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文字数 983文字

透き通るような青空。
空を見上げて背筋を伸ばす。
深く息を吸い込むと少しだけ、蝕まれた体が、癒えたような気がした。

こんな青空の下に、私は閉じ込められている。

高い建物ばかりを探していた。
どれだけ確実でどれだけ一瞬であるか。
眺めは出来るだけ良いところ。
風を感じられて、、少しでいい。
心地良い瞬間が欲しい。

そこまで考えてしまっている私はきっと、そこに辿り着くことはまだないだろう。

いつか、導かれる日が来る。
私はもうずっと、そのことを考え、思い出し、閉じこもって生きている。



翔平さんはいない。平日の昼間は大抵いない。でも歩夢さんはいるはずだ。ランチがもうすぐ終わる頃。一人になった私はそこに向かっている。
蓮君が仕事に出かけると、とてもお腹が空いていることに気づいた。何か食べようと思いながらソファに寝転び、目を閉じてしばらくしていると、私は眠っていた。静かで暖かな部屋の真ん中で。
霙が雪に変わった。風は弱くしっかりと着込めば、心地良くさえ感じる寒さだ。この辺りではあまり降らない雪は、どこか遠慮がちに降ってるようにさえ見える。帰りは少し早めにしなければ、交通機関が乱れるだろう。 

見慣れた道が白くて、違ったものに見える。
ネオンの看板を目で確かめると、反対側から背の高い影。頭には黒とグレーのバイカラーニット帽。
ケイさんだ。
私に気づいたケイさんは目を見開き、決まりが悪そうな表情の後、私と目を合わせ、微笑んだ。
私は鼓動が早くなるのを感じて、それからは、ただ嬉しかった。変わりない気配は私を安心させ、ケイさんと一緒にいる時の私になれるのを感じる。
ネオンの看板を通り過ぎたケイさんは、私の前まで来て立ち止まり、ポケットから煙草を取り出した。
「変わりない?こんな時間に珍しいな」
私はダウンのポケットに両手を入れたまま、煙草を吸いながら一人喋り続けるケイさんを見つめていた。遠ざかっていた存在が、目の前にいる。私は嬉しくて、冷たい空気で張り詰めていた体がほぐれるのを感じた。  

この人は私を知り過ぎている。

涙を流した毎日を。
息を殺した日々を。
手を広げて空を見上げていたあの頃も。

もちろん、全てを伝えられるわけはなかった。
ただ、側に居てくれた。


言葉だけで繋ぐのは難しくなった。

歳を重ねて私は知ってしまった。



「百合乃」
何度も呼び止められた。
引き戻してくれた。

あの日々の夜空が、今も鮮明に蘇る。




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