8 廃院での密会

文字数 1,379文字

「あ! やっと来た!」
「カルロス王子。なにゆえ、このようなうらさびしい僧院へ、私を呼び出したのです?」
密会 だ、密会! 密会 は、寂しいところでするものだろ?」
「カルロス様……なんだか、楽しそうですね」
「うん! お前と 逢引き!」
「それは、違います」
「あ、間違えちゃった(ペロッ)
「言葉の間違いは、王侯として、恥ずかしいですよ。あなたはいずれ、このイスパニアの国王となられるお方なんですから」
「うん、気をつけるよ。ちょっと浮かれてただけなんだ」
「浮かれてた?」
「だって、フランデルンのことは、二人だけの秘密 だろ? 王は、フランデルンの反乱を、警戒しておられる。彼の地への手紙は、ことごとく、王の手に入る仕組みになっているくらいだ」
「で、司令官の件は、どうなりました? 鎮圧軍の司令官には、なれましたか?」
「なあ、ロドリーゴ。敬語はなしにしようよ。僕らは、親友だったはずだ」
「ですが、ここは、自由な大学とは違います。あなたには、王子としてのご身分がおありだ」
「だからって、そんなに堅苦しくすることないだろ? そうだ! 人がいる時は、『家来と主人ごっこ』 をしてると思えばいいんだよ」
「『家来と主人ごっこ』ですって!?」
「うん。仮面舞踏会だから、しょうがないんだ。そう、思うんだ。僕が「主人」役 で、お前が「家来」 な。あ、あくまで「」だからな」
「はあ」
「でも、仮面の陰から、僕はお前に目で合図をするよ。そしたら、お前は、通りすがりに僕の手を握らなくちゃならない。そうやって、お互いの心を通わすんだ」
「……。それで、司令官の件は」
「……ダメだった
「はあ(ためいき)」
「ロドリーゴ、そんなにがっかりした顔をしないで! 僕が、何をやってもダメだってことは、昔から、知ってるじゃないか。昔……子どもの頃から!」
あなたは、ダメなんかじゃありませんよ!

「だって、お前の仕打ちはひどかったよ。お前は僕の心を斥けてばかりで、いつだって、胸の千切れるような悲しい思いを、僕にさせてばかりいて……。それなのに、僕は、どうしても、お前から離れることができなかったんだ僕は、いつだって、お前の 愛 を乞い求め、お前に僕のこの 愛 を押し付ける為に、つれないお前の元に、戻ってきたんだ……」

「殿下、子どもの頃の話は、もう……」
「お前がやっと僕を見てくれて、……あの、伯母上の矢の事件の時……、僕が、どんなに嬉しかったか、わかるかい?

それなのに、僕はまた、失敗して、お前に嫌われるんだ」

「そんなことはありません!

あの時、私は、誓ったのです。一生、殿下のおそばにいる、と。

フランデルンの件については、また、次の作戦を考えましょう」

「なら、お前は、ずっと、僕のものか?」
「永久に。その言葉の意味の果までも」
「だったら、なあ、もうひとつ、頼みがある」
「はい?」
「さっきの続きだ」
「さっきの?」
「つまりね。僕のことを『お前』と、呼んでくれないか?」
「それは……」
「だって、僕は、羨ましいんだ。お前と同じ身分の者が、お前と親しげに呼び合っているのをみると、羨ましくて妬ましくて、どうしようもない。お前がもし、僕のことを同じように呼んでくれたら、僕もお前と同じ人間だ、って、思えるような気がするんだ……。
「……」
「勇気が持てる気がする!」
「わかった。わかったぞ、カルロス」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ドン・カルロス


イスパニア(スペイン)の王子

カルロスの子ども時代

ロドリーゴ・ボーサ侯爵


カルロスの親友



ロドリーゴの子ども時代

フェリーペ2世


イスパニアの国王。カルロスの父。暴君

エリザベト王妃

フランス王室出身。はじめ、カルロスの婚約者だったが、カルロスの父、フェリーペ2世と結婚し、カルロスの「母」となる

エーボリ公女


カルロスに恋していたが、カルロスが王妃を愛しているとわかり、敵になる

レルマ伯爵

カルロスの忠臣

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色