その8『所有せざる人々』と『内海の漁師』
文字数 2,201文字
『所有せざる人々』アーシュラ・K・ル・グィン(お薦め度☆☆☆☆)
『内海の漁師』アーシュラ・K・ル・グィン(お薦め度☆☆☆☆)
そうそう。
『ゲド戦記』は『アースシー』が本当のシリーズタイトルだけど、ファンタジーの名作だね。他にも東欧に位置する架空の国オルシニアを舞台にした『オルシニア国物語』もファンタジーに近い作品として広く読まれているよ
『ゲド戦記』は『アースシー』が本当のシリーズタイトルだけど、ファンタジーの名作だね。他にも東欧に位置する架空の国オルシニアを舞台にした『オルシニア国物語』もファンタジーに近い作品として広く読まれているよ
ル・グィンのSF作品の多くは、地球を遠く離れたハイニッシュ・ユニバースを舞台にした作品が多いけど、彼女の作品はハードウェアやテクノロジーよりも「人」が中心の社会学的SFとも文化人類学的SFとも言える。
実際、英語圏ではSFにあまり興味の無い人でも、ル・グィンだけは好きって言う人もいるくらいなんだ
そうだね。映画で言うとアカデミー賞とゴールデングローブ賞みたいなものかな?
ところでこの作品は、二重惑星の一方のアナレスに生まれた物理学者シェヴェックが、もう一方のウラスに渡って一般時間理論を完成させる過程を描いた物語なんだ。その時間理論が、ル・グィンのハイニッシュ・ユニバースには欠かせないアンシブルと言う超光速通信技術を可能にすることになる
ところでこの作品は、二重惑星の一方のアナレスに生まれた物理学者シェヴェックが、もう一方のウラスに渡って一般時間理論を完成させる過程を描いた物語なんだ。その時間理論が、ル・グィンのハイニッシュ・ユニバースには欠かせないアンシブルと言う超光速通信技術を可能にすることになる
分かり易く言うと、シェヴェックが生まれ育ったアナレスは現実の共産主義社会のような国家や統治者の権力がない理想の社会。原始共産主義的なユートピアなんだ。
一方で研究のために訪れるウラスは科学技術が進んだ資本主義社会と言ったら分かり易いかな?
そうなんだよ!
ちょっと面白いのは、ユートピアである筈の無政府のアナレスでも、自然発生的に生まれた市民の監視の目や、人と違う行動や価値観に寛容でない「空気」があること。
これは、昨今コロナ渦で言われるようになった「自粛警察」や、日本の村社会に見られる「村八分」にも似た、人が集まって社会が形成されるときに生まれてくる「協調を乱す者を排除しようとする働き」と言えるかな? 自由な考え方を持つシェベックは、そんなアナレスに違和感を感じているんだ
ちょっと面白いのは、ユートピアである筈の無政府のアナレスでも、自然発生的に生まれた市民の監視の目や、人と違う行動や価値観に寛容でない「空気」があること。
これは、昨今コロナ渦で言われるようになった「自粛警察」や、日本の村社会に見られる「村八分」にも似た、人が集まって社会が形成されるときに生まれてくる「協調を乱す者を排除しようとする働き」と言えるかな? 自由な考え方を持つシェベックは、そんなアナレスに違和感を感じているんだ
SF小説らしいテクノロジーのセンスオブワンダーはあまり強く感じないけれど、ここには社会思想や文明に対する大きなテーマが込められている。若い頃にこの小説に出会ったときは、全ての政治家や権力者に読んで欲しいと思ったものだ。
そして、この作品に限らず彼女の小説はとても哲学的であり文学的だと思う
そして、この作品に限らず彼女の小説はとても哲学的であり文学的だと思う