その11『転生』と平井和正

文字数 2,155文字

『転生』平井和正(お薦め度☆☆☆☆☆)
この小説、☆5つですよ!?
この作品は私の青春の思い出なんだ。☆はその分がプラスされてるかな?

それはお話を伺うのが楽しみです。

でも……確か、次回は今までと違う切り口で説明してくださるって仰ってませんでしたか?

実は、昭和の時代の日本のSF作家をまとめて紹介しようと思ってたんだ。

でも、平井和正と筒井康隆は私にとって思い入れが強くてね。

だから二人は単独で紹介することにしたよ


ありがとうございます。

『転生』ってタイトルが、ノベルデイズの2000字小説コンテストとピッタリですね!

異世界転生の話なんですか?

いや、異世界じゃないんだ。

短編小説だけれど、昭和40年代の作品だから今の異世界転生ファンタジーとは世界観が全く違うしね

タイトル見て、僕はラノベかと思いました

ライトノベルがまだ生まれる前だけれど。

確か平井和正は、それまで単行本から文庫化されるのが当たり前だった時代に、文庫本に新作を書き下ろした最初の作家だった筈だよ


へぇ?
それに、オンラインノベルの先駆者的な人でもある。インターネット以前のパソコン通信の時代にオンラインで小説を書いたからね
なんだかすごい人なんですね。
私は読んだことないんですけど、かなり有名な方ですよね?
日本最古のSF同人誌『宇宙塵』のオリジナルメンバーの一人だよ。他には星新一、小松左京、筒井康隆、光瀬龍をはじめ錚々たるメンバーが名を連ねていた。
ただ、SF小説だけではなかなか食べていけなかった時代ということもあって、私たちの世代だと『週刊少年マガジン』に連載された『8マン』の原作者として広く知られてるんだ。『8マン』はその後『エイトマン』としてテレビアニメ化されて、『鉄腕アトム』や『鉄人28号』と並ぶ大ヒットになった。子供達には作画を担当した桑田次郎の方が名は知られていたけどね
『エイトマン』って、なんか聞いたことある……
それじゃ『幻魔大戦』はどうかな?
知ってます!
作画は石ノ森章太郎だけれど、『幻魔大戦』も原作は平井和正だよ
そうなんですか!?
他にも坂口尚が作画した『ウルフガイ』の原作もそうだし、『ウルフガイ』はその後小説に書き直している
そんな平井和正さんが書かれた『転生』はどんな作品だったんでしょう?
手元にないので不確かだけど、私が読んだ時は、短編集の『悪徳学園』に収録されていたと思う
『悪徳学園』? なんかすごい名前……
『悪徳学園』は、後に『ウルフガイ』に発展するシリーズの原点的な作品だ。その作品が収録された短編集の中の一つだったはずだ、『転生』は。
受験勉強を終えて、合格発表を待っていた高校時代の最後に読んだ作品だからすごく印象に残ってるんだけどね、自分で買った本ではなく同級生の女の子が貸してくれたんだ
へぇ? それで先生、どんなお話なんですか?
内藤由紀と野村みどりという女子高生二人と江島君という長身の同級生のバス停でのやりとりから話が始まる。
登場人物が自分と同じ西武線を使ってたり、同世代の高校生のごく日常的な会話がSFっぽくなくて、逆に印象的だったんだ
へぇ? 高校生なんだ
そうなんだ。ただ、三人は大きな交通事故に巻き込まれてしまう……
それで転生するんですか?
ちょっと違うんだけれど……この先はネタバレになるから言わないでおこう
すぐに転生しないとしても、SFだから普通の話にはならないですよね?
ストーリーは明かせないけれど、とても切ない話ということだけは言っておこう
先生が☆5つ付けるくらいですから、きっと面白い作品なんですね
実はつい最近、日本SFの傑作選の文庫本で読み直したんだ。
昔読んだのは受験でバタバタしていた時期だったうえに、本を貸してくれた内藤由紀って子にすぐに返してしまったから、ずっと手元に無かったんだよ

内藤由紀さんって……?
そう、よく気がついたね!
「森谷君SF好きでしょ? この小説知ってる? 『転生』って言うお話読んでみて。私が出てくるの」って言いながら貸してくれたんだ
え? ほんとにその子なんですか?
まさか!? でも、もしかして小説のモデルになった方……ですか?

いやいや、単なる偶然だけどね
なーんだ
実は……私はその内藤さんが好きだったから、この『転生』を読みながら、江島君になりたいと思ったんだよ
うわぁ!
そう言う意味で、先生の青春なんですね
まぁね。でもちょっと恥ずかしいな
その内藤さんとは付き合ったんですか?
大学進学後に一回デートしたけれど……それで終わってしまったんだ
え〜? 残念ですね
きっと僕が未来の農業の話ばかりしてたからかな?
パスタ食べながら小麦の話したり、ソフトクリーム食べながら乳牛の話したりね
あ〜なるほど。
でも先生らしいですね
もうちょっと後なら少し気の利いた話もできたかもしれないけど……
この人の小説他にも沢山ありそうですね

そうだね。『ウルフガイ』は高校生の犬神明が主人公だし、私も高校時代に読んだよ。

それに、私が買った傑作選にも収められている長編の『サイボーグ・ブルース』は、当時流行していたハードボイルドの単なるSF版じゃなく、批判や皮肉も交えながら描かれたサイボーグの黒人警官の話だから、時間があったら読んでみても良いかもしれないね。高校生にはちょっと過激な部分もあるから、二年後くらいに?(笑)

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登場人物紹介

長谷川裕美

女子大の家政学部で児童教育を学んでいる。

本が大好きで、3大ファンタジーや『ハリーポッター』は特に好き。
でもSFはちょっと苦手かも

馬場俊祐
都立高校普通科の2年
中2までは漫画以外自分から読んだことなかった。
ラノベはよく読むけど、最近純文学や文芸小説にも興味を持ち始めたところ

森谷幸弘
インペリアル・カレッジ・ロンドンでロボット工学とAIの研究を進めている工学博士。

実はSFをはじめ小説は大好き。

自身も若い頃にSF小説を書いたことがあるとか?


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