サメと泳ぐ(カリブ海のバハマ沖) 1

文字数 906文字

 ナイトロクスのライセンス取得のために、フロリダの裏庭、バハマ沖のダイブクルーズ[注4]に出かけた。
 乗っているのは経験のあるダイバーばかりで、ダイブマスターは水の中へ同伴しない。
 それぞれのダイバーは、あらかじめポイントの地形や水深、潮流などについて説明を受け、各自で計画を立てて、ダイブコンピュータを頼りに自己責任で潜る。
 普通は強制される二人一組のバディ制度もあってなきがごとしで、ソロ(単独)ダイブもOK。
 グループで潜る時のようにダイブマスターの後を追う必要もなく、一人でのんびりと水中を探索できる。
 ダイビングでは、重りやダイブジャケットのエアを調整して完全な中性浮力をとれば、海の中ではほとんど無重力。肺の中の空気の量を変えるだけで、水の中をゆっくりと浮いたり沈んだりできるをのんびりと楽しむ。

 ヒトのずっとずっと遠い祖先は、自分の体の中に海をとり込んで陸に上がった。
 そして血液という体内の海のせいで、ヒトは今も月の影響を受け、体と感情の満ち干を経験する。

 そんなことを思いながら海底近くに身を沈め、わずかな波に揺られながら海に体を任せる。体の中の波と外の波が同調して、自分が海と一つになる感覚。
 近くに波に揺られながら休息している魚の群を見つけ、そっと紛れこませてもらう。
 黄色と青の縞もようのフレンチグラントたちは、ちらりと私を見、「無害」と決めたようで、そのままいっしょに浮かばせてくれる。
 魚たちに囲まれ、海と一つになって揺られる幸せ……。


NOTES
[注4]ダイブクルーズではダイビング専用の船に泊まり込んで、ポイントからポイントへ海を移動する。英語では単にLive Aboard(船中泊)というが、日本ではなぜか「クルーズ」と呼ばれる。
 ほとんどの場合、クルーズというほどしゃれたものではなく、食事も住環境もわりとスパルタ式で、ひたすら食って、寝て、潜る。
 しかし装備をつけて船から一歩踏み出せば海なので、らくちんなのと、潜水病にならない範囲で潜り放題なのは利点。

 ちなみにダイビングをしない人は、あのタンクの中身は酸素だと思っているけど、圧縮空気です(酸素の割合は普通の空気と同じ)。
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