その1『アルジャーノンに花束を』(ベスト3の1作目)

文字数 2,185文字

『アルジャーノンに花束を』ダニエル・キイス(お薦め度☆☆☆☆☆)
私、二度読んでます。中学の時が一回目。
次は高二の時。図書文芸部の委員していたときに「キミ本大賞」に選ばれて、もう一度読みました

「キミ本大賞」って?
全国の中学、高校の先生たちが生徒に薦めたい本を選ぶ「君に贈る本大賞」のこと
海外のSFには珍しく、今までに国内で300万部売り上げているそうだよ
これテレビでやってなかった? 小学生のころかな?
山P主演のでしょ?
そうそう
ユースケ・サンタマリア主演のもあったね

それは知りませんでした。

でも、これSF小説なんですか?

『変身』や『ペスト』みたいに先生独自のSF解釈とか?

いやいや。これは純然たるSF小説だよ。
アメリカにはヒューゴー賞とネビュラ賞って、伝統的なSFとファンタジーの大賞があるんだ。

1960年に中編小説としてヒューゴー賞の短編小説部門を受賞して、その翌年には日本の『SFマガジン』に掲載されたらしい。ちょうど私が生まれた頃の話だけどね。

その後、長編小説に改訂されて1966年にネビュラ賞を受賞してる。

同じ小説が長編化されて別の賞を受賞した珍しいケースだね。

へぇ? SFなんだ?
SFだったなんて……全然知りませんでした

最初、私はテレビの洋画劇場で映画を観たんだよ。

公開当時、チャーリィ役のクリフ・ロバートソンがアカデミー主演男優賞をとったことで、話題になったみたいだね

映画化されてるんですね
原題は『Charlie』だけど、邦題は『まごころを君に』だった
あれ? それってヱヴァンゲリヲンにありませんでした?
そうだね。この映画のタイトルから取ったみたいだよ
へぇ? そうなんだ

アメリカ留学中に親しくなったカナダ人の友達にその映画の話をしたら、

「映画は全然ダメ。ぜったい小説を読むべき」って言われてね。

英語のペーパーバックで読んだけど、初めて英語で小説を読んで泣いたよ

わかります!
俺も読んでみたくなった

読んで、読んで!

私ももう一度読んでみよう

この小説は、単なる一人称じゃなくて、全編が主人公のチャーリィ・ゴードンという知的障害を持つ青年の日記形式の独白なんだ
翻訳では、小一の子供の作文みたいな日記がどんどん洗練されていきますよね。
原作ではどう表現されているんですか?

原作だとスペルや文法が間違ってたり、たどたどしい文章で表現されてる。
帰国して少し経った頃に出版されたばかりの翻訳を読んで、なるほど! って思ったけど、映画の公開から10年は経ってたんじゃないかな?
先生は先見の明があったんですね

カナダ人の友達に感謝だな。

英語圏では知らない人はいないくらいベストセラーだったけどね

映画化されて、テレビドラマにもなったり、戯曲化されたり、ミュージカルになったり。

半世紀以上経った今も読まれ続けてるってすごいことですね

SFというジャンルを超えた不滅の名作だね
ところで先生に質問です。
この小説のどこがSFなんですか?
作者のダニエル・キイスは、その後『五番目のサリー』とか、『24人のビリー・ミリガン』とか、実在する多重人格者の話を書いてるから、SF作家とは言えないかもしれないね
そうですよね?

脳外科手術によって知能を改善する科学の部分がSFとして評価されたって言われている。

でも、それだけじゃないと思うよ。

被験者である主人公が、科学によって得た能力で、それまで見上げていた周りの人間をどんどん俯瞰するようになって、未解決の問題を解き明かしていく。

そうしたセンス・オブ・ワンダーがSFとしての評価になったんじゃないかな?

センス・オブ・ワンダー?
そう! 私はそれがSF小説には不可欠なものだと思うんだ。

この言葉を有名にした『センス・オブ・ワンダー』という小説はSFじゃないけれど、作者のレイチェル・カーソンによると「神秘や不思議さに目を見はる感性」とある。

SF的に表現すると「未知なる技術や文明との遭遇によって得られる高揚感」とでも言ったら良いかな?

なるほど!
そういう高揚感があるから、後半が余計に切なくなるんですね
あんまりネタバレしないでよ!
あ、ごめんなさい!
この小説には、急激な進化に身体と心がついて行けない主人公の苦悩とか、権威や権力といった学会の矛盾とか、自然科学の限界とかも描かれているよね
なるほど!
これがSFだったら、私のSFに対するイメージはかなり変わります
作者のエピソードでこんな話があるんだ。
受賞の場で、どうしてこんな小説が書けたか聞かれた彼は、
「わたしがどうやってこの作品を創ったか、おわかりになったら、このわたしにぜひ教えてください。もう一度やってみたいから」って答えたらしい

へぇ? 
すごい!
私、今度読んでも泣いちゃいそう
私も、何度読んでも泣いてしまうよ
先生に一つ質問があります!
さっき、なんとか賞って、SFとファンタジーの賞って言ってましたよね?
SFとファンタジーって一緒なんですか?

ヒューゴー賞とネビュラ賞だね。
確かに、SFとファンタジーは同じ括りになっていることが多い。
ホラーがミステリーと同じ括りになっていたような感じかな?

へぇ? そうなんだ
どちらも、比較的新しいタイプの小説だからね
先生、素敵な小説を紹介してくださってありがとうございます。
次も意外な作品ですか?
次は、私に一番影響を与えた小説かな?
あ! わかった!
アシモフですね?
足もふもふ?
  爆笑
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登場人物紹介

長谷川裕美

女子大の家政学部で児童教育を学んでいる。

本が大好きで、3大ファンタジーや『ハリーポッター』は特に好き。
でもSFはちょっと苦手かも

馬場俊祐
都立高校普通科の2年
中2までは漫画以外自分から読んだことなかった。
ラノベはよく読むけど、最近純文学や文芸小説にも興味を持ち始めたところ

森谷幸弘
インペリアル・カレッジ・ロンドンでロボット工学とAIの研究を進めている工学博士。

実はSFをはじめ小説は大好き。

自身も若い頃にSF小説を書いたことがあるとか?


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