その2『バイセンテニアル・マン』(ベスト3の2作目)

文字数 2,591文字

『バイセンテニアル・マン』アイザック・アシモフ(お薦め度☆☆☆☆☆)
やっぱりアシモフでしたね。
でも、私は『われはロボット』だと思ってました

SFのこと知らないって言ってたけど、よく知ってるじゃない?

SF好きの友達が

「賭けてもいい! 森谷先生のナンバーワンは絶対『アイ・ロボット』よ!」

って言ってたので(笑)

私の父なら、たぶんその通りだと思うよ。(笑)
アシモフは他にも『ファウンデーション・シリーズ』が有名だけれど、彼が描いた「銀河帝国」というアイディアは、その後に宇宙戦争を描いたSF小説や、『スターウォーズ』をはじめとする映画やアニメの原点らしいね。ただ、私は宇宙に行ってまで階級闘争や戦争を見たくないし、本当のことを言うとSF小説はつまみ食いで、銀河帝国と名前に付くものはあまり読んでないんだ
お忙しい先生にとって、専門外のSF小説を網羅するのは難しいことだって理解してるつもりです
フォローしてくれてありがとう
『バイセンテニアル・マン』って「二世紀生きた男」って意味ですか?
そう。「200年生きた男」
200年かけてロボットが人間になる話——と言ったらわかりやすいかな?

あ! それDVDで映画観ました!

『アンドリューNDR114』だね?

そうそう。確か、そんなタイトル
『アンドリュー〜』は、ロバート・シルヴァーバーグが長編化した話をベースにしてるみたいだけど、映画の話はまたあらためて話そう
はい
ちょっと予想は外れたけど、でもやっぱりロボットなんですね

アシモフのオリジナルは中編小説なんだ。

『われはロボット』から四半世紀以上経って、彼が五十代のときに書いた作品なんだよ。

1977年にネビュラ賞とヒューゴー賞の中編小説部門を受賞してる。

最初の翻訳は1978年に『SFマガジン』に掲載されて、その後に短編集『聖者の行進』に収録された。ただ、今出版されているのはロバート・シルヴァーバーグが長編化したものだけで、オリジナルを含む『聖者の行進』はなかなか入手できないみたいだね。

なんとなく先生の少年時代が想像出来ます
期待を裏切って悪いけど、実は私がこの小説……というよりアシモフを読んだのは大学生の時、それもロボット工学を専攻するようになった二十代からだよ
そうなんですか!?
父親と同じフィールドでは勝負にならないと思ってたから、少年時代はロボットから遠いところに自分を置いていた。小説も映画もできるだけロボットは避けてたんだ

「偉大な親を持つと大変」って児童教育の教授の娘が言ってました。

森谷先生のお父様は、昔から世界的に有名な方ですよね。今は先生ご自身も有名でいいらっしゃるけど

実は、最初は農学部に進学したんだ
え〜? 意外です
農学部で未来の農業について研究を進めるうちに、農業こそロボットを必要としてるって気づいて、工学部に入り直したんだよ
なるほど!
その時に父が、アシモフの『われはロボット』と『ロボットの時代』をプレゼントしてくれた
やっぱり!
じゃ、当たらずと言えども遠からずですね

そうだね。

アシモフは、ロボット工学の基礎とも言える「ロボット工学三原則」を最初に提唱した人だからね

ロボット工学三原則?

「人間への安全性」「命令への服従」そして「自己防衛」の三原則。

一般に「ロボット三原則」とも言われる

じゃ、ロボットが人を襲うのは有り得ないことなんですか?
アニメや映画では、原則を守らないマッドサイエンティストや、犯罪組織の手先みたいな科学者も出てくるけど、基本的に私たちロボット工学に携わる人間は、決して軽んじてはいけない「ロボットや人工知能の倫理規則」と考えている
勉強になります!
アシモフは自分が生み出した「ロボット工学三原則」を自分自身で逆手に取って、『鋼鉄都市』や『はだかの太陽』といったSFミステリーも書いてるんだ
SFミステリー?
SFをベースに、ロボットが絡む殺人事件を解き明かすミステリーなんだよ
へぇ? 面白そう!
読んでみると、きっと面白いと思うよ。
『聖者の行進』は自分で買った本だけど、アシモフがロボットを描いた小説の中で一番気に入った。特にこの『バイセンテニアル・マン』は、ロボット自身が三原則の一つ「命令への服従」を破る話なんだよ。それで私は、より人間に近いロボットを夢見るようになったんだ。

この小説が先生のロボット工学の原点なんですね?

ロボット工学というより、ロボットを超える存在の原点かな?
アンドリューは自分を主従関係から解放するために裁判を起こすんだ。人間として認めて貰うための裁判というのが実にアメリカ的だけど、その動機が奴隷解放に繋がるところもまたアメリカ的だね。

SFって、意外と社会性というか、政治的、思想的なメッセージが込められてるんですね

そうだね。それがあまり強すぎると面白くなくなるけど、アシモフはそれほどあからさまじゃない。

父の時代は人とロボットが主従関係だったけど、この小説で描かれているのは、今当に私が実現しようと取り組んでいる「ヒューマノドロイド」のテーマなんだよ。

ヒューマノドロイド?
ヒューマノイドじゃないんですか?

先日書き上げたばかりの著書で、初めて解説した私の造語だ。

人間と区別がつかないアンドロイドを「Human o'droid」と名付けたんだ。

直訳すると「ドロイドによる人」或いは「ドロイド人」と言ったらわかりやすいかな?

ドロイド人!

私のアイディアの中では、人とヒューマノドロイドは対等な関係なんだ。

そして、彼らは人と同じように最初から寿命を持っている。

だから、三原則の「命令への服従」や「自己防衛」は絶対ではない

へぇ? 面白そう
「人間への安全性」だけは絶対に外さないけどね。
これ以上話すと、小説を読んだときに面白くなくなるから、話はこの辺にしておこう
いろいろとお話しくださって、ありがとうございます
面白かったです。勉強になりました
今、書店では購入できないみたいだけど、もし短編集の『聖者の行進』を図書館とか古書店で見つけたら、是非読んで欲しいな。表題作のオチも微笑ましいし、『バイセンテニアル・マン』以外にも面白い話が収録されてるから。

はい! 見つけたら必ず読んでみます!

ところで先生、次はどんな小説ですか?

ベスト3は自分にとってどれも甲乙付けがたい小説なんだけど、3つめに紹介するのはある意味でSFの王道かな?
なんでしょう? ドキドキしますね
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登場人物紹介

長谷川裕美

女子大の家政学部で児童教育を学んでいる。

本が大好きで、3大ファンタジーや『ハリーポッター』は特に好き。
でもSFはちょっと苦手かも

馬場俊祐
都立高校普通科の2年
中2までは漫画以外自分から読んだことなかった。
ラノベはよく読むけど、最近純文学や文芸小説にも興味を持ち始めたところ

森谷幸弘
インペリアル・カレッジ・ロンドンでロボット工学とAIの研究を進めている工学博士。

実はSFをはじめ小説は大好き。

自身も若い頃にSF小説を書いたことがあるとか?


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