8 廃院での密会
文字数 1,379文字
「カルロス王子。なにゆえ、このようなうらさびしい僧院へ、私を呼び出したのです?」
「密会 だ、密会! 密会 は、寂しいところでするものだろ?」
「言葉の間違いは、王侯として、恥ずかしいですよ。あなたはいずれ、このイスパニアの国王となられるお方なんですから」
「うん、気をつけるよ。ちょっと浮かれてただけなんだ」
「だって、フランデルンのことは、二人だけの秘密 だろ? 王は、フランデルンの反乱を、警戒しておられる。彼の地への手紙は、ことごとく、王の手に入る仕組みになっているくらいだ」
「で、司令官の件は、どうなりました? 鎮圧軍の司令官には、なれましたか?」
「なあ、ロドリーゴ。敬語はなしにしようよ。僕らは、親友だったはずだ」
「ですが、ここは、自由な大学とは違います。あなたには、王子としてのご身分がおありだ」
「だからって、そんなに堅苦しくすることないだろ? そうだ! 人がいる時は、『家来と主人ごっこ』 をしてると思えばいいんだよ」
「うん。仮面舞踏会だから、しょうがないんだ。そう、思うんだ。僕が「主人」役 で、お前が「家来」役 な。あ、あくまで「役」だからな」
「でも、仮面の陰から、僕はお前に目で合図をするよ。そしたら、お前は、通りすがりに僕の手を握らなくちゃならない。そうやって、お互いの心を通わすんだ」*
「ロドリーゴ、そんなにがっかりした顔をしないで! 僕が、何をやってもダメだってことは、昔から、知ってるじゃないか。昔……子どもの頃から!」
「だって、お前の仕打ちはひどかったよ。お前は僕の心を斥けてばかりで、いつだって、胸の千切れるような悲しい思いを、僕にさせてばかりいて……。それなのに、僕は、どうしても、お前から離れることができなかったんだ。僕は、いつだって、お前の 愛 を乞い求め、お前に僕のこの 愛 を押し付ける為に、つれないお前の元に、戻ってきたんだ……」*
「お前がやっと僕を見てくれて、……あの、伯母上の矢の事件の時……、僕が、どんなに嬉しかったか、わかるかい?
それなのに、僕はまた、失敗して、お前に嫌われるんだ」
「そんなことはありません!
あの時、私は、誓ったのです。一生、殿下のおそばにいる、と。
フランデルンの件については、また、次の作戦を考えましょう」
「つまりね。僕のことを『お前』と、呼んでくれないか?」
「だって、僕は、羨ましいんだ。お前と同じ身分の者が、お前と親しげに呼び合っているのをみると、羨ましくて妬ましくて、どうしようもない。お前がもし、僕のことを同じように呼んでくれたら、僕もお前と同じ人間だ、って、思えるような気がするんだ……。*
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