マナティーと泳ぐ(フロリダ) 1

文字数 895文字

 私が住んでいる北フロリダにも、秋らしいものが来た。
 といっても木の葉が紅葉するわけでもなく、住んでいるアパートの裏にはるばる広がる湿地草原は、相変わらず青々と茂っている。
 遊びに来たフロリダ住民の友人は「ここにはワニがいるはず」と断言して帰ったが、その後の私の調査によれば、湿地の水は海に流れ込む水路につながっていて、つまり塩水の沼地で、ワニには好まれないらしい。
 大きな白いサギ(日本のツルのサイズ)がよく飛んできて、魚をとっている。
 湿地草原にはランなどの面白い植物が見られるので、そのうち長靴を履いて、植生を調べに踏み込んでみようと思っている。
 「ワニが見たけりゃ、天気のいい日にここに来てみな。でっかいやつがひなたぼっこしてるよ」と、空港からの帰り道にタクシーの運転手が寄り道をしてくれたのは、うちからすぐ近くの淡水の池。
 アメリカでは放し飼いにしている犬が帰ってこないと「事故にでもあったのでは」と心配するが、フロリダの人々は「ワニにでも食われたか」と心配する。放し飼いにしている愛犬がしばらく帰ってこなかった時、友人がそう言って騒いでいた。
 フロリダのワニはアリゲーターで、クロコダイルよりも性質が荒い。人間も時々襲われる。

 さて、秋だ。
 北フロリダの秋は何によって象徴されるかというと、私の意見ではマナティ(ジュゴンの仲間)の川のぼりだ。
 水が冷たくなってくると、暖かい季節には海岸沿いに浮いている彼らが、ちょっとでも温かな水を求めて川を登ってくる。
 というわけで、この秋から冬の私のプロジェクトは、マナティといっしょに泳ぐこと。
 野生動物としては人のよい(というより明らかによすぎる)彼らは、人間が泳いでいるのを見ると興味しんしん近寄ってきて、頬ずりしてみたり、人間慣れしているやつは、犬のようにお腹かきをねだったりするらしい。
 英語で「海の牛」と呼ばれる姿を想像してもらえばわかるが、あの体格では、自分で背中やお腹をかけないのは明らかだ。
 私の住む町の港でも時々姿が見られるが、彼らが集団で群れる川が車で2時間ほどのところにあるので、休みの日に出かける予定を立てている。
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