アシカと泳ぐ(ガラパゴス)

文字数 1,363文字

ガラパゴスの海・昼

 ガラパゴス諸島はエクアドルの領内にあり、空港のあるバルトラ島を除いて、すべての島がが国立海洋保護区域になっている。
 エクアドル政府が諸島の自然保護にかけている徹底した努力は大変なものだ。自然に与える人間の影響がこれだけ厳しく制限、管理されている場所だからこそ、海も陸の生き物たちも、こんなに親しげな顔を向けてくれる。
 今回は政府公認のガイドとダイブマスターに付き添われ、ダイブボートに1週間泊まり込んで島から島を回るのだが、お目当ての一つはアシカ。
 島の岸壁沿いに潜っていく間、何度もアシカたちが水中バレエを披露に来た。
 水の中のダイバーを見つけると猛スピードで降下してきて、すばらしく優雅な曲線を描いて目の前を通り過ぎる。
 こちらの視線を捕まえたことを確認すると、自由自在に体をひねり、くるくる回転し、8の時を描いて飛び回り、見事な水中サーカスを披露してくれる。
 一区切りつくと、まるで「どう?」と反応を確かめるようにゆっくりこちらの顔をのぞき込みながら、大きな目をくりくりさせて通り過ぎる。
 大型の水中カメラを構えた写真家が照明を向けたりしようものなら、大喜びでそのまわりを飛び回り、カメラをのぞき込む。
 さんざんダイバーたちをかまって、それから人間には手の届かないような遙かな深みに向かって、すうっと降りていく。

 プラザ島の浅瀬では、船の上からアシカの姿が見えたので、スキューバの代わりにシュノーケルで水に入った。
 向こう側の岸に大きなオスが、何頭かのメスや子供たちといる。アシカのオスはハーレムを形成して縄張り意識が強く、テリトリーを侵すものは、他のオスはもちろん人間でも容赦しない。
 たまに不注意にテリトリーに踏み込んで噛まれる人があって、重さ300キロの巨大なオスに噛まれたりすれば、運が悪いと何十針も縫うようなはめになる。
 岩場のオスの様子をうかがいながら辺りを泳いでいると、期待通り、好奇心いっぱいのメスたちが人間を見つけてかまいにくる。
 水面を追いかけたり追いかけられたりして遊んでいると、突然、膝におかしな痛みを感じた。
 「??」と思いながら手を伸ばすと、ひげ……? 猫のひげを十倍くらい太く、固くしたようなひげが手に触れる。
 水中をふり返ったら、アシカが膝にかぶりついていた。いたずらをする時の子犬のような無邪気な顔で、膝にかじりついたまま、こちらの顔を見ている。
 「そういうことをしてはだめよ」という目でじっと見つめ返すと、口をはなす。で、目を離すと、今度はひじにかぷり。相変わらず大きな目をくりくりさせて顔を見る。
 見つめ返すと、また口を離す。
 これで一応、「ひじや膝にはかじりついてはだめ」というのは理解したようで、今度はフィン(足ひれ)をかじりにかかる。
 フィンぐらいなら歯形をつけられてもどうということはないので、好きにさせていると、お茶目アシカは海底に他のダイバーを見つけて急降下。
 全然気がついていないダイバーを上から急襲し、カメラのレンズをかぷり。
 このダイバーは後で「アシカの口の中の写真をとったしまった」と言っていた。
 アシカたちの好奇心の旺盛なこと、いたずら好きなことは目を見張るばかりで、知能の高さは犬と同じくらいだと思う。というか行動パターンはまったく犬だ。

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