16 王の初めての恋人

文字数 716文字

いつまでも御前に伺候しない息子、カルロスにじれて、王 自らが、牢獄へやってきた。

倒れているロドリーゴを見て、王は、自分が放った放った暗殺者(アサシン)が、隠密理に死刑を執行したことを知った。

「とうとう死んだか。わしが、身も世もなく愛した男であったのに。ロドリーゴ・ボーサは、ただひとりの、信頼できる臣下だった。わしの初恋人であったのじゃ……。* それなのに、王であるこのわしを、いともたやすく裏切りおって……」

「殺したのは、あなただ!」
「そいつは、フランデルンの賊臣どもと結託し、このわしを裏切ろうとした。王妃に懸想し、その罪を、お前になすりつけた」
「違う! あなたが殺したのは、この上もない、偉大な男だ。未だかつてない不当な殺人が行われたのだ! ロドリーゴは、高潔で、潔白な男だ!」
「カルロス。わしとて、この男の器の大きさを知っておるぞ。だが、反逆は許さぬ。それは、王として……何をしておる、カルロス!」
「見ればわかるだろう。屍体ロドリーゴに添い寝している」
「添い寝だと?」
「僕はもう、一生、起き上がらない。ずっと、ずっと、この屍ロドリーゴと一緒にいる!」
「何を馬鹿な! 屍はいずれ腐り、やがては塵となって崩れ落ちる。それなのにお前は、ずっと、牢獄に引き篭もって暮らすつもりか!」
「その通りだ。ここは、僕の墓場だ」
「この痴れ者が……許さんぞ!
「王よ。思い知るがいい。偉大な男と共に、あなたは、後を継ぐ王子をも、失ったのだ。もう、父でもなければ子でもない。これからは、たったひとりで生きて行くがいい。だが、あなたの王国を、その富を、引き継ぐものはいないのだ」



注)この時点で、父のフェリーペ2世には、カルロス以外の息子はいなかった。

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登場人物紹介

ドン・カルロス


イスパニア(スペイン)の王子

カルロスの子ども時代

ロドリーゴ・ボーサ侯爵


カルロスの親友



ロドリーゴの子ども時代

フェリーペ2世


イスパニアの国王。カルロスの父。暴君

エリザベト王妃

フランス王室出身。はじめ、カルロスの婚約者だったが、カルロスの父、フェリーペ2世と結婚し、カルロスの「母」となる

エーボリ公女


カルロスに恋していたが、カルロスが王妃を愛しているとわかり、敵になる

レルマ伯爵

カルロスの忠臣

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