その5『華氏451度』とブラッドベリ
文字数 2,828文字
『華氏451度』レイ・ブラッドベリ(お薦め度☆☆☆☆)
これは長編小説だよ。本や読書が好きな人は是非読んで欲しいな
確かに彼は短編がよく知られてるね。
私が初めて読んだブラッドベリは『10月はたそがれの国』だったし、2冊目は『何かが道をやってくる』だった
私も『猫のパジャマ』と『黒いカーニバル』を読みました!
私は2冊しか知りませんが、SF作家っていうイメージはあまりなかったと思います
そうだね。私の高校時代の同級生に、「SFは嫌いだけどブラッドベリが大好き」って女の子がいた。彼女は「ブラッドベリはSFじゃなくファンタジーだ」って言ってたよ
ファンタジー=魔法ではないよ。幻想小説と言った方が判りやすいかな?
インターネット上で「ブラッドベリはエドガー・アラン・ポーの衣鉢(えはつ)を継ぐ幻想文学の第一人者」って表現をよく見かけるね
辞書の読みでは「いはつ」かな?
元々は仏教用語なんだ。
衣鉢は師から弟子に伝える奥義や教えを衣(ころも)と鉢に喩えた言葉。
鉢は食物を布施して貰うための器のことだよ
ポーが亡くなって70年以上経たないとブラッドベリは生まれないから、二人はこの世で会うこともなかったけど、そう言われてるみたいだね。
実は、私はブラッドベリがポーに似ているとはあまり思わないけれど
私も、そんなに読んだことはないですけど、ポーとはちょっと違う雰囲気を感じます
異世界で出会って弟子入りするって話があったら面白くないですか?
タイムマシンでもいいけど
僕に書けるかわからないけど、いつか書けるようになったら書いてみます
他の誰にも書けない独自の幻想小説を生み出したところが、エドガー・アラン・ポーと共通しているんだろうね。
ポーが20世紀の人だったらもっとSF的なものを書いたかもしれないしね
そう言えば、SFをサイエンス・ファンタジーという人たちもいるって話を聞いたことがあります
ブラッドベリの小説をファンタジーと呼ぶ人はいても、サイエンス・ファンタジーと呼ばれた話はあまり聞いたことがないな。
もしかしたら、エドガー・ライス・バローズ(バロウズとも言う)とか、冒険物のヒロイック・ファンタジーは、そんな風に呼ばれるのかもしれないね
名字は同じ(スペルも同じ)だけど、書く小説は正反対だね。
E・R・バローズはターザンを書いた人だし、SFと言っても『火星のプリンセス』みたいに判りやすい小説を書く人だ
さぁ、どうだろう?
私もさすがにその辺りまではSFとは呼ばないけれど
ブラッドベリでSFと言えば、『火星年代記』が有名だけど、物語の中で、火星を植民地とする地球人——と言ってもアメリカ人——は先住民族である火星人と戦った末に、意図せず持ち込んだウィルスで全滅させてしまうんだ。
同じように宇宙での争いを描いても、ハインラインは戦闘そのものを描くけど、アシモフは戦闘で人が亡くなっていく様子はあまり描かないらしいね。一方で、ブラッドベリは戦争を描くことで、戦争批判や文明批判をしたかったんじゃないかな? 特にカリフォルニアやハワイ、アラスカと自国の領土を広げていったアメリカに対してのね。
この『華氏451度』は、全体主義的なディストピアに対する批判だとも言われるけれど、常時流れてくるメディアに対して抵抗できない私たちの弱さや、書かれた当時のアメリカで横行していた、言論の自由を脅かす思想の検閲に対するアンチテーゼもあったと思うよ
ある主張に対して異議を唱える主張と言ったらわかりやすいかな?
この「華氏451度」って温度のことですよね? そこに何か意味があるんでしょうか?
華氏451度は摂氏でいうと約233度で、紙が燃え始める温度なんだよ。
この物語に描かれた社会では、市民が享受できるメディアは映像や音声だけ。本は、読むことによって人々に悪い考えをもたらすとされて、書物の所有や読書は一切禁止されているんだ。
その本を燃やす温度がタイトルになってる
無ければないで困るかな……
それで、もし本を持っていたらどうなるんですか?
本を見つけると、消防隊員のような姿をしたファイアーマンが出動して焼き払い、所有者は逮捕される。
市民はお互いを監視しながら、怪しいと思うと親しい人や近所の人でも密告する。
そのファイアーマンの一人が、近所に越してきた少女に出会ったことで、自分の仕事に疑問を持ち始め、禁じられている本を読み始めるんだ
だって、今まで先生が紹介してくれた小説は大抵映画になってますよね
そうだったね(笑)
1966年に映画化されている。
フランスの巨匠フランソワ・トリュフォーの監督作品だけど、イギリス映画なんだ
トリュフォーが映画で描いたディストピアは、管理統制された社会として無機質に整えられた風景なんだ。
ただ、この作品に限っては、映画を観るとイメージが固定されてしまうから、先に小説を読むことを薦めるよ
耳にはめ込む巻き貝型のラジオはブルートゥースイヤホンを想像させるし、壁面に組み込まれた大型ビジョンは液晶テレビ……というように、さすがSF作家と思える未来予想図も描かれている。
ブラッドベリの小説は読みながら想像すると画が浮かぶんだ
あ! それわかります。
そう言えば、大学の演劇部の子が、ブラッドベリの『みずうみ』を高校の文化祭で演劇にして上演したって話してました
『みずうみ』は僕が初めて読んだ『10月はたそがれの国』に収められた短編だね。
漫画家の萩尾望都も描いてるよ
もうずいぶん前の作品だけれど、有名な作家だから今も読めるはずだよ。
当時その漫画を読んでブラッドベリのファンになった子も多いんじゃないかな?
演劇部の子も漫画を元に台本を書いたっていってました……って。
すみません! 『華氏451度』に話戻します。
今も出版されてるんですよね?
1964年に発刊された当時の翻訳と、2014年の新訳がある。
新訳を読んでみたけど、すっきり判りやすくなってるんじゃないかな?
どんどん読む物が増えちゃうから、俊祐くんも少し整理しないとね
そうだね。
先ずは☆の多い順かな?
今は手に入らないのもあるからそこは飛ばしても
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