7 まるで囚われ人のように……

文字数 756文字

フェリーペ2世は、息子のカルロスを疑っていた


王はまた、自分の白くなった髪に劣等感を抱いていた。若い王妃にふさわしいのは、実は息子の方だったと思うと、たまらない気持ちになった。

「父上。農民共の一揆は、日毎に激しいものとなっております。どうかこの私を、フランデルンの一揆鎮圧に、派遣して下さいませ」

久しぶりに会った息子が、願い出た。


その、若々しく生い茂った髪、シミひとつない白い肌を見ていると、王の心に、どす黒い感情が湧き上がってきた。

 「何を、馬鹿な。なぜこの儂が、イスパニアの王たるこの私が、己の精鋭部隊を、お前の支配下に渡さねばならぬのだ。儂は、刃を刺客の手に委ねるようなことはせぬ」

「情けないことを……私にはそのような気持ちは、みじんもございませぬ」


息子は、声をつまらせた。

「フランデルンの民は、私を慕ってくれております。必ずや、うまく、暴動を沈めてご覧にいれます。なにとぞ、私を、フランデルンへ……どうぞ、お情けを」

「ならぬ」

「父上。過ぐる年月、私は、ここ、イスパニアで、イスパニアの王子と生まれながら、まるで、よそ者のように暮らしてきました。父上の国で、いつかは自分が治める筈のこの国で、まるで、囚われ人のように暮らして来ました……」

「お前の血は、熱すぎる。その血の暴走を、儂は、恐れている」

「いいえ! いたずらに、23年の月日を重ね、今、私は、血が沸き立っております。お願いでございます。この身を、フランデルンへ! 無益に過ごした今までの月日を、贖わせて下さいませ。天から授かった私の才覚を、なにとぞ、目覚めさせて下さいませ。機会を! 名誉ある働きを、どうぞ、この身に!」

「ならぬといったら、ならぬ」

王は立ち上がった。

「王の怒りに触れまいと思ったら、その言葉は、二度と、繰り返すな!」

……。
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登場人物紹介

ドン・カルロス


イスパニア(スペイン)の王子

カルロスの子ども時代

ロドリーゴ・ボーサ侯爵


カルロスの親友



ロドリーゴの子ども時代

フェリーペ2世


イスパニアの国王。カルロスの父。暴君

エリザベト王妃

フランス王室出身。はじめ、カルロスの婚約者だったが、カルロスの父、フェリーペ2世と結婚し、カルロスの「母」となる

エーボリ公女


カルロスに恋していたが、カルロスが王妃を愛しているとわかり、敵になる

レルマ伯爵

カルロスの忠臣

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