼同士で婚姻を重ねることで人間から遠ざかったんだ。吸血鬼は長生きで、見た目が変わらない。同じように見えても、何世代目かで、吸血鬼らしさは変わってくると思う」
バートは強張った笑みを浮かべた。
「まさか、そんな」
「バートが私に敵愾心を抱くのは、私に吸血鬼の血が入っているからだろう。そして、私がバートを気にするのも、同じ理由だ。お前にも吸血鬼の血が入っているんだ」
「は?」
「二度気絶させて確信した。回復が早い。ヘンダウ家の人間は他の家の者より病気にかかるものが少ないと感じていた。お前は努力家だから、身体能力の高さも、鍛錬の結果だと思っていたが、それを差し引いても反応速度が早すぎる。おそらく、どこかの時点で、吸血鬼の血を引く者お前の一族に加わったんだ。極めて薄くなっているが、間違いないだろう」
バートは衝撃を受けた。あんなにも憎んでいた吸血鬼の血が、自分にも流れている。
ホリーは言った。
「すべては大災害が原因だ。強い吸血鬼は生き残り、弱い人間は激減した。吸血鬼は困ったはずだ。人間が唯一の栄養源なのだから。そして吸血鬼同士で奪い合った。カウクリッツにもそうした経緯を知る者がやってきた。その者は吸血鬼の排斥を推進したのかもしれない。大災害後は長く貧窮の時代が続いたのだ。いつ人間が絶滅するかもわからないし、吸血鬼は長生きだ。増える一方になりかねない。そうすれば争いは激しくなるだろう。あるいは、吸血鬼と人間との間に産まれた子どもの危険性を知っていたんだ」
エルベルにはさっぱり理解できなかった。ラミアと人間の差は歴然としている。
「誰もそんなこと言っていないよ」
「吸血鬼の記憶には難がある。国が豊かな今、人間を奪い合った過去を想像できなくとも無理はない。吸血鬼同士が本気で争い合えば大惨事になる。感情を抑え、紳士を称するのも、腕力による争いを抑止するためだろう」
バートは力無く腰掛けると、頭を抱えた。整髪料のぬちゃっとした感触に戸惑う。
「くそっ……」
ホリーはバートに日記を押し付けた。
「頼む。読んでくれ。今までのはすべて推測だ。この日記には手がかりがある。私は知りたい。父が私に伝えきれなかったことを。父はいつも、私の中に母を探していた」
バートは顔を上げた。
「父親の日記か?」
「違う。ここの領主だったイノサンという吸血鬼の日記だ」
バートにはいつもと同じ表情に見えた。けれど、ホリーが日記を握る手に、並々ならぬ想いの強さをバートは感じ取った。バートは日記を受け取ると、内容をあらめた。
ホリーはせがんだ。
「声に出して読んでくれ」
「全部か? 今のところ大したことは書いていない。鼻につく文章だがな」
「全部だ」
エルベルは早くも罪悪感に打ちのめされて、ソファーでぐったりしている。
バートは感想を漏らした。
「これを書いた奴も、かなり感情がある。他の連中は表に出さないだけなのか?」
エルベルがか細い声で答えた。
「僕とイノサン侯爵だけかもしれない……。シモンは立派だった。僕は泣き虫で、シモンはよく、うぅっ」
メソメソするエルベルに、バートの表情が曇る。
ホリーがバートの肩にぽんと手を置いた。
バートの頭に血が上る。
「やめろ! くそっ!」
怒鳴り声に怖気付いたエルベルが力無く言った。
「君、その言葉遣いはなんとかならないのかい?」
ホリーはさらりといった。
「外ではこれが最も敬意のあるーー」
すかさずバートが怒鳴った。
「嘘つけ!」
「いいから、早く読んでくれないか」
「あのなあ!」
物怖じしないホリーを見て、エルベルはぽつりと呟いた。
「外の女性は恐ろしい」
渋々日記に視線を戻したバートが、読み上げていく。爵位の悩みから、領地経営への意気込みが、細々と書かれていた。
途中、バートが読み飛ばそうとしたのを、ホリーは見逃さなかった。
「ちゃんと読んでくれ」
「大した内容じゃない。うわついた女の話だよ」
「最重要じゃないか。吸血鬼の女だな?」
バートは指摘されて初めて気がついた。
「いやわからない」
「読んでくれ」
バートは棒読みで一気に読み下す。
「私の永遠。私の魂の至福。エバ、私の永遠の旋律。僕の不完全をーー」
長々とエバという女性への賛美が続く。どうやら相手は吸血鬼と見て間違いなさそうだ。
赤裸々な日々が綴られ、だんだんと甘美で官能的な内容になってくる。
バートは時折モゴモゴと言い淀み、エルベルは今にも気を失いそうだ。
ホリーだけが、その先に続く暗闇を見つめていた。
はっきりとバートは言った。
「そうか」
ホリーは平然としている。バートに伴侶はいない。しかし、そんな嘘がつける人物には心当たりがあった。
嫁と偽って、ホリーが身元を引き受けにきたのだ。
国では若い娘が大事にされる。人口を増やすという観点から、あっさりとバートは解放された。一時的な措置かも知れない。
洗練された服装になっているホリーに、バートは嫌悪感を募らせた。
「俺はもう、お前とも誰とも関わりを持つ気はないんだ。じゃあな。俺は牢獄に戻る」
「戻ってどうする?」
「うるさい」
「死ぬ気か? いらないというのなら、その命を私にくれないか」
「断る。先約がいるからな」
踵を返すバートに、ホリーはため息をついた。
「子どもだな」
その一言に、バートは激怒した。反転してホリーに詰め寄った。
「てめえ、あの時なんかしたよな」
「こういうことか?」
どんっ。
しまったと思う間もなく、バートは失神した。
メアリーは心底悔いていた。危険な人間を引き入れたことを。
忸怩たる思いで、メアリーはエルベルに進言する。
「差し出がましいようですが、彼女はどうも……」
エルベルは優しく笑いかけた。
「彼女は重要な手掛かりなんだ。それに、少しシモンに似ている」
「シモン様はあのように無分別で下品なお方ではございませんでした」
「そ、そうだね。眼差しだろうか……」
そこにホリーがふらふらの少年を連れて戻ってきた。
唖然とするメアリー。さらには少年の顔を見たエルベルがしくしく泣き始めた。
メアリーは激怒した。
「出ていきなさい! いったいどういうつもりですか!」
エルベルが片手を上げた。
「いいんだ。メアリー。これは神が与えたもうた贖罪なのだよ」
瞬きするホリー。
「いや、違う」
メアリーの目が吊り上がった。
「ホリー!」
「いえ、そうです。バートにはエルベル男爵様のお許しが必要なのです。どうかお慈悲を。しからばこの者は善き兄弟になりましょう」
「白々しい。エルベル様。なりません。このような者たちをーー」
「メアリー。これは私の役目だ。シモンは言った。恨んではならないと。私はこの者に赦しを与えなければならないのだ」
メアリーはその言葉の意味するところを察して言葉を失った。悲壮な決意に、胸がいっぱいになる。
ホリーは叱られないように、しばし待ってから発言した。
「この者は文字が読めます」
メアリーは怪訝そうに聞き返した。
「それがどうしたというのです?」
エルベルが答えた。
「シモンの遺志を引き継ぐのに彼の力がいるのだよ、メアリー。心配はいらない。必ずや、迷える子羊たちを導けるように、僕は強くなるから」
メアリーは感激で目に涙を浮かべた。
「感服いたしました。これ以上の口出しはいたしません。どうか、くれぐれもご自愛くださいませ」
「ああ、わかったよ」
慎もうとしたものの、メアリーは気になってしまった。
「あの、もう一つだけよろしいでしょうか?」
「どうしたのだい?」
「詮索するつもりはございません。ですが、こればかりは外聞が悪うございます。その者の衣服を取り替える許可をいただけませんか?」
バートは風呂に入れられ、きっちりと撫でつけられた髪と、小綺麗な格好になった。
意識がはっきりしてきたバートははっとして目を見開いた。エルベルに気付き固まる。ホリーがバートに日記を差し出した。
「読んで欲しいものがある」
バートの怒りがよみがえった。すわされていた椅子から立ち上がり、距離を取る。
三度目はごめんだ。
「よくもぬけぬけと。俺は戻る。ここはどこだ。すっかり吸血鬼の犬に成り下がったんだな」
「落ち着け。お前の力が必要だ。死にたいのなら、これを読んだ後にしろ」
「お前の指図は受けない。会わないうちに、ずいぶんと図々しさに磨きがかかってんじゃねえか」
エルベルが恐る恐る声をかけた。
「君、恐れることはない。落ち着いーー」
「ああ?」
「ひっ……」
エルベルは困惑した。エルベルには二人がとんでもない野蛮人に見えた。思い切って聞いてみる。
「どうして君は、そんなにも僕らを……」
バートはぞんざいに言った。
「そんなことに理由はねえんだよ」
ホリーが口を挟んだ。
「私は知っている」
「なんでだよ」
その間にエルベルが泣き出した。
「理由はないのだね……」
バートはエルベルトホリーを見比べた。
「……お前は人間みたいだな。あいつの方がよっぽど吸血鬼らしいぜ」
ホリーがうなずく。
「本当に人間に近いんだと思う」
「なんだと?」
「バート、私の祖母の一人は吸血鬼だ」
バートは驚きのあまり声が出なかった。
ホリーはうっすらと笑った。
「私の実の母は若々しく、病気をしなかったらしい。私は普通に歳を取るし、傷の治りが早いわけでもない。それでも、人間以上の力を出せる。私は吸血鬼は人間から生まれたと考えている。その後、吸血鬼同士で婚姻を重ねることで人間から遠ざかったんだ。吸血鬼は長生きで、見た目が変わらない。同じように見えても、何世代目かで、吸血鬼らしさは変わってくると思う」
バートは強張った笑みを浮かべた。
「まさか、そんな」
「バートが私に敵愾心を抱くのは、私に吸血鬼の血が入っているからだろう。そして、私がバートを気にするのも、同じ理由だ。お前にも吸血鬼の血が入っているんだ」
「は?」
「二度気絶させて確信した。回復が早い。ヘンダウ家の人間は他の家の者より病気にかかるものが少ないと感じていた。お前は努力家だから、身体能力の高さも、鍛錬の結果だと思っていたが、それを差し引いても反応速度が早すぎる。おそらく、どこかの時点で、吸血鬼の血を引く者お前の一族に加わったんだ。極めて薄くなっているが、間違いないだろう」
バートは衝撃を受けた。あんなにも憎んでいた吸血鬼の血が、自分にも流れている。
ホリーは言った。
「すべては大災害が原因だ。強い吸血鬼は生き残り、弱い人間は激減した。吸血鬼は困ったはずだ。人間が唯一の栄養源なのだから。そして吸血鬼同士で奪い合った。カウクリッツにもそうした経緯を知る者がやってきた。その者は吸血鬼の排斥を推進したのかもしれない。大災害後は長く貧窮の時代が続いたのだ。いつ人間が絶滅するかもわからないし、吸血鬼は長生きだ。増える一方になりかねない。そうすれば争いは激しくなるだろう。あるいは、吸血鬼と人間との間に産まれた子どもの危険性を知っていたんだ」
エルベルにはさっぱり理解できなかった。ラミアと人間の差は歴然としている。
「誰もそんなこと言っていないよ」
「吸血鬼の記憶には難がある。国が豊かな今、人間を奪い合った過去を想像できなくとも無理はない。吸血鬼同士が本気で争い合えば大惨事になる。感情を抑え、紳士を称するのも、腕力による争いを抑止するためだろう」
バートは力無く腰掛けると、頭を抱えた。整髪料のぬちゃっとした感触に戸惑う。
「くそっ……」
ホリーはバートに日記を押し付けた。
「頼む。読んでくれ。今までのはすべて推測だ。この日記には手がかりがある。私は知りたい。父が私に伝えきれなかったことを。父はいつも、私の中に母を探していた」
バートは顔を上げた。
「父親の日記か?」
「違う。ここの領主だったイノサンという吸血鬼の日記だ」
バートにはいつもと同じ表情に見えた。けれど、ホリーが日記を握る手に、並々ならぬ想いの強さをバートは感じ取った。バートは日記を受け取ると、内容をあらめた。
ホリーはせがんだ。
「声に出して読んでくれ」
「全部か? 今のところ大したことは書いていない。鼻につく文章だがな」
「全部だ」
エルベルは早くも罪悪感に打ちのめされて、ソファーでぐったりしている。
バートは感想を漏らした。
「これを書いた奴も、かなり感情がある。他の連中は表に出さないだけなのか?」
エルベルがか細い声で答えた。
「僕とイノサン侯爵だけかもしれない……。シモンは立派だった。僕は泣き虫で、シモンはよく、うぅっ」
メソメソするエルベルに、バートの表情が曇る。
ホリーがバートの肩にぽんと手を置いた。
バートの頭に血が上る。
「やめろ! くそっ!」
怒鳴り声に怖気付いたエルベルが力無く言った。
「君、その言葉遣いはなんとかならないのかい?」
ホリーはさらりといった。
「外ではこれが最も敬意のあるーー」
すかさずバートが怒鳴った。
「嘘つけ!」
「いいから、早く読んでくれないか」
「あのなあ!」
物怖じしないホリーを見て、エルベルはぽつりと呟いた。
「外の女性は恐ろしい」
渋々日記に視線を戻したバートが、読み上げていく。爵位の悩みから、領地経営への意気込みが、細々と書かれていた。
途中、バートが読み飛ばそうとしたのを、ホリーは見逃さなかった。
「ちゃんと読んでくれ」
「大した内容じゃない。うわついた女の話だよ」
「最重要じゃないか。吸血鬼の女だな?」
バートは指摘されて初めて気がついた。
「いやわからない」
「読んでくれ」
バートは棒読みで一気に読み下す。
「私の永遠。私の魂の至福。エバ、私の永遠の旋律。僕の不完全をーー」
長々とエバという女性への賛美が続く。どうやら相手は吸血鬼と見て間違いなさそうだ。
赤裸々な日々が綴られ、だんだんと甘美で官能的な内容になってくる。
バートは時折モゴモゴと言い淀み、エルベルは今にも気を失いそうだ。
ホリーだけが、その先に続く暗闇を見つめていた。